第百一話…… 『最終章、 上編・1』
広い、 ここが……
「甘樹シェルターのトレーニングルーム、 すげぇ、 筋トレしたり、 走ったり、 ……何だあれ」
色んなトレーニングを行う人でごった返して居る、 しかし狭くは無い、 十分に広さは確保されている
うっ……
(……あの人俺の事見てない? いや、 気のせい……)
ドスドス
!?
(……うわ、 何かごついおっさんがこっちに歩いて来たっ)
これって、 もしかして……
「おい若造っ! 見ねぇ顔だな、 てめぇここが何する場所か分かってやってきたんだろうなぁ?」
わっ!
(……これ異世界の冒険者ギルド入ったら一番最初に起こるイベントだっ!)
まあここは穏便に……
「あっ? 何だおっさんいきなり? ここに来れば人をぶん殴れるって聞いてやっきてたぜぇ」
おっさんのガンが突き刺さる
「舐めてんなガキっ! ここは正式な木葉鉢救助隊の使用するトレーニングルーム何だよ、 テメェみたいなイキリ強いガキはお呼びじゃねぇんだよっ!」
はぁ?
「下っ端が、 それを決める権限なんざ持ち合わせてねぇだろ、 だいたい何だよ木葉鉢救助隊って、 ははっ、 名前きもっ」
プチンッ
「ガキ、 勘違いするなよ、 今はてめぇらなめたガキを守ってくれる世界じゃねぇんだぜ? 」
えへへへっ
「何言ってんだおっさん、 それは今まで守られて来た側の人間の考えだろ、 時代感謝しろ、 てめぇらみたいな雑魚でも生きる理由が貰える世界なんだからな、 あはは」
そりゃどっちかっていえば元の社会か……
グリッ
「ガキが、 殺すぞ」
「忠告どうも、 予め言葉にしとかなきゃ行動に移せない所が雑魚だって言ってんだよ、 クソジジイ」
ああああっ!
「てめぇガキがっ! ぶっころっ!!」
あぁ、 さぁ来い! 望み通り戦い方を教えてやるやっ!
あははっ
深い怒りを浮かべる相手の男と、 深い笑を刻む日暮、 しかしその衝突の瞬間、 相手の男が音を立てて……
ボガンッ!
「っ!? うがぁ!」
吹き飛んだ………
?
「おい直治、 世界が変わった事を理解してねぇのはてめぇの方だ、 お前が所属してた組はもう無い、 人は平等だ、 拳振るってるだけのこの仕事で人の上に立った様な気になるなよ」
まあそれは組やってた時も同じだがな……
と、 気が付くとそこに立っていた男が最後にそう吐き捨て吹き飛ばしたおっさん、 直治というらしい、 を見下ろす
おっさんは頬を抑えている、 殴られたんだ、 見えなかった……
「っ、 そうは言っても雷槌さん、 こいつめちゃくちゃ態度悪いですよ」
おっさんは雷槌さんと言う人には頭が上がらないらしい、 喋り方すら三下の様になっている
こちらを指差し言い訳の様に口を動かすおっさんに向け雷槌さんは鋭い口調で語る
「世界は変わった、 だが俺達は人の為に戦っている、 世界は変わったが、 人が捉える世界に対する捉え方は変わってない」
「つまり…… 最初に絡んだのは直治、 お前だろ? 年長が年下見下して絡んでんじゃねぇ、 それは変わらねぇぞ、 ここに居る限りはな」
うぅ……
睨みの効いた雷槌の目におっさんは萎んでしまう、 日暮は雷槌を見る、 背が高い、 百九十近く有るか?
良く見れば顔にはシワが浮かんでいる、 こっちもおっさんだ……
ギロッ
雷槌の睨みは今度日暮を刺す、 おっさんと違うのは日暮は怯まない所だが
「君もだ、 明山日暮君、 藍木山攻略戦ぶりだな、 体の心配をしたりはしない、 元気が有り余って居るのは見れば分かるからな……」
で
「君は確か今、 極力問題を起こさない事を土飼から言われている筈だが? 直治に絡まれ抑える事はしないのか?」
あぁ……
「そうでした、 忘れてたよ、 反射的に言い返してたわ、 憧れの展開だったからさちょっと楽しくなっちゃって」
そうか……
「それなら…… 来い、 取り敢えず見てやるお前の事を」
雷槌は半身に身を引く、 構えたな、 土飼さんの名前を出して思い出したが、 この人がここのトレーニングルームを管理してる、 雷槌我観さんか……
スー
悩むような事はしない、 日暮も大雑把に構える、 息を吸う、 血が巡って、 戦闘の思考が脳を麻痺させる
殺す……
っ
ドスッ!!
?
……………………
「っち、 ああっ!!」
雷槌の拳は既に日暮に届いていた、 しかも正確にこちらを落とす様、 顎周辺に打ち込まれた拳
開始の合図が無かったとは言え、 その速さは日暮の意識を超えていた
落ちそうな瞬間思い切り舌を噛んで痛みで意識を繋いだが、 それで良い回復するから
(……とは言え舌噛むの痛え…… 治った)
ならばもう一度睨む、 敵……
あれ? どこ行った…………
いや、 この感覚、 前にも………………
フッ!
ドスンンッ!!
「っ! ははっ、 やっぱ沈んで腹狙いかっ! 今のは読めたぜっ!!」
日暮は笑う、 雷槌が消えたと思った、 しかしそれは視界の端に逃れ一瞬で肉薄する事で日暮の意識の外に外れたという事
これは以前、 この街で戦った男、 柳木刄韋刈が一発目、 腹を貫いて来た動きと似ていた
だから、 息を吐いた、 腹というのは息を吸えば風船の様に膨らむ、 そうすると腹と腹筋の間に大きな間が生まれる
それを押し込まれると一気に空気が抜け、 それにより力が抜けるし、 腹へのダメージは大きくなる
逆に息を全部吐けばぶつかった所が腹筋だ、 来るとわかってれば覚悟も決まる、 つまり……
(……腹で受けた、 腹を貫通する様な一撃じゃなきゃ耐えられるからなっ!)
雷槌は懐の中、 接近、 引き付けて……
「らっ、 せいっ!!」
日暮の蹴り、 最高角度で叩きつける……
バンッ!
っ
雷槌は足を上げている、 カットされている、 上手い、 やり方が決まってる奴の……
(……あっ、 多分この人格闘技経験者だ)
ドンッ!!
「うげっ!?」
雷槌の前蹴り、 蹴りをカットされた日暮の体制の悪さと、 切り替えの遅さ、 そこに刺さる蹴り、 日暮体が後ろに吹き飛ぶ
ドサッ!
ちっ!
「っ、 あああっしゃ!!」
叫んで立ち上がる、 また居ない、 いや居る筈だ、 何処だ早く捕捉を……
ドッ!
「げっ!?」
無意識的に漏れた悲鳴で敵の拳が顔面、 頬骨辺りに当たった事を理解、 そして……
ドスッ! ドンッ! ボスンッ!
正確に刻まれるジャブ、 めちゃくちゃ上手い、 速さもそうだが、 一発一発打ち込む拳によって生まれた死角に次の拳を打ってくる
(……やばい、 何かでかい一発、 狙って止めなきゃ、 ここで落とされる)
っ
バッ!
「ていっ!」
地面に飛び込むように余りに大袈裟すぎる回避、 地面を転がるように、 余りにもやり過ぎだ
体制は更に悪くなるし、 凌げるのもこの連撃だけだ、 もう一度詰められれば同じ事になる
だがある意味効果はあった、 雷槌は格闘技経験者だが、 彼の思考は常にそこで培われたもの、 試合で地面を転がってこんな無駄な動きをする奴は居ない
つまりこれは、 対モンスターに対して行うやり方、 明山日暮は今自分を狩るモンスターだと認識している
ここは警戒して……
………
否
「流れを切る為だけの無意味な動きだったなっ! プロの目には誤魔化されねぇぞっ!」
その通り、 日暮のアホくさい大袈裟回避に意味は無かった、 考える暇すら無かった、 一時的に流れを切る為だけの動きだった
だが、 そもそも考えのある動きを日暮はしない、 どちらかと言えば感覚派、 あとはもう、 振り切るだけ
バンッ!!
地面に伏せた体制から大きく飛び上がる、 見えた、 さっきと同じ位置、 雷槌はそこに居る……
「ぁぎあああっ!! 死ねクソジジイっ!!」
ドロップキック、 余りにもアホくさすぎる、 雷槌も笑う
「馬鹿がっ! 冷静さを欠いたなっ! てめぇの命はここまで……」
雷槌は言葉をそう紡いで、 途中で気が付く、 明山日暮の目、 その目から力の波動を感じる、 空中の明山日暮が手を前へ……
「ブレイング・バーストッ!!」
っ
雷槌は藍木山攻略戦に参加してたから知っている、 能力と言う存在、 そして日暮のブレイング・バーストの威力
この距離……
(……やられた、 そりゃそうだ)
これこそ、 明山日暮、 この距離で喰らえば吹き飛んで即死も有り得る
(……終わったな)
………………………
スタッ
地面と着地する日暮、 日暮は拳を構える
「引っかかったな! 叫んだだけっ……」
ドスッ
「うげっ!?」
日暮はカエルの潰れたような声を出しそのまま倒れた、 見上げると雷槌は空手で言う残心を取っている
あぁ……
「負けた……」
日暮は敗北を示すように背中から仰向けに大の字で寝転がり、 笑う
「あはははっ、 おっさん強いな、 何? 格闘技の経験者なの?」
「そうだ、 プロもやったぞ、 最近じゃトレーナーやってた、 あと雷槌だ、 おっさん呼びはやめろ」
日暮は起き上がると、 目の前に差し出された手を握る、 握手で挨拶を交わす
「ようこそ、 無法者、 お前の腐った根性は叩き直してやらなきゃいけないな、 だが、 お前から学ぶ物も有りそうだよろしくな」
あぁ、 厳ついおっさんだけど、 割といい人そう………
「っ、 ちょっと、 待ってくださいよ雷槌さん! その無礼なガキ、 まさか調査隊に招くつもりですか?」
ん? あぁ、 さっきの三下おじさんだ
「直治、 こいつは調査隊のメンバーだぞ、 と言っても藍木の方のな、 お前は藍木山攻略戦に参加しなかったんだよな」
こっちに残った人だったわけだ、 どうりで全く見た事ない訳だ
「だが、 報告はあっただろ、 明山日暮、 木葉鉢からも支持されてる、 この街を守る為に戦った男だってな」
あぁ……
ポカンとする直治、 しかし思い出した様に声を上げる
「だとしたら今話題の! 変態野郎っ!」
あ?
「おい直治、 こいつはんな事してねぇ、 俺は詳しくは知らねぇ、 だが今このシェルターを運営してる上の連中は全員この明山日暮を信じている」
「んなの! 何かした筈だ、 簡単に考え付く、 ずるい手を使ったとか……」
…………………
「お前、 木葉鉢の事も疑うんだな、 ここで腐ってくだけだったお前に救いの手を差し伸べてくれた木葉鉢すらも疑うんだな?」
あっ
「あっ、 いや、 木葉鉢さんは別と言うか…… その…… と言うかそんなやつ招いてどうするんすか、 ボコボコされてた雑魚ですよ?」
はぁ……
「お前より強ぇよ、 勘違いするなよ、 そもそも今回は俺の土俵で戦って貰ったから勝てただけだ、 明山日暮が腰のナタ抜いて能力有りの戦い仕掛けてきたら、 俺はモンスターの様に狩られるだけだ」
「わかったらトレーニングに戻れ、 やる気ねぇなら帰れば良いがな、 見てみろ、 手が止まってるのはてめぇだけだ、 直治っ」
おじさんは周りを見渡して、 セコセコと筋トレに勤しむ仲間を見てここから離れて行った
「さて、 悪かったな、 土飼から話は聞いてる、 おめぇ、 あの柳木刄韋刈と殺り合ったんだろ?」
知ってるのか
「ええ、 クソ強かったです、 腹に二度も穴が空きましたけど、 まあ、 結果的に助かっただけで、 俺の負けでした」
そうか……
「奴は基本的に武術を習っていた経験は無いが、 まだ有名になる前に内の稽古場に遊び来た事があった、 その時から奴はとんでもない奴だった」
雷槌は歩きながらその時の事を語って見せた
「サンドバッグ、 吊るされてるの有るだろ? あれに穴開けやがったんだ、 たったの一撃で、 腹を貫かれたってのも信じられる、 中からパンパンに詰まった生地が溢れ出した時には冷や汗が出たよ」
めちゃくちゃ硬くて弾力のあるイメージがある、 あれに拳で穴を開けるってのはやっぱり異次元だし、 やっぱり能力由来じゃない、 能力はモンスターが溢れた世界と同時に生まれた法則だ
「ミット打ちをやらせたんだが、 ミット越しに当たる打撃は、 練習だが全部殺意が篭ってた、 しかも冷や汗が出るんだ、 失敗、 もしくは意図的にミットを外して拳が当たれば、 俺は死ぬとそう思った」
へー
「細かいんだ、 力と言うより技術、 機微な動きと体重移動等で、 力を弱く、 剛力を引き出している、 大胆で鋭い刃だ」
確かに、 戦ったから分かる、 上手さのレベルが違う、 ミスをしない、 全身くまなく叩かれたから分かる
「そうですね、 ……所でなんであいつの話を?」
「奴はまた来るだろう、 この街を襲う組織的な動き、 そこと関係していると上の連中は思っている、 だから俺に頼んで来たんだ」
何を?
「お前の特訓だ、 戦って分かったがお前は対人間に対して弱い、 ここで言う人間とは格闘技を使う様な奴と言う意味だ」
それは、 もうね……
「ど素人ですからね、 俺、 叫んでナタ振るって、 能力撃つことしか脳が無い」
「そうだ、 だからお前には基礎的な練度って奴を積ませる必要がある、 無駄を無くせ、 そうすりゃ元々持ってる物にプラスで良くなる」
願っても無い事だ、 大雑把過ぎて無駄が多いのはわかっていた事だ
「その代わり、 対モンスターはお前から教わる事もあるだろう、 そっちは俺達の方が経験が薄い、 あとそうだ……」
それは予めその予定で来たからそのつもりだが、 なんだ?
「おまえ、 なんでさっき俺に向けて能力打たなかった? 打ったら勝ってただろ?」
え?
「俺、 人殺した事無いし、 理由も無く殺す事は無いと思ってますから」
ふーん
「じゃあお前にとっての理由って何だ?」
そんなの決まってる……
「俺の戦う理由は楽しいからです、 命を掛けた戦いは楽しいです、 生きてるって実感が湧きます、 そして掛けたからには殺します、 それ込みで楽しいです」
でしょ?
雷槌は目を細める、 自分も昔、 格闘技を始めた時似た様な事を考えていた、 勿論殺す気は無いが、 同じ様な気持ちを抱いて戦いに挑む
リングの上で勝てる奴ってのは結局、 それが強い奴だと思っていた、 自分は他人よりその気持ちが強く、 どこまでも行けると思っていた
だが、 歳には勝てなかった、 一見ひ弱そうな若手に初めて負けた時、 その考えは死んだ
これからは自分の時代じゃない、 これからを切り開く奴の時代だ、 だからこそトレーナーになった
だからこそ……
「なら始めるぞ、 お前に戦い方を教えてやる」
グングンと突き進む力に魅せられるのだ、 それを押し上げる事に全力で挑むのだ
………………………………
…………………
……
タンッ タンッ……
ガチャ
「……ここはこうで…… あっ、 鈴歌さん! ここですここ!」
んっ
「はいはーい、 今行くね」
天成鈴歌に手を振って呼ぶを声はフーリカの物だ、 彼女は食堂の机に座って居る、 その隣には日暮の妹、 茜も居た
二人の前には、 机の上に広げられた学習帳や、 参考書等、 主に勉強を行う為の物が置かれていた
こんな世界とは言え、 学生は学生、 現在高校生の茜は勉強を欠かすわけには行かないのが現実
このシェルター内にも学習スペースを設け教職や、 講師に頼み授業を行う事も有るが、 正直足りていないのが現状である
やはりそういう場合は助け合い、 知り合いに頼み学習を行う日々が常、 そして茜は鈴歌に頼む事にしたのだ
鈴歌は茜と同じ県内随一の進学校をトップで卒業、 大学もいい所行ってる、 ほんとなら彼女こそ大事な時期では有るのだが……
まあ、 なんにせよ
「私が教えるからには茜ちゃんにはあの高校でトップ十にはくい込んで貰います、 志しが低い子はおしおきだからね?」
茜は苦笑いする、 つい先日まで毛嫌いしていた彼女に勉強を教わるという事に、 罪悪感が湧いてくるのだ
「天成さ…… 鈴歌さんの方は会議は終わったんですか?」
「ううん、 終わりの無い会議よ、 論点がぐるぐるしてる、 はぁ…… 訳を話したら抜け出せたから、 それで何処まで進んでるの?」
鈴歌は一晩掛けて作り込んだ課題を茜に出している、 それを元に学習をしている所だった
「う~ん、 成程、 基本は掴めてるね、 でもこの辺は弱いみたい、 苦手は徹底的に無くさなきゃね」
あはは……
「塾の先生よりも厳しいですね、 でもお願いします、 頑張って進んだ道ですから、 成績が全てじゃないかもしれないですけど、 それこそトップを目指す意気込みでやります!」
うん
「それでよし…… 茜ちゃんは良いとして……」
鈴歌は茜の隣で同じく画題用紙に向き合うフーリカの事を見る、 彼女は異世界人としてこの世界の勉学に興味があると言っていたので簡単か物をついでに作成し渡したのだ
だが……
「……フーちゃん、 勉強苦手?」
うっ
「いっ、 いいえ? 向こうの学校では中の上位には居ましたよ? ただ、 こちらの世界は大分進んで居ます、 公式ひとつとっても理解が……」
う~ん?
「フーちゃんが言葉を話せたり、 こっちの知識があるのって、 何で何だっけ?」
あぁ
「私の能力は人と知識や記憶をまるっと共有できる力がありまして、 日暮さんとの共有で今こうなっている訳です」
成程…… いや、 その能力普通に怖く無いか?
そう思いながらもフーリカの課題用紙に目を通して行く、 中学生模試ぐらいの構成で、 明らかに分からないと思われる難問を弾いた物だったが……
「最初の足し引きや、 掛け割りの計算問題以外解かれて無いようだけど、 いや間違えてるし、 方程式は? ほぼ掛け算みたいな物だから、 時間は十分あった筈……」
うっ……
「あの…… ごめんなさい、 簡単な計算問題なら私自身の力で全然出来て、 でも図形や、 公式の存在する数学はまだ難しくて……」
ちょっと待って……
「明山日暮の知識を共有したんでしょ? だったら公式位分かる…… いや、 待てよ? まさか……」
フーリカの苦笑い、 そして隣で茜が手で顔を隠す、 嘘でしょ……
「明山日暮は、 この程度問題も解けないって事? 嘘…… いくら何でも馬鹿過ぎない?」
「いやっ、 あっ、 兄は、 その…… 勉強が不得意で、 集中力も人より少なく……」
何だその通知表の保護者の欄に書かれる子供の評価みたいな言い方は……
「高校は何処?」
「えーと、 藍田西高校、 知ってます?」
うわー 藍木の隣町にある田舎の超底辺高校の名前だ……
「入試ギリ三桁で合格できた事に驚いたけど、 蓋を開けてみたら上位の方だったって本人言ってましたよ」
えぇ……
「よりにもよってな奴と知識を共有したわね、 でもフーちゃんは真面目な性格だから良くなる筈、 二人とも頑張るよ!」
「「はいっ」」
課題に向き合う二人に色々と教えながら天成鈴歌の授業は進んでいく、 二人とも集中力のあるお陰でその後一時間程続けた後、 一旦休憩となった
コト
「はい、 鈴歌さんどうぞっ」
「うん、 ありがと」
茜の持ってきてくれたお茶の入った紙コップを受け取ると一口こくりと喉を癒す
それにしても……
「フーちゃんは体もう全然良いんだよね?」
「はい、 日暮さんに傷を治してもらったので、 体力は落ちて居ましたが」
ふ~ん
「日暮さん、 日暮さんって、 フーちゃんはそればっかね、 何がいいんだか、 あ、 妹ちゃんもお兄ちゃんが好きな子何だもんね?」
っ!?
「え! 茜さんも!?」
「ちがっ、 私は家族として好き…… いや、 嫌いになる程じゃないって感じで、 妙な言い方しないで下さい」
はははっ
「鈴歌さんはまだ日暮さんの事が苦手なんですか?」
「ん? 私? 苦手じゃないよ、 嫌いなの、 叩いたのは逆恨みでその事は謝った、 だからもうおしまい、 それをゼロにしても普通にムカつく」
あはは……
「逆に茜ちゃんは好きな人とか居ないの? 可愛いし彼氏とか居るでしょ?」
「居ませんよ、 いた事は有るけど、 長続きもしなかったし、 高校入っても怖い先輩とかから声掛けられたりしたし、 いい思い出無いです」
ふ~ん
「私は男なんて利用する為の道具だったし、 そんなに難しくは考えなかったな、 フーちゃんは?」
「え? 私ですか?」
うんうん
「フーちゃん王女様でしょ? 縁談とか、 許嫁とか居なかったの?」
あ~
鈴歌はキラキラと目を輝かせている、 恋バナとか好きなんだろうな……
「実は居ました、 隣国の王子で、 所謂政略結婚と言う奴ですが、 学院を修学した後に嫁ぐ事になっていました」
うわ……
その時の記憶はありありと思い出せる、 顔も見た事のない様な遠くの王子、 自分の知らない所で勝手に決まった
親同士、 と言うか国王同士が誰も知らない所で酒でも飲みあって決めたのか、 よく言うように本当に政治の道具なのか……
「どんな人なの? 同い年? イケメン? 王子って事は相手もお金持ちな訳で……」
「いえ、 顔を見た事はありません、 でも年は私より十以上は年上で無職、 顔は知りませんが女性からの人気は無かった…… と」
ゾッ
話の意味を理解した様に背筋を凍らせた様な顔に変わる鈴歌、 茜もドン引きしている
「隣国にはその方以外にも正当な兄弟が居てその方に王位継承権があったのですが、 不幸にも病で亡くなってしまい、 件の方をそれなりの地位へと上げる必要があったのです」
「その話を小耳に挟んだ父上様が隣国の王に恩を売る為、 私との縁談を組んで……」
バンッ
?
鈴歌が机を叩く
「最低のクズ親じゃないっ、 王様の事何か知らないし、 文化も違うにしても、 子供を大切に出来ない親は必要無いわっ」
………
「私の為にもなると、 何度も言い聞かされました……」
「はぁ…… 良かったフーちゃんがそんなキモ男の所に行っちゃわなくて、 ここに来て正解だよ、 あんな奴でもフーちゃんが自分の気持ちに正直になれる人と出会えて私は嬉しい」
うん、 それはそうだと思う、 この世界に来たから日暮に会えた、 その事が嬉しい……
「あれ? そう言えばフーちゃんってどうやってこの世界に来たの? そう言えばモンスターも、 何か知ってる?」
っ………………
フーリカの顔に影が刺す、 自分は今何を思った?
自分がこの世界に来たから、 モンスターもこの世界に来たのだ、 そのせいで街は滅び多くの人が亡くなったのだ……
それなのに、 この世界に来たからこそ日暮に出会えて、 その事が嬉しい?
あぁ………
『……俺の苦しい荷物を、 お前が背負ってくれるなら、 お前を苦しめる重荷を逆に俺が持ってやるよ』
会いたい……
「フーちゃん? 何か訳ありだよね、 言わなくて良いからね、 何があっても私はフーちゃんの味方だから」
「よっ、 よく分かりませんけど、 兄の恋人なら、 私の姉? みたいな物だし私も味方ですよ! ……?」
っ
励ましてくれる優しい二人、 と言うか茜に関してはとんでもない事を言ってきたな……
でも……
(……自分の気持ちに正直になれる人か)
ならざるを得ない、 互いに意識しない様にしていても、 二度の共有、 正直も何も隠し事も出来ない程に理解し合ってしまっている
だからこそ、 その相手は彼で良かったのだ、 だからこそ、 思うのだ、 最低と分かっていても、 この世界で彼に出会えて嬉しいと……
「大丈夫ですよ、 私は大丈夫です! 鈴歌さん勉強の続き教えて下さい! 日暮さんに自慢したいのでっ」
「え? ふふっ、 相変わらず素直です可愛いな~ 良いよ、 妹ちゃんもそろそろ再開するよ?」
うん
「お願いします、 鈴歌先生っ」
「良いですねそれっ、 鈴歌先生! お願いしますっ」
全くもう……
「仕方ない、 私はスパルタ指導だよ? ビシバシ行くから…………………」
?
突然鈴歌の言葉が途切れる、 彼女がある一点を睨みつける様に見ていた、 首を傾げる茜とフーリカを他所に鈴歌は立ち上がる
「ごめん、 用事できた、 ひとまず自習で、 すぐに帰ってくるから」
その声は何処か冷たい、 暖かみに溢れた彼女の声と比較して氷のように冷たかった
「え? 鈴歌さん、 何かあったんですか?」
「ううん、 じゃあ行ってくるから、 ……あっ、 茜ちゃんはここ気を付けて、 フーちゃんはこの参考書のこの辺見れば公式乗ってるからね」
最後は飾った様な声を残して鈴歌は歩いて行ってしまった、 追いかけようかとも思ったけど、 そうしなかった……
……………………………………
…………………
……
鈴歌から見える位置に、 彼女の視線を誘う様に立っていた人物は、 彼女の良く知る人物だった
その人物の背中を追いかけながら進む、 やがて彼は足を止める、 足を止めた場所はよくたむろしていた倉庫前の通路だった
はぁ……
「まだ私の周りをネズミみたいにチョロチョロしてるの? あんたも飽きないね、 星之助くん」
「俺は鈴歌の影だ、 離れられないさ、 お前がどこに行こうと俺は常に鈴歌の傍に居る」
はぁぁ………
深い深い溜め息が出る、 我ながら罪な事をした物だ、 そういう風に立ち回って居たとは言えここまで意識されるとは
「それは違うわ、 それだけは違う、 私には私の影がちゃんとあるもの」
鈴歌は自分の影をちゃんと理解している、 闇とも言えるが、 あの薄暗い空間で育ったもう一人の鈴歌、 あれが影だ
はははははは
?
抑揚の無い笑い声が通路に響く、 彼の物だが妙だ、 とても妙な感覚……
スッ
星之助聖夜が鈴歌に、 いやその傍の地面に向けて指を刺す、 影だ、 鈴歌の影
首を傾げる鈴歌を他所に、 影が伸びる、 光源の位置や鈴歌自身が移動した訳では無いのに、 鈴歌の影は星之助の方へと伸びる
何かまずいっ!
バンッ!
身に宿す龍の力、 半人半龍、 彼女は煉華龍、 天成鈴歌、 軽いバックステップでその身は跳ねる、 後方に五メートル程飛んだ
そう思った
グイッ
っ!?
体が引かれる、 腕を思い切り引かれ戻された様な感覚、 何だこれ……
そして気がつく、 さっきの違和感、 伸びだ影、 その形、 影もまた腕を引かれている、 星之助の影が伸びで鈴歌の影を掴んでいる
ははは
グイッ!
影の腕が更に引かれ………
「うわっ!?」
体が前に引かれ転びそうになる所、 前のめりになった体を抱きしめる様に支えられる
「危ないよ鈴歌、 でもまた俺の所に戻って来てくれたね」
この男……
「離せっ! っ……」
振りほどこうとしたのに体が動かない、 影だ、 影ががっちり固定されている、 影が捕まると鈴歌も動けない
厄介な………
(……こいつ能力に目覚めやがったのかよ、 面倒臭いな本当に)
どうにか突破を………
パリンッ パリンッ パリンッ!
音がして、 通路をぼんやり照らす照明が音を立てて割れていく、 闇が迫ってくる……
「闇とは影だ、 夜と言う時間すらこの星の作る影に過ぎない、 おそらく宇宙空間すら、 何かもっと大きな物の作る影なのかもね」
「いずれその大きな影すらも俺になる、 でもまだまだ発現したばかりでね、 この通路全体を覆う影、 今はここが俺の操れる影だ、 でも十分……」
闇すらも影と捉えるならば、 この照明の消えた通路自体が星之助聖夜の能力の術中に過ぎない
誘われたのだ、 この場所に、 術中に……
「君の影に僕の影が触れると、 君の体にも触れている状態になる、 さっきの様に君の影を引っ張ると君の体も引っ張られる、 体感したろ?」
さわ さわ
っ
実際には触れられて居ないはずなのに顔の辺りを撫でる感触がたしかに感じられる、 キモイ
「じゃあ問題、 君の影が、 僕の影の中にすっぽり入っちゃったね? 君は僕の中に居るって事さ、 じゃあこのまま君の影を僕が操って僕の影に完全に取り込んじゃったらどうなると思う?」
「……知らないよぉ、 やめて星之助君、 痛いよ、 ごめんね酷い事言って、 許してよ星之助君……」
猫なで声、 今までにこの声にどれ程の男が惑わされたか、 この状況下ですら星之助の内側にそれは届く
「っ、 だめだよ、 今更そんな声出しても、 本当に傷ついたんだから、 でも答えを教えてあげるね?」
少しだけ火照った様な声で上機嫌に星之助は語り出す
「僕の影の能力だけど、 僕の意識空間の中に影の世界を作る事が出来るんだ、 最近のソーシャルゲームでよくあるだろ? 家具を配置したりして自分の好きな部屋を作れたりする、 あんな感じでね」
「椅子や机を影ごと取り込むと、 影の世界、 『影部屋』にそれらを配置して遊ぶ事が出来るんだ、 はは、 そう、 そんな事に能力のリソースを割いたからめちゃくちゃに攻撃出来たりする能力じゃないんだ」
「僕の影に触れた影を操ったり、 対象を影部屋に取り込んだり、 それで話を戻すと、 例えば人を影ごと影部屋に取り込んだらどうなると思う?」
まさか……
「またまたゲームで例えると、 その部屋にキャラクターを招待して遊べるだろ? あれだ、 取り込んだら人間を影部屋の住人にする事が出来るんだ、 素敵だろ?」
「小さい女の子が遊ぶ何とかファミリー見たいな物さ、 お人気遊びが出来る、 ふふっ、 ははは」
つまり
「ようこそ鈴歌、 君は僕の、 僕だけの影部屋の初めての住人、 初めてのファミリーさ」
あぁ……
「楽しみだな~ 最初は何しよっか? 鈴歌には着せ替え人形になって貰おうかな~ ミス何たらも驚く素敵なショーさ、 あっ、 でもその前に綺麗成らなくちゃ、 お風呂に入ろうねぇ?」
こいつ……
「人形遊びって意外とつまらないよ? 私なんか直ぐに飽きちゃった、 それで始めたのが人間遊び」
鈴歌は笑う
「だから気持ちわかるよ、 人を自由気ままに動かせるのはね楽しいんだ、 そこはね同感なの」
「良かった、 鈴歌は俺を肯定してくれるんだね? ならさ楽しみだよね? 色んな事をさ二人でしようね?」
はは
乾いた笑い声が鈴歌から漏れる
「笑わせないでよ、 遊ばれてるのは貴方の方、 おもちゃがおもちゃ遊びしようなんて、 本当に愚かで可哀想な奴」
…………
「鈴歌? 何時までそんな事を言っていられるかな? 違ったね、 先ず最初にする事はショーでも、 お風呂でも無い……」
ぐわっ!
星之助の表情が醜く豹変する
「躾が必要だァ! 悪い子は躾ぇっ!!」
グググ
締め付ける様な影が強く、 体が軋む様に痛む、 それでもこの間までつるんでいた人間の本性を鑑みて、 その汚さに笑いが溢れてくる
あははっ
「っ、 なーーーにぃ笑ってんのぉ! ……助けでも来ると思っているのかい? 来ないよぉ! ここに人は来ないよぉ! 人は光指す道を選んで歩きたがる、 闇が怖いからっ! だからここには来れないのよぉ!!」
それとも………
「あいつか? あいつが来るとか思ってるのか? ダメダメダメ~ あいつじゃだめ~ そもそもあいつのせいで鈴歌は変わったんだ~ あいつは許せない、 そうだあいつも影の世界に招こう、 そこでなら一方的にボコボコに出来る、 一緒にやろう鈴歌! 鈴歌も俺達と会えなくなって寂しかったろぉ? あいつのせいだよなぁ?」
……あいつ?
「………違うよ、 あの人は関係無い、 あの人に何かしたら許さないよ!」
誰の事だ? まあ、 こうやって言っておけば………
「っ! ちきしょーっ!!! あいつめぇ!! 明山日暮ぇ!! 脳無し陰キャのクソがァ!! 鈴歌の心を取りやがったわねぇっ!!」
勝手に白状する、 それにしても、 明山日暮?
…………………
「日暮くんの悪口を噂してるのってもしかして星之助くんなの? そうだったらやめて、 ……あの人を傷つけちゃ嫌っ」
ガッカカガッ!!
「そぅだょおおおおおっ!!! ちきしょーっ!! 心も体もギタギタにたたたたたっ、 叩き潰してやるっ!!」
ふ~ん、 そっか
闇の中、 妙に鮮明な視界を有した影の中、 周囲から伸びだ影が鈴歌を縛り付ける様に絡まる
狂った様に叫ぶ男を前に、 恐怖と健気な怒りに表情を染めた…… いや、 そう偽った鈴歌は脳内で納得する
(……こいつだったんだ、 明山日暮の悪い噂流したの、 ふ~ん)
仲良くなったばかりだけど、 フーリカも、 妹の茜も、 あの懐いてくる可愛さ、 私の妹みたいな、 都合よく人を支配していた鈴歌に今まで居なかった
友達…… みたいな
(……傷ついてたな、 フーちゃんも、 茜ちゃんも、 二人ともいい子だから、 あいつの悪い噂を聞いて、 傷ついてた)
明山日暮はウザイけど、 あいつは私と、 二人の接点だから……
(……帰って勉強の続き教えて上げなきゃ、 私二人の先生だから)
うん…………
あははっ
「もういいんだよ、 それだけ聞ければ良いだよなぁ…… 明山日暮の噂流してる奴が分かればそれで十分なんだよなぁ!」
あぁ、 面白い……
ピガガッ
「ん? 何の音だ? この音、 この音は…… 無線機っ、 何故こんな物を持って居る……」
ガガッ
『……星之助聖夜さん、 初めまして木葉鉢朱練です、 話は全て聞かせて貰いました、 今調査隊が動いて貴方の仲間を続々と捕まえている所です』
はぁ?
『……鈴歌さんは初めから貴方達を疑っていて、 仲間を監視する様に行ってきました、 そして貴方の証言と、 ちょうど今の時間、 貴方の仲間が色んなところで噂を流している今の時間、 動いたのです』
このシェルターの管理人が何で……
『……良くも日暮さんを陥れようとしましたね、 彼はこの世界の希望、 彼の前進は我々の光です、 それを止めようとする者は断固として許しません』
あははっ、 あははははっ
「これで対等だよ、 いや逆転かな? このシェルターを運営してる人達は皆お前らより力がある、 次追い詰められるのはお前の方だよ、 星之助くんっ」
あああああ
「何だよ、 ふざけんなよ、 ……でも、 俺にな力がある、 気に入らない奴は全部影の中に引きずり込んでやるっ……」
はははっ
「それだよ、 さっきから影の中とか何とかしきりに言ってるけど、 自分で言ったんだよ? 闇は影だって、 つまりさ、 影は闇って事だよね?」
?
「鈴歌、 お前は何を言って………」
バタンッ
音が影の中に響く、 いや、 闇の中に響く、 何かが開く、 扉が開く………
っ……
「何だ、 それ…… 箪笥? いや、 これは…… 仏壇……」
気が付くとすぐ側に無造作に置かれた仏壇、 その扉は開き中には明かりもなくただただ深い闇……
「人は闇が怖いから光指す道を選んで進むって、 さっき言ってたよね? ふふっ、 でもね、 私は違う、 私は小さい頃から闇の中で咲いていた」
鈴歌は……
「闇とお友達なの、 ね?」
シャラランッ!
「ええ、 そうよ鈴歌っ!」
グシャアアンッ!!
えっ?
鈴の音をたて、 背後から星之助の腹が弾け突き破る、 彼女の闇の中で煌めく錫杖が腹を貫通して貫いて居る
「あっ、 あああっ!? 何だこれっ、 うえっ、 うっ」
ふふっ
「華飾り・枝垂れ憐華」
そっと呟く声、 背中に触れる手、 錫杖が貫いた穴から……
グシャリッ!
大きな芽が生え、 花が咲く、 美しい花だ、 しかし瞬く間に枯れ落ちていく、 身体中を蜘蛛の巣状に、 花の根が進み開けた空洞をそのまま残し
ボトリッ
「うおっえ!?」
びしゃっ ばしゃぁあっ
全身から腹の大穴目掛けて血が溢れ出る、 忽ち蒼白していく男、 星之助は苦痛に歪めた顔を上げる
背後に、 居るのは、 誰だ?
振り返った、 そこに居たのは………
「あれ? 鈴歌? どうしてっ」
正面、 影で捉えて居たはずの鈴歌の姿は無くなって居る、 いつの間にか背後に……
「あら? 確かに私は鈴歌ですが、 鈴歌では無いとも言えます、 お初にお目にかかります、 私は桜初、 所で……」
貴方……
「好きな女性を見た目で判断しているのですか? 私と鈴歌の区別も付かない何て、 所詮心の内等ちっとも知り得なかったのでしょうね?」
くそっ………
シャラランッ
「ここは闇の中、 貴方の影の中ではありません、 貴方は一線を越えた、 この私、 桜初がその命、 頂様の御膳にて頂戴致します」
意味、 分からねぇ………
「なぁ! 鈴歌! だっておかしいだろ! お前は俺の事がっ!」
ふふっ
「嫌いだよ、 初めからね」
「だそうです、 でも良かったですね、 好きと嫌いは最大の感情表現、 貴方にはちゃんと鈴歌の心が向けられて居たのですよ」
闇よりも深い、 悪意が……
シャラランッ
「死になさいっ」
ドシャアッ!!
「げっ!? …………」
振り上げた錫杖が鈴の音を響かせ、 星之助の首に振り落とされる、 盛大な音が響いて、 彼の首が落ちた
ふぅ……
鈴歌は息を付いて彼を見下ろす
「さっ、 終わった終わった、 最近特に目障りだったから、 相性が良かったよね、 ……桜初、 一緒に背負ってくれるよね?」
「勿論、 私は貴方だもの、 二人で一人、 頂様も喜んで居らっしゃるわ」
良かった……
「ありがとう頂様っ……」
「わあ、 凄い仏壇っ! 真っ暗だね!」
?
仏壇へと振り返った鈴歌、 そこでようやく気が付いた、 この闇の中に誰か居る、 仏壇をのぞきこんだ少女だ
あの子は……
「……誰だっけ、 あれ? 知ってる感じがするのに思い出せない」
少女が振り返る
「ん? あっ、 そっかそっか、 みんなに一時的に私の事を思い出せなくしといたんだった、 そうだった」
なんだ? 何を言っている? どうしてこんなに幼い子供を前にして、 さっきから悪寒が消えないのか……
「鈴歌、 あの子おかしい、 存在が明らかに変よ」
分かってる、 言われなくても、 肌で感じる、 今すぐに離れろと……
「ありゃりゃ、 そこのお兄さん死んじゃってる、 もー、 力をあげたのに負ける何て、 はいはい、 起きてねお兄さん」
少女が星之助の死体に手のひらを向ける
「魔国式結界・炳霊咖彩」
彼女の掌から溢れた奇妙な光が、 地面を張って死体へと群がる……
ピクピクッ
グチャグチャッ
「っ、 嘘……」
肉が疼いて首がくっ付く、 体が痙攣する様に震えて………
「………うっ、 あぁ、 これが死か、 全てが凍てつくように寒い、 でも、 ははっ、 鈴歌は俺に気があったんだよな?」
声を発し立ち上がる、 鈴歌は背筋が冷える、 これは……
「さあお兄さんいけいけー、 第二ランウドー」
死者蘇生、 これは明らかに不味い……
(……はぁ、 二人に心配かける前に戻りたいな)
鈴歌はぼんやりと闇を見つめて、 深く溜めた息を吐き出す事で精一杯だった……