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第百話…… 『終目』

《午後十五時五十分前後・医務室》


「……本当に日暮居ませんね、 家族も知らないって、 あいつまじでどこいったんだ?」



「……あれじゃね? またフーリカさんって女の子の所だったりして、 俺だったらそうする」


ん……


「まあそっちは天成さんが確認に行ってくれましたから…… ん?」


こっちに向かってくる天成鈴歌あまなりすずかの姿を村宿冬夜は発見する


因みに二人は同い年の同級生だが、 特にこれと言った何かがあった訳でも無かった存在同士なのであるが、 どちらも心に暗い物を隠している事を看破し合って居る


だからこそ無理に近ずいたりはしてこなかったのだが……


ともあれ……


「天成さん、 どうでしたか?」


天成は首を横に振る


「居なかったわ……」


居なかったか………………


「えぇ、 フーちゃんまで居なくなっていたわっ! あの傷であの子何処に……」


は?


「……二人とも行方不明って事だよね? 全く二人は何処に行ってしまったのか」


冬夜の焦りの隣で、 反対に威鳴千早季いなりちさきの声は楽しむ様に随分と呑気な響きであった……………


………………………………



………………



……


《同時刻・甘樹ビル》


タンッ タンッ………


ガチャッ


ぶわっ


風がぶつかってくる、 階段を登切り熱く熱を持った体を冷ます、 涼しさが心地良さになる


それが全て嬉しさになる、 この間はまともに話せなかったから、 だから目の前に……


「日暮さんっ……」


彼がいる事が嬉しい、 天を仰ぎながら目を瞑って、 壁にうっかりながら座っていた彼は、 フーリカの声に目を開きこちらを見て驚いた


「フーリカっ、 何でお前こんな所に……」


そんなの決まってる……


「会いたかったからですよ」


痛む体を引きずってフーリカは日暮の元へ……


トスッ



階段を登って疲労した足が、 なんてことの無い段差にぶつかる、 しまった体が、 傾いて……


「っ、 フーリカ!」


日暮は反射的に立ち上がり、 フーリカを抱きしめるような形で抱き留める、 重力に引かれる様な彼女の体が日暮の広げた腕の中にしっかりと落ちる………



「いっ! ………たいっ………」


っ!?


フーリカの悲鳴に驚く、 え? 上手く抱きとめたと思ったけど、 どうして……


そうして触れる彼女の体、 目に入った首の後ろ、 うなじの辺りを見て日暮は声が出そうな程に驚いた


赤く爛れ、 水膨れの様になっている、 良く見れば包帯やらで巻かれて居るようだ、 あれ? 何でこんな事に……


こんな、 こんな状態で、 ここまで…… どうして……


「っ、 フーリカ大丈夫かよ?」



「はっ、 はい…… 大丈夫、 支えてくれてありがとうっ…… ございます……」


んな事良いんだよっ


そう思いながら日暮は腰からナタを抜く、 そこに巻きついた骨、 もう居ない暗低公狼狽あんていこうろうばいから奪った日暮の物


その骨は敵を肉体を抉り喰い、 エネルギーに変換、 貯蓄する事でエネルギーを更に肉体の再生に使う事が出来る、 そしてそれは他人に対しても使用可能


「今治してやる!」



「大丈夫…… 私は大丈夫ですよ、 この傷を無くすなんてエネルギーをいっぱい使っちゃ居ますよ」


は?


「それで良いだろ、 俺はお前に傷付いて欲しくない、 フーリカに苦しい思い何かして欲しくない、 ごめん、 これ俺のエゴだ」


「フーリカの傷を癒せ」


グサッ!


うっ


骨が彼女に突き刺さる、 抱き留めた彼女の体が熱を持つ、 次第に首筋から覗いた火傷跡が無くなると骨が彼女から抜けた


最後にその傷も治し元に戻る、 日暮はナタを腰に戻してから、 フーリカの足がちゃんと地面に立っていることを確認して離れた


「……もう、 おしまいですか? 」



「治っただろ? 完全に、 悪かったなもっと早く気が付けば良かった」


日暮はもう一度ふらふらと歩くと壁に背をつけて吸い込まれる様に座った


「隣良いですか?」



「ん? ああ、 座れよ、 俺も言いたい事があったんだ」


日暮は羽織っていたマウンテンパーカーを脱いで適当に地面にひく


「ここそんな綺麗じゃないからさ、 それいい服だな、 可愛いし似合ってるよ」



「それは、 ありがとうございます、 お言葉に甘えて座らせていただきますよっ、 ふふっ」


腰を下ろす彼女、 肩が触れる程の傍に、 フーリカが日暮の肩に頭を傾ける


「……褒めてくれるのは服だけですか?」


はぁ……


「あー、 メイクも可愛いよ、 あと髪型も、 これっていちいち言わなきゃ行けないの? 何かこっちが恥ずいわ」



「気づいて貰った方が私は嬉しいです、 と言っても全部鈴歌さんのおかげですけど、 私は何もしてません」


何もして無いって?


「来てくれただろ、 本当は来いよって言われてたんだよ、 だけどめちゃくちゃすっぽかした、 ごめん」



「良いですよ…… あっ、 やっぱり許しません、 さっきからそっぽ向いてばかりだから、 顔みて、 さっきのもう一度言ってください」


何だこいつ……


日暮は彼女の方へ顔を向ける、 化粧のせいか、 階段登って火照ってるせいか、 ほんのりと赤くなった彼女の頬はどこか妖艶だ


思わず目を逸らしそうになるが、 彼女が訴えかける様に向けた視線と目が合う、 吸い込まれそうな程に綺麗だった


っ………


「………何で、 フーリカ、 お前は何でここに来てくれたんだ? どうして俺を助けてくれた? それに」


やっぱりそうだ、 これは、 この気持ちはそうなんだ………


「何で俺なんかに、 その…… 気持ちを共有したんだよ」


彼女が困った様な顔をする


「ここに来たのは会いたかったから、 日暮さんを助けたのは助けて貰ったから、 そして……」


やめろ、 言うなよ………


「私、 日暮さんが好きですっ、 好きだからその気持ちをどうしても伝えたくて…… 迷惑…… でしたか?」


はぁ………


「可愛いよ、 めちゃくちゃ」


彼女の目が喜びを表す様に少し開いて……


それでも………


「……俺は可愛いとか、 綺麗とかは分かるんだ、 でもな、 俺は昔から好きってのは分からなかった」


彼女はゆっくり頷く


「迷惑じゃない、 でも困惑してるよ、 知らない物を知ったんだからな…… 」



「不快ですか? 邪魔ですか?」


いや……


「悪いけど今はそこまで考えてない、 と言うか何も考えたくない、 まーじでダルい」



「……ある人から聞きました、 日暮さん、 あらぬ疑いを掛けられて居るとか」


ああ……


「な~んかさ、 こう言うのには弱いんだよな、 俺は人の事を気にしないし興味無いのに、 向こうから気にされて興味を持たれると背筋が凍りそうになる」


「理解の出来ない物は怖いって奴かな?」


ううん


「違います、 日暮さんは分かってる筈です、 人は、 自分以外の事は正確には理解出来ない、 大切なのは理解しようとする事だって」


「日暮さんは、 分からないなりに私の事を理解しようと、 分かってくれようとしました、 ……と言っても私達に関して言えば理解し合ってしまって居るのですが、 怖いくらいに」


自分で言うか……


「日暮さんが感じている恐怖、 それは、 人としての責任感から来る恐怖何じゃないですかね? 罪悪感を感じている」


まさか……


「でも日暮さんがいま感じているのは少し違います、 だって免罪だし、 日暮さんどんな悪い形でもさっさと決着を付けようと思ってるでしょ?」


………


「自分が悪いって認めるから、 この気持ちの悪い騒動よ早く終わってくれ~ って、 そんなのダメですよ、 私が許しません」



「何でだよ、 例えそうだとしても…… あー、 お前には関係ない、 これは俺の問題だし」


日暮は遠くに目を向ける、 ここから見える空の先、 午後の静けさが風に揺蕩う


大丈夫だ、 何とかなる、 何とか出来る、 上手くいく、 少し我慢すれば時間が解決する


一人で大丈夫だ、 何とでもなる、 他の奴らじゃない、 俺だからそうだ、 俺は強い、 だから……


俺は一人でも生きていけるんだ………


…………


「酷い事言いますね、 とても寂しい事を言う人です、 日暮さんは」



「……何でだよ、 あ~、 分からん、 まじで分からん、 永遠に理解出来ないわ~」


何故ここに来た、 何故自分を選んだ、 何故…………


「何で俺を…… いや、 人を助ける、 俺だったら絶対にしない、 人がどうなろうが何にも気にならないのよ、 俺は」


「人を助けたり、 関わったりしたって無意味だ、 人は一人で生きていける、 他の奴らはそれが分からないんだ、 俺は違う、 俺はこの先も一人で最強だ……」


……………………


ちらりと隣の彼女の方に目を向ける、 不意に目が合い慌てて逸らす、 何だこれ……


ぷっ


「あははっ はははっ!」


こいつ、 笑いやがった……


「何だよお前、 こっちは本気で悩もうとしてんのによぉ、 吹き出すとかレベルじゃねぇ、 めちゃくちゃに笑いやがったな」



「っ、 ふふっ、 すっ、 すみませんっ…… だって、 日暮さんおかしいっ、 ははっ」


おかしいって? 分かっとるわ……


「ねぇ日暮さん、 さっき日暮さんが言った事、 日暮さん出来てませんよ、 日暮さんは一人で生きていけるかも知れないけど、 一人で生きる事を選択してないじゃないですか」



「………何の話だっけ? ややこしくなったな、 また今度話そう……」


グイッ!


適当な所で話を切ろうとした、 でもフーリカが突然詰めてくる、 タダでさえ近いのに、 触れ……


「なっ、 何?」



「逃げないで下さい、 ねぇ、 日暮さん、 逃げないで、 私から離れないで下さい」


はぁ?


「なっ、 なななっ、 何なんだよっ」



「日暮さんっ!」


ばんっ!


っ!?


「うげっ!?」


へ? は?


背中に地面の冷たさ、 いや、 もう夏空だ、 十六時頃とはいえ暖かい……


いやいや、 は?


「日暮さん、 聞いて下さい」


いやちょっと待てよっ!


「おまっ、 お前なにしてんのっ?」


肩合わせで座ってた、 そこから思いっきり押された、 日暮は倒れた、 フーリカの声は上から降り注ぐ、 陽の光を遮って


所謂、 押し倒された………


えぇ……


「病み上がりとは思えないくらい元気有るなお前……」



「日暮さんっ!」


ああ、 もうっ


「なんだよっ、 はなせよさっきからっ! 」



はなしませんっ!」


違ぇよっ!


「渋ってないで言えって言ってんの! なにが言いたいか分かんねぇんだよっ!」


パシッ


立ち上がる為にフーリカを軽く押そうと出した手を掴まれる


何なの?


「日暮さんっ、 日暮さんはあの日、 私と出会った日、 あの時出会ったのは偶然だったけど……」


「日暮さんは私を助けてくれた、 この世界でたった一人だった私と繋がってくれたっ、 日暮さんは、 今生きる、 私の全てですっ」


大袈裟な……


「大袈裟じゃありませんっ!」


えっ?


「……この世界が滅んだのは私のせい…… 私の身勝手で、 多くの方が無くなった、 私のせいで………」


おいおい


「っ、 フーリカ、 あんまり自分を責め過ぎるなよ、 さっきも言ったが、 苦しんでる所何か見たくないんだ、 前も言ったけどお前の隣には俺が……」


ふふっ



「……ほら、 やっぱり助けてくれる、 覚えて居ますよ、 凄く心が軽くなったんです、 この私の大きな罪悪感を、 隣で半分背負ってくれるって、 冗談かと思いましたど」


あっ


彼女の頬に雫が伝う


「私は凄く嬉しくて楽になった、 でも、 何時まで経っても日暮さんは、 日暮さんの重しを私に分けてくれない、 支え合おうって言ってくれたのに、 私を支えるばかりで、 私に支えさせてくれないっ」


……………いや


「……そんな事無いだろ、 ほら…… あれ? あ~ あの子……? あれ? いや何にせよ、 お前は俺にとって…… 大事?」


…………………………


「日暮さん、 私、 置いてかれて居ますよ、 私の居る所から、 もう、 日暮さんが見えません……」


そんな事……


「あるんですよ? 私にはあの日の日暮さんの言葉が全てなんです、 ちゃんと隣を歩いて下さい、 そうじゃなきゃまた辛いです、 苦しいです、 寂しいですっ」


何で……


「さっき笑いやがった癖に、 今度は何で泣いてんだよ、 お前なぁ……」



「好きなんですっ、 対等で居たいんですっ、 もっと見てくださいっ、 もっと私を頼って下さい、 もっと、 傍で…… そうじゃなきゃ私寒いです」


はぁ……


「お前、 めちゃくちゃめんどいぞ、 ほら、 せっかくの可愛い化粧が取れちゃうからさ」


指の背で彼女の目元に触れ、 掬う様に雫を奪う、 生きている証明か、 温もりのある雫だ


「……抱きしめて下さい」



「…………はいはい」


解放された腕を伸ばし彼女の頭を胸へ引く、 触れた熱が、 熱い


「日暮さん、 心臓の音がばけしくなりました」



「誰でも成るわ、 慣れないことさせんなバカ」


はぁ………………


眩しい程の青空をいっぱいに見上げ、 熱を冷ます清い風を感じ、 深く息を吐いた


……………………………………



…………………


《十六時半・甘樹ビル屋上》


「あははははっ! いひはははっ!!」



「ふふっ、 あははっ!」


甘樹ビルの屋上には晴れやかな笑い声が響く、 暗い淀みすら吹き飛ばす、 快晴の様な笑い声だ


「そもそも下着泥棒って、 あははっ、 やっても無いのに日暮さん、 そんなに悩んでたんですか? ははっ」



「笑ってんなよっ、 ははっ、 いやその事自体はそこまで気にしてねぇから」


してたけど


「はぁ…… っても、 結局何なんだろうな、 俺の事を嫌ってる奴の嫌がらせだとしても、 結局犯人が分からなきゃ騒動は終わらないだろうしな」



「あっ、 それなら、 犯人は分かりませんけど、 どうもそれを広めて居るのは若者達だと聴きました、 私達と同い年くらいの子達なのかな?」


へ~


「……殺すか」



「ダメですよ~ 一旦それ以外で考えましょう、 きっと皆助けてくれますから」


皆と言われて、 家族や、 冬夜や威鳴さん、 土飼のおっさんや、 菜代さん、 木葉鉢さんや大望さん、 色んな人の顔が思い浮かぶ


「先ずはその皆に会いに行きましょうっ、 きっと今頃心配してますよ、 いきなり居なくなったんですから」


ははっ……


「いやいや、 ガキじゃねぇんだ、 そんな訳……………」


……………………………………



……………………



……


「っ、 何処ほっつき歩いてたんだ日暮っ!」


開口一番


「へ?」


《午後十六時五十分前後・会議室》


皆居る場所、 どうせここだろ、 と到着した途端これである、 って言うか……


あれ?


「何で我がご両親やら、 それに遠征で出会った組までここに集まってるんだ?」


何時も会議を行っているだろう木葉鉢や大望等の管理人、 冬夜、 威鳴、 土飼等、 そこに加え日暮の家族や、 この街で日暮が助けた人達も一緒である


「お前の話をしてたんだよ、 このクソ忙しい時に問題を作りやがって」


えー


「いや俺だって迷惑……」


ぺらぺら


土飼が手に持った紙をひらひらとこちらに向けてくる、 何だいそれは?


紙にはこうある、 『甘樹シェルター機関紙・号外、 噂の人物明山日暮について』


と書かれている


「明山日暮は獰猛な人物で、 取材記者自身、 殺すぞと脅されたと書かれている、 俺は分からない、 日暮、 これは事実か?」


あは、 あははっ………


「これなんと事実、 ついさっきの事だけど、 えー、 これ手書き? 速筆だねあの子……」



「……日暮ぇっ!!! タダでさえ火中であるお前がっ、 その中心で火を煽るんじゃなぁいっ!!」


えぇ……


「そんな事言ってもさぁ…… て言うか何なのそいつら、 いや、 噂を広めてる奴らも含めて、 どういう目的で俺の事中傷してる訳? 知らねぇか」



「まだ分かってない、 そうだ一応聴くがこれ、 お前のバックだな? 最近触れたか?」


あー、 これがあの記者の言ってた


「そうだよ、 最後に触れたのはこの荷物を詰めた時、 あははっ、 その時に入ったのか? 入る訳ねぇだろっ、 ちょっとその噂流してるやつ探して来て良いですか?」



「ちょっと落ち着け、 気持ちは分かるが、 相手はお前を陥れようとしている奴らだ、 お前は頼むから何もするな」


なにこれ……


「あー、 はいはい、 分かりやしたよっ」


ギィッ……


どかりと腰を下ろしたパイプ椅子が悲鳴を上げる、 不意に視線を感じてそちらを見る


あっ


「随分気が立ってるな日暮君、 年寄の経験からすればこういう時は一旦落ち着く事が大切だぞ、 自身が思っている以上に周りが見えていないものだこういう時は」


じいさん、 この人は鉄次てつじさん、 日暮が街で助けた老夫婦、 その旦那だ


「……あぁ、 皆さんお集まりなの忘れてました、 あれ? 皆は何でここに?」



「日暮、 貴方の今の状況を打破しようと皆集まってくれたのよ、 聞いたわよ、 ここに居る皆を貴方は救ったんでしょ? やるじゃない」


母だ


「日暮君、 久しぶり、 こんな時じゃなかったらもっとゆっくり話をしたかったけど、 ……ここに居る皆、 君の味方だよ」


っ……


峰鳥羽みねとばさん、 彼女さんと寄り添いながらそう言う言葉に体が震える、 身震いである


「ほら、 日暮さん、 言ったじゃ無いですか、 皆助けてくれるって」


フーリカだ


「……確かに、 まさか俺を助けようだなんて…… まあいいや、 じゃ助けて下さい」


皆笑顔で頷きやがる………


「………ありがとうございます、 って言うか本人がこんな事聞くのも何だけど、 これからどうするとか有るの?」



「そうだな、 今の所考えている手は、 先ずは犯人の追跡だなやはり、 噂の払拭は難しい、 先ずは止めさせる事が先決、 この機関紙を作っている所にもな」


へー


「俺に出来ることは?」



「頼むから問題を起こすな、 動くな、 何もしようとするな、 問題が消えるまでな」


えぇ……


「っ、 閃いた、 なら外出してよ、 帰って来ないから、 全部解決だろ、 居ない人間をどうこうしようとは思わない、 違う?」



「違う、 噂の払拭は難しいが、 新たにいい噂を流す事が出来れば濃度は薄まる、 ある程度時が来たらお前にはやってもらう事がある」


…………


「めんど、 もう良いよ、 寝てるから、 寝る以外する事無いだろどうせ、 ここ最近寝てばっかだったし……」


言っといて、 やっぱやだな


「トレーニングルームは? ダメ? 行っても良いよね? やっぱり寝るなんて無理!」


はぁ……


「お前って奴は子供か、 これだけの人に囲まれて尚…… いやいい、 ならこういうのはどうだ?」


ん?


「今トレニーングルームは殆ど調査隊メンバーが独占して使っている、 お前はそこで対モンスターに対する戦い方を皆に教えるんだ」



「調査隊の中にお前の事を悪く言う声もあるだろうが、 少なくど藍木側には殆ど居ない、 それに甘樹側も皆木葉鉢さんに従順だ、 その辺をぶらつくよりかはましだろう」


ほー


「対モンスターの戦いに関してお前程経験が豊富な人はそう居ない、 実際にお前に戦い方を教えて欲しいという声があったのを俺は知っている、 藍木山での戦いを見ていたからかもな」


成程、 甘樹側の調査隊も、 半分ほどは藍木山攻略戦に参加している、 確かに色んなモンスターは倒してきたけど……


「俺教えるの下手だよ? まじで向いてない……」



「じゃあ寝てろ」


おい


「やるよやります、 俺に頼むって事は座学じゃねえんだろ? なまった体ほぐすのに丁度良いじゃんっ」


うん


「よし、 なら明日からお前はトレーニングルームに行け、 藍木山攻略戦で第二体のリーダーだった雷槌いかずちさんに話を通しといてやる、 彼はあそこの管理者の様な立場だからな」


へー、 どんな人だったっけ? あんま覚えてねぇな、まあいいや


「おっけー了解です、 明日の為に休みてぇ~」



「待て、 お前医務室の使用許可は今日までだよな?」


うん? うん


「お前の家族は就寝十三番室と言う所で生活しているが、 そこにも結構人が居る、 今日そこでお前に関して問題が起きたばかりだしな」


へー



「問題を起こさな為だ、 日暮、 お前会議室で寝ろ」


えぇ!?


えー…………


「別に良いよ、 何ならそっちの方が良い、 偶に居るじゃんいびきのうるさい奴、 ああいうの許せないから俺」



「そんな事言いながら日暮は寝言で暴言吐くってご両親から聴いたぞ? どんな夢見てんだ? お前は寝ててもトラブルの種を作る奴だな」


……………


「はい、 俺はこの部屋から出ません、 布団は有ると助かります、 じゃ、 解散解散!」


何か早くも眠くなってきた……


「日暮、 私達もここで寝ましょうか? ひとりじゃ寂しいでしょ? お父さんも茜も良いわよね?」



「良いわけねぇだろっ、 こんな広い部屋一人で使えるって言ってんだから一人にさせろやっ」


ギャギャー


親子喧嘩


「あっ、 こんにちは~ 私美里みさとって言う者ですが~」


ん?


「あら綺麗な子、 貴方は?」



「私も日暮くんに助けて貰ったうちの一人で…… 日暮くんとは一つ屋根の下で数日間過ごした訳です」


あら? あらら


「日暮くんは病み上がり、 誰か付き添う人が居た方が良いはずです、 しかし大人数だと逆に落ち着かないかも…… だから、 私ここに残りますよ」


何言ってんだ美里さん? しかも何かいつもと声のトーンや話し方が若干違うし……


「あら~ あらあらあら~ そうなの~」


にやり


「日暮、 良かったじゃない、 こんなべっぴんさん、 うふふ……」



「うふふ、 じゃねよ、 気持ちわりぃ……」


はぁ?


ギャーギャー


混沌、 その光景を後目に談話する者や、 自分の所へ帰る準備をする者すらいる、 会議室は大いに平和である


「美里さんもいきなりからかわないで下さい、 俺一人の方が好きなんで」



「え~ お姉さんちょっと寂しいな、 からかいじゃなくて、 本気、 だって私………」


バンッ!


!?


机が叩かれ大きな音が会議室中に響き渡る、 誰もがその方向を見た


「私がここに残ります」



「……フーリカさん? 何か震えてるけど何怒ってんの?」


机を叩いたのはフーリカだ、 一国の王女様とは思えない荒っぽさである


「いいえ、 怒ってませんよ、 むしろ楽しみです、 日暮さんとのお泊まり楽しみだな~ 二人で恋バナとかしましょうよ~」


興味ねぇよ、 あと一人にさせろ……


「ちょっと待ってよ、 君何なの? 日暮くんの何だって言うのよ?」



「貴方こそ何様ですか図々しい、 近いんですよ日暮さんにっ」


………………………


「……何か言葉も出ないわ、 何なの?」



「お兄ちゃんモテモテじゃん、 以外と人から好かれるんだよねお兄ちゃんは」


妹よ


「何にも思わねぇからな、 好かれようが嫌われようが」



「はいはい…… ん? あれ? お兄ちゃん何か背中めっちゃ汚れてるよ? どっかで寝転がってた?」


あ? あー………


「あー、 そうそう、 適当な所で横になって…………」


ギャーギャー


日暮が話から外れた地点、 女達の執拗な言い合いは、 遂に混沌へ足を踏み入れた


「……さっき美里さん、 一つ屋根の下とか言ってましたけど、 このシェルターに居たって皆屋根の下ですから、 どうせそういう事でしょ?」



「ふ~ん、 そこまで言うなら何か有るの? 日暮くんとの恋のエピソードっ」


フーリカは考える、 助けて貰った? いいやダメだそれじゃ弱い、 共有の事は伝わり辛い、 抱きしめて貰った? いいや……


(……最直近で、 ある、 私だけの、 日暮さんへの愛の証明)


それは……


「私さっき、 日暮さんを押し倒しましたっ! 地面にねっ!」


………………………………………


えっ?


「………背中が汚れてるのそれっ」


わっ


「おまっ、 何言って……」


何を言いやがったのか理解して、 フーリカと目が合う、 彼女は忽ち顔を真っ赤に変える


「ひっ、 いやっ、 あっ…… わぁぁぁっ!」


ドタンッ!


思い切りドアを開け放ち走って出ていく彼女、 ラブコメ展開ならば追いかける所だが、 そんなことはしません


何故なら……


(……俺は会議室から出れない、 よし)


さて……


「あの、 皆さん解散しましょう、 えぇ、 それではまた明日……」


し~ん


沈黙が刺さる


「ちょっと待ちなさい、 土飼さん、 ここは会議室よね? ちょっと会議室使って良いかしら?」



「あー、 はい、 本来私には決定権は無いのですが今回は大丈夫です」


そう……


「お父さん、 茜も、 席に付きなさい、 勿論日暮も」


へ?


「今から家族会議を始めますっ!!」


えっ


ヤダー!


その後家族会議という名の圧力詰め会議は夕飯を挟んで夜が更けるまで行われた………


…………………………………………



……………………



……


「……遅いな、 ナハトの奴死んだんじゃないのか? 魔王に殺されたか……」



「ははっ、 だとしたら笑えるぜ、 ミイラ取りがミイラになるって奴か?」


町外れの丘の上に立つ洋館、 高そうなワインを片手にナッツをつまむ森郷雨録もりさとさめろくは予定より帰りの遅い彼等のリーダの帰還を待っていた


それを笑って返す男、 柳木刄韋刈やぎばいかりは大きなハムに食らいついて居る


美味い、 中々に久しぶりに贅沢をしていた、 仲間が一人死んだ、 それを気にする様な奴らでは無いが、 最後の晩餐と言う訳では無い、 それでもこれからを考え各々時間を贅沢に使い越に浸っていた


「ん? 死んだ訳では無さそうだな、 見ろ、 帰ってきた」


冥邏めいらが指を指す先に一人の影が忽然と姿を現す


「ん? あぁ、 皆まだ起きていたのかい? いや~ 遅くなった悪いね」


ナハトだ


「気にする必要は無い、 疲れてるだろう、 何か口にするといい」



「そう? じゃあ雨録のワインと、 韋刈のハム、 頂戴、 冥邏は…… 何それ?」



「干しトカゲだ、 この赤いのが中々行ける」


あはは……


「遠慮しとく、 はいはいありがとう、 さて、 色々報告しなきゃだね?」


それを待っていた


「確かナハトは…… ? はて、 何をしに行っていたんだったか?」


妙だな思い出せない……


「あー、 彼女の力の余波がここまで、 ちょっと待ってね」


パチンッ


ナハトが指を鳴らすと指先から光が散る


「………っ、 魔王、 そうだ魔王の少女、 何故だ、 忘れていた」



「彼女がそう言う力をばら蒔いて居るからね、 一時的に誰もが彼女を思い出す事が出来ないんだ」


何だそれ……


「それでね、 無事計画通り、 魔王を暴走状態にする事が出来た、 暴走と言うか解放かな、 あんなに楽しそうにされたら解放の方がしっくり来る」



「魔王が、 支配を受けず、 その力を自分の意思で振るうか、 そう言う話だったね」


あぁ……


「悲観して、 絶望の果てに全てを破壊し始めると思ってたけど、 違うみたいだ、 楽しんで力で遊び出した」


「こっちとしては力を使ってくれればそれで良い、 どんなやり方でもね」


ふん……


「それで? 時間が掛かったのは魔王が意外に強かったからかな?」



「おいおい、 俺は勇者だよ? ……正解、 逃げるので精一杯だったさ」


そうか……


「次は何をする? そろそろ私達に出番はあるのかな?」



「有るよ、 あれ? 韋刈調子良さそうじゃん、 足はもう良いの?」


ああ


「問題ねぇ、 殆ど元通りだ、 ちょっと準備運動すりゃ完全復活だ」



「うん、 良いね、 ならそろそろ始めようか、 混沌を彼女へ繋ぐ」


はははっ


「この街に紡がれた物語、 目次は終わり、 最終章の始まりだっ!」


黒い煙は笑い声と共に揺蕩う、 街はまたしても彼等の思惑に脅かされる事になるだろう………

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