第一話……『 探索開始……』
「あ~家に何があったか見てくんの忘れたな~」
「いや……なんで? なんで忘れたん??」
「……まあ朝バタバタしてたし、仕方ねぇ……仕方ねぇだろ!!」
「突然キレるし、怖すぎん?……へへっ」
「へへへっへへ……フフ、ヘフヒ、ヒィ、ゲフッ、ゲホ…………はぁ……やめよ」
曇り空に晴れ間の覗く天気……昨晩降った雨が作る水溜まり……いつもより少し強い風が揺らす畦に生えた名前の分からん背の高い草…………どれだけ長い時間居てもきっと飽きはしない……時間によって変わりゆく景色の色があまりに綺麗で……………
「高笑い? 引き笑い? これどっちだ? まあどっちにしろ無理やり笑おうとするとむせるな……」
田舎と言えば田舎、家の周りは田んぼだらけだし、電車やバスもなかなか来ない、典型的な田舎……でもコンビニは近くて幾つかあるし、スーパーも近くて買い物も困らない、ホムセンもでかいし、皆がわざわざ足を運んで食べに来る程のラーメン屋だってある……住みやすい場所だ………
「るるる~昨日の自分にゃ負けなくねぇ~♪明日の自分にも勝ちてぇぜ!~♪そんな、そんな自分は~♪今を全力で生きてんだ!!~♪はい!!」
「キャーーいい歌!!カッコイイ、痺れる、スゲー、やべー………そうかな?」
……先程からこの美しい景色の中に場違いな男の声が響いている、その男は少し狭い田舎道の真ん中をただ1人で歩いていた……
「カッコイイやろ??」「自画自賛Lv100」
「でも人って結局それでいいんだと思う、どんだけ人から否定されてもさ、自分で自分の事ちゃんと愛して、信念つきとうして歩いてりゃあさ、そこが1番大事なんじゃね?」
「…………めっちゃキメてるけど、極論過ぎん?」
「そうかな? な? な……はぁもういいや……」
驚く事にまるで数人の会話のように聞こえるやり取りは全てこの男の独り言なのだった……怖………
「見えて来ました、今日の目的地、ホームセンター、ココメリコ、距離にして100m……ちなみに結構前から見えてはいました……」
全国何処にでもあると思われる程有名な名前のホームセンター『ココメリコ』今日はここが彼の目的地だった……
「近くのコンビニはあらかた平らげたし、今日からはこっち、家からのアクセスも悪くないし…」
「来てみて正解、荒れてるけど必要なもんはありそうだな……中は……薄暗いな……最悪だ……」
全国にあるホームセンター、そこに訪れる客……この2つはそういった関係のはず…はずだった……ひと月程前までは……
「あいつら暗い所大好きマンだからな~、昼間外は安全だけど、屋内は…ぜってえ居るよな………」
ひと月程前、人の世界に突如侵略者が現れた……姿形はモンスター、声も生態もモンスター、どこをとってもモンスター、恐ろしき捕食者共……
「モンスター共普通に不法侵入やん?許せんやん?……まあ俺も今からする訳だけど、不法侵入……なんなら中の物漁るし、持ってくし、俺の方がタチ悪かったりして……」
「生きる為だし仕方なくね……そうそう……」
ブツブツと言い訳のように独り言を呟く彼もまた、モンスター共の被害者の1人だ……
モンスター共は突如現れ、当たり前みたいに人々を殺し、その屍を喰らい、今じゃ生態系のぶっちぎりTOPだ…
人の営みは瞬く間に崩壊し、世界には不気味な静けさだけが立ち込める……
もう誰が生きてて、誰が死んでるのか、確かめる事も出来ない今この状況で少なくとも彼……明山 陽暮は今を全力で生きていた……
「…デケェな…今回……まじで死ぬかもな……」
そう言いながらも彼の歩みは止まらない……
「欲しいもん思い出したわ……普通に水と食料、あと変えの服、その他色々……そんな持てねぇし………クソッ……」
「ガラス粉々に割れてる…人一人通れるな…好都合、好都合……やったね」
そいつらは音に敏感だ…静かに探索しなくては……
「失礼します~(めちゃ小声)」
生きる為に躊躇はできる限りしない、彼はズカズカと薄暗い店内へと侵入する……
「明山 陽暮……探索を開始します…………こういう台詞普通に憧れだったわ、言えて嬉しいです………………集中しよう………」
探索………まるで未開の地にでも挑戦する、異世界の冒険者の様な、心地よい緊張感に体全体が痺れる感覚……
口角が自然と上がる……重たい空気を取り払うように体を震わし、跳ね上がる心臓を落ち着けるよう精一杯の深呼吸………
「明山 陽暮…………探索を開始します」
全国何処にでもあると思われる程、有名な名前のホームセンター『ココメリコ』今日はここが彼の目的地だった………………
…………邪気血みどろ溢れる、彼の探索の、目的地……………