№8 悪役女王は喜びたい
やっぱりキター。
鉄の女神が王子の目の前に置かれる。
「ほほうアイアン・イシュタルですか、これは大それたものを」
エリザは表情も変えず言った。
「ケント王子、アタクシへの愛が真と言うのであれば、この痛み耐えられるでしょう」
「さもあらん!」
王子は両手を広げ、熱い眼差しをエリザに送る。
彼女は目を合わそうとはしない。
「女神イシュタルの鉄棘が私を貫くか、私の愛が勝つかとくと見よ!」
王子は自ら進んで鉄の女神へと入った。
「さあ、審判の時だ!」
彼は自ら煽る。
エリザとマリーは互いに顔を見合わせ、ディオラ王は信じられないと首を振る。
「王子ケントよ。本当にいいのですね」
エスメラルダは最後通告した。
「いつでもどうぞ」
王子は涼しい顔で言った。
エスメラルダはエリザを見、彼女は静かに目を閉じ片手をあげた。
それは合図である。
ギィー。
従者たちが鉄女神の蓋をしめる。
王子に鉄棘が迫り、暗闇が訪れた。
(ここまでは、想定通り。この竜の鱗の衣を纏っている限り、私に指一本傷つけることは出来ぬ・・・・・・ふふ、どうだ。痛くない・・・痛くないっ!どれ)
「ぐおおおおおっ!痛いっ!痛いっ!苦しいっ!」
(んふ、どうだい。この私の迫真の演技は!)
「王子ケントよ。アタクシとの結婚諦めるならば、ここで止めましょう」
(誰が諦めるものかっ・・・聞け、私の叫びを)
「ぐふっ、げはっ!愛する者を失うくらいならば死んだ方がマシだ!」
・・・・・・。
・・・・・・
・・・・・・。
・・・・・・。
長い時間が経つ。
苦しみもがく演技を続けるケント。
エリザは渋い顔のまま、目を閉じ言った。
「これまで」
従者に鉄の女神の開蓋を命じた。
「かはっ!けほっ!勝った・・・私の愛が勝ったぞ!」
「・・・・・・」
エスメラルダは王子が無傷なのを見て不審に思った。
そして床に光るモノを発見する。
(あれは・・・)
彼女はディオラ王の元に行き、耳打ちをした。
「これでエリザは、私のモノだ」
「駄目だす、絶対に駄目だすっ!青白もやし男なんかに、あたすのエリザ様はやれね」
「吟遊詩人マリーよ、諦めよ。これが運命なのだ」
王子の口角が歪む。
「うわーんっ!」
マリーは号泣する。
エリザはそっと肩に手をやる。
「ふふふ!エリザよ。一つになる時が来たのだ!」
王子は両手を広げ彼女に迫る。
「くっ!」
「またれよ。王子」
ディオラ王は立ちあがった。
「父上、何か?」
「これは無効だ」
「・・・なん・・・ですと」
ケントは冷たい目を王に向ける。
王は静かに歩み出ると、床に落ちている光る物を拾い上げる。
「竜の鱗ですな」
「それが何か?」
ケントは悪びれる様子がない。
「お主は、これを纏っていた」
「だから?」
「痛みも感じず、これでは証を示したことにならない」
「これは異なことを・・・」
「何?」
「私は、鉄の女神に耐えた。この事実は揺るぎない」
「それは・・・」
「ノンノン、いかなる理由があるにせよ。私は耐えた」
「・・・不正を認めぬと申すか」
「なにが不正であるかっ!いいがかりも大概にしてもらおう!」
「なっ!」
絶句する王の隣をすり抜け、後退るエリザに彼は迫る。
「さあ、我が妻よ。もう逃げられぬ」
「・・・いやっ!」
「おぉふう、その恐怖に歪む顔、そなたは美しい!」
「・・・・・・」
その時だった。
「黙れ!小僧っ!」
「誰だ」
「俺だよ俺っ」
扉を開け入って来たのは、見覚えのえるブ男だった。
エリザの顔がエスメラルダの顔がぱっと華やぐ。
「・・・婿殿」
ディオラ王は呟いた。
「ダーリン!」
エリザは叫ぶ。
「コォジィ様」
エスメラルダは喜びで、目を輝かせる。
「あれが、伝説英雄の・・・コォジィ様だか」
マリーは彼を凝視する。
「誰だっ!貴様っ!」
ケントは剣を抜き、コォジィに迫る。
「俺?俺か!」
「貴様だっ!」
「俺は康治、こいつらの」
「エリザの何だ!」
「・・・旦那だ」
ギンッ!
康治の目力が発動する。
「ばっ!」
ケントはへなへなとその場に崩れ落ちる。
「ダーリン!」
「コォジィ様!」
「よう」
康治は、はにかみながら右手をあげる。
王女たちは笑顔で、彼に抱きついた。
喜びたい。
思いが爆発する。
おしまい。
なんとか、完結しました。
2人の活躍、もうちょっと出来たかなと思いますが、まあ良しとしましょう。
おわりまで読んでいただき、ありがとうございます。




