№6 エリザ、ケント王子と対面、侮蔑する
ヤバい人が・・・。
数日後、隣国の王子ケントは、ディオラ王とエリザに謁見する。
青白い顔に鋭い瞳、棒のようにひょろ長い身体、彼がケント=マスカットである。
第一声が、
「エビスマスカツッ!ぷぷぷぷっ、もといマスカット王国の壮麗で聡明なる王子、ケントでございます。おふう、うひょー、我が妻よ。やはりそなたは美しい」
「黙れ小僧っ!」
エリザは渋い顔をして、目には目を歯には歯をでやり返した。
「んふふん~ますます気に入った!エリザベート=ディオラこそ、我が妻にふさわしい!げっちゅう!」
「五月蠅いっ!」
エリザは激昂する。
「おやおや、これはこれは手厳しい。だが、それもまたよき」
両手を広げ、ふるふると首を振る王子。
嫌悪で震える娘の姿を見て、耐えかねて王は言った。
「ケント王子、此度はエリザの思いもある。今回はそなたとの顔合わせ・・・」
「ノンノン」
ちっちっちっと、口元で人差し指を左右に振る。
「うざっ・・・」
思わずディオラ王は口に出して呟いてしまった。
「ああ父上、いまさら結婚を反故にするなど考えられませんぞ・・・この結婚は最上にして崇高なる永遠なる国同士の結びつき・・・ひとたび破られれば貴国の信用に傷がつきましょう・・・そして威信は失墜するでしょう・・・なんと他の国々に呼ばれましょうか・・・ああ、そうそう、私ケントはこの愛にみちた婚儀をサン・ウエスト・ガイアの国々へ、書簡にて知らせております。いえいえ礼にはおよびませんぞ。私はただただエリザへの愛と思いを全うしたに過ぎません・・・ああ、崇高なる私の大志よ!今、ここに成就の時を迎えるのです」
長演説王子の不健康そうな目が光った。
(小国の分際で)
ディオラ王は拳を固めた。
エリザは椅子から立ちあがり、王子を睨みつけた。
「怒りに燃えるその瞳すら愛おしい・・・我が妻よ」
「汚らわしいっ!」
「・・・私が汚らわしいと?・・・ん?んん・・・うん、了承した。そういう遊び、プレイなのだな、よかろう!この夫ケントがそなたのお相手をいたそう・・・そうだそれこそ夫婦というものだ、よしよし・・・はいっ!もっと、もっと言って!蔑んで!」
「小国の卑しい王子め、この国から出て行きなさい!」
「おおっ!我が妻よ。許してたもれ!」
「おのれ!どこまでもアタクシを愚弄するかっ!」
「ふははははっ!もっと叱ってなぶって!激しくクレッシェンド!」
暖簾に腕押しとはこのことである。
「はあはあはあ!」
エリザは息を切らせながら、肩を動かす。
「エリザ・・・」
ディオラ王は、ふざけた王子に一喝しようと立ち上がる。
エリザはそれを制した。
「いいでしょう!ならば、このエリザに、その愛を示してみなさいっ!」
王子の口角が歪む。
彼は片膝をつき、胸に右手をあて慇懃に礼をする。
「我が妻よ。仰せのままに、んふっ」
います。




