№5 隣国の王子ケント、エリザに求婚する
だども!
さて、ここはディオラ国の政務室である。
いつものようにディオラ王が書簡に目を通していると、その動きが止まった。
わなわなと手が震える。
「どうしました?」
秘書エスメラルダは明らかな王の変化に気づき、訝し気に顔を覗き込んだ。
彼の額からは汗が滝のように流れている。
「エスメラルダ殿」
「はい」
「娘を呼んできてくれぬか」
その王のただらぬ雰囲気に彼女は一抹の不安を覚えた。
のち、エリザはマリーをともなって政務室にやって来た。
「ああ、エリザか」
「どうかしまして、父上」
「うむ、実は隣のマスカット国のケント王子が、そなたを嫁に・・・」
「断るだす」
マリーは即断する。
王はマリーをチラ見し、うおっほんと咳払い、何事もなかったかのように、
「結婚・・・」
「ダメだす」
「うぉい、マリー場の空気をよめっ!嫁だけに、くすっ」
王のツッコミだじゃれに一同は、氷の視線を投げつける。
「・・・寒い」
彼は凍えた。
「マリー、父上の話を聞きましょう」
「だども、エリザ様」
エリザは静かに目を伏せた。
マリーはぎゅっと拳を握りしめ、黙る他なかった。
「ケント王子は、お前にいたくご執心でな。結婚が出来るのなら、ひとつの国(※この異世界の国々は近い将来、ひとつの国にまとまろうとしている)に賛同してもよいと」
「頑なに拒んでいたマスカット王国がですか?」
エスメラルダの言に王は深く頷いた。
「私にその架け橋になれと・・・だけどアタクシは・・・」
エリザはじっと父を見た。
「うむ・・・婿殿・・・いや、コォジィ殿・・・ふむ・・・それはお前次第だ。ワシはどちらでも構わん。だが、平和的手法をとるのであれば」
王は言葉を濁すような言い方をした。
「分かりました」
エリザは承諾する。
「本当か!」
「・・・はい」
「絶対、だめだす!お姫はマリーのモノだす!」
鬼の形相で叫ぶマリーをエリザは制した。
「ふふふ、ですが、アタクシの目に叶うかどうか、まずは会って見てからですわ」
そう言う彼女の瞳の奥底が妖しく光った。
次回、お見合い。




