№3 吟遊詩人マリーは仕官したい~前編~
吟遊詩人マリー登場。
窓の外はやまない雨が続いている。
エリザが鬱屈とした気持ちを抱えていたある日のこと、父ディオラ王がつとめて明るく切りだした。
「エリザ、エスメラルダに会わせたい人物がいるのだ」
「また」
「またですか」
2人は同時に言った。
「まあ、そう言うな。今回は2人に余興を楽しんでもらおうと思ってな、吟遊詩人で天使の声の異名を持つマリー=エステファンがそなたたちの為に吟じたいといっておるのだ」
「はあ」
「そうですか」
2人ともなんとも気乗りのない声をあげる。
かつては、異世界アイドルグールプKOJI12(トゥエルブ)で、世界を熱狂に巻き込んだ彼女たちには、今更極上エンタメとそう聞いても心には響かなかった。
「まあ、そう言わずに。かの者の歌を聞いてみようぞ」
「はあ」
「まあ」
2人は渋々了承した。
王は柏手を打つと、従者たちが吟遊詩人を連れてきた。
「はあい。お招きに預かりまして恐悦至極でっす。おらぁ吟遊詩人のマリーどえっす」
純白のワンピースの裾まである漆黒の髪をなびかせて吟遊詩人のマリーは颯爽とクセのある訛りともにやって来た。
「訛りが個性的ね」
エリザは思わず、そこに食いつた。
「まあ可愛らしい」
エスメラルダは微笑んだ。
顔はほっぺかが赤く、田舎者からでてきた童女と言った感じで、独特な方言のイントネーションがそれを際立たせている。
しかし、身体は出るところは出た我儘ボディなのだ。
「おらぁ、嬉しいだあ。こっただ有名でめんこいお2人の元で仕えるなんて」
(おいおい・・・)エスメラルダ。
(聞いてないよ)エリザ。
2人は一斉に、ディオラ王を睨みつける。
王はそっぽを向いた。
「おらぁ。信じらねぇ」
「ちょっと、待って」
エリザは手で制す。
「ん?どうしただ」
「実は初耳なの」
エスメラルダは事実を述べた。
「は~そっただこと言ったって、国のかあちゃさ、もう言ったべよ」
「エリザ・・・エスメラルダ殿、マリーと言えば天使の声を持つ・・・」
「父上、これからここは、私たちの国では無くなります。今更仕官だなんて」
「王様、彼女の将来をこれからずっと守れますか」
2人はゆっくりと王を諭す。
「しかし・・・これほどの者はおらぬぞ・・・」
王が渋い顔を見せた。
「父上」
「そういうことではありません」
エリザとエスメラルダは王をさらに嗜める。
「んだども!」
マリーは深々と頭をさげる。
「おらぁ、お二人さの事、お慕いしてるだ!なにがなんどもお仕えしたいどす」
「いろいろと思い、混じってるわね」
「ねぇ」
2人は顔を見合わせ、マリーを見る。
その瞳には揺るぎない熱情が宿っている。
エリザは肩をすくめ、エスメラルダは頷いた。
「わかった。あなたの魂の歌を聞かせて頂戴」
「話はそれから」
彼女たちは、その瞳に答えた。
「がってんだ!」
マリーは、ずた袋の中からマンドリンに似た楽器(あくまでも異世界)を取り出す。
「いくど!」
マリーは深く息を吸い込む、ポロン、音が奏でだす。
おらぁマリーだど 作詞・作曲 マリー=エステファン
おらぁはマリーだど
めんこいめんこいマリーだど
マリーの花咲く笑顔は
びーてぃふるしゃいんでぃんぐでー
ラックス・スーパー・リ〇チだど
おとく、おとく笑顔のスーパーセール
たども、安売りはしないど
だっておらぁは、えんじぇるぼいすマリーだど
ららららららららららら~
今日もやっぱり~
マリーだど
マリーだど
マリーばい
マリーじゃけえ
マリーどすえ
なまらマリー
めんそれーマリー
キュンどぇすマリーどぇっす
おらぁマリーだど
熱唱!そして熱唱。
「どうだあ?」
振り返るマリーに審判の札があがる。
「採用」
ディオラ王。
「審議」
エリザ。
「審議」
エスメラルダ。
「なんでだどぉ~」
後編につづく。
後編につづく。