№2 宮廷画家モブリオンは描きたい
収拾が・・・。
「という訳なのだ」
朝食の席で、父ディオラ王は娘エリザと秘書エスメラルダに伝えた。
「はあ」
2人は完全に乗り気でない返事をする。
「いや、モブリオンたっての願いでな、世界を救った我が国の誇りである美しきそなたら2人を描きたいと申すのだ」
ディオラ王はそう言うと、モーニングコーヒーを一口啜った。
モブリオンとは、ディオラ王国お抱えの宮廷画家である。
初老を迎えながら、その情熱は衰えるのを知らない、王国が国になるそんな変革歴史の渦中に、彼は「ディオラ・サーガー」というディオラの歴史を大聖堂の壁に描き続けていた。
その宮廷画家が、すでに伝説と化したコォジィと14人の嫁たちである2人を描きたいと申し出たのであった。
「気が乗りません」
エリザは言った。
「私も・・・」
エスメラルダは頷いた。
「2人の気持ちはもっともだが、モブリオンは言いだしたら聞かぬ気性なのだ。・・・長く王国に仕えた腕の立つ絵師なのだ。どうだ一度だけ会って話を聞いてやってはくれぬか」
ディオラ王は2人を宥める。
「はあ」
エリザとエメラルダは不承不承に頷いた。
宮廷絵師モブリオンが面会へとやって来た。
「ご機嫌うるわしゅう、姫君、そしてエルフの女王」
白髪の初老の男は、慇懃に膝をつき挨拶をする。
「こ度は、あなた方の絵を描かせていただき恐悦至極」
「まだ、絵を描いてもらうとは決めてないわよ!」
「その通りです」
エリザとエスメラルダは毅然と言った。
「なんと!我が腕と筆は、もうあなた方を描きたくて欲しておるっ!」
モブリオンは右手に筆を持ち、その気満々である。
「あなたが優秀なのは分かりますが、私達は気乗りがしないのです」
エスメラルダは正直に今の気持ちを言った。
「そんなことはどうでもいい。あなた方はそこにいてくれるだけでいい、私が描く、ただ、それだけ・・・それだけのこと」
「どうでもいい?」
エリザは宮廷画家に聞き直す。
「左様、私はいかなることがあっても、あなた方を描きたいのです!いや、描かねばなるまいっ!」
「そう・・・そんなに言うのなら、あなたの決意見せてもらいましょう!」
エリザの瞳が妖しく光った。
「よろしいっ!私の情熱はいかなる試練にも耐える覚悟がある」
「分かったわ!」
エリザはモブリオンの前に立つ。
「なんなりと」
画家は余裕の表情を見せる。
「膝まづきなさいっ!そして、アタクシの靴のお舐め!」
「喜んで!」
モブリオンは即、エリザの靴をぺろんちょした。
彼は真性のM男であった。
「むむむむ」
「さあ、どうしました」
憤るエリザに涼しい顔のモブリオン。
「では、私の椅子になりなさいっ!」
エスメラルダはモブリオンを見下しながら言った。
「ああそのさげずむ目・・・たまらない、たまりませんぬ!激よろ!私はあなたの人間椅子っ!」
M男は見事に人間椅子となる。
一筋縄ではいかない、この男に2人は顔を引きつらせ見合わせた。
「よろしい。あなたの決意は分ったわ」
エスメラルダは椅子男に座りながら言った。
その横でディオラ王は唇をかみしめながら、羨まし・・・いや、悔しそうにその様子を見ている。
「では、描かせてくれるのですな」
「まさか」
「は?」
「私の薔薇鞭に耐えられたら、考えてさしあげますわ!」
エスメラルダは、羽織っていたマントを脱ぎ捨てると、ボンテージファッションに身を包み、ベネチアンマスクを目元につけ、棘鞭をしならせた。
パーンっ!
乾いた音が部屋じゅうに響く。
恍惚の表情を浮かべるのは、モブリアンと・・・王。
「ああ、素晴しい。あなた様の放つ鞭に打たれる喜び、このモブリアンいや豚野郎は喜びに打ち震えておりますぞっ!」
「黙れっ!豚野郎」
ビシッ!
「はひっ!いいいっ!・・・じょ・・・女王様っ」
「醜い豚めっ!」
ビシッ、ビシィッ!
「ああ、豚めは嬉しゅうございます。もっと、もっと、くださいっ!」
「黙れっ豚足っ!」
ビシッ、ビシィッ!ビシッ、ビシィッ!
「はぁ、はぁ、はぁ」
エスメラルダの息があがる。
「まだ、まだっ!」
モブリオンは恍惚の表情でおかわりを求めている。
「もういいわ」
エリザはエスメラルダを制し、モブリオンを冷めた目で見つめる。
「へへへっ、次はどんな悦びを与えてくれるんでしょうか」
画家はぷるぷると震えて悶えている。
「いでよ!アイアン・イシュタル!」
エリザは叫ぶそれは、現世で言う拷問器具アイアン・メイデンそのものであった。
女神イシュタルを模した鋼鉄の人形は開き、中が空洞となっていて、無数の鉄の棘が散りばめられている。
中に人が入り、蓋を閉じると串刺しになるという泣く子も黙る恐ろしい、おしおき器具であった。
重いアイアン・イシュタルを従者が部屋に運んできた。
「あああっ、最高っ、最高っ!」
モブリオンは身体をくねらせ喜んでいる。
「お前、飛ぶぞ!」
思わずディオラ王は言った。
「よっ、よよよ喜んで!」
「いい度胸だわっ!やっておしまいなさい!」
エリザは命じる。
モブリオンの両脇を従者は掴み、引きずりながらアイアン・イシュタルの前へと運ぶ。
「さあ、お逝きな・・・」
エスメラルダはそっとエリザの肩に手を置き、ふるふると首を振った。
「これ以上は・・・おじいさん、死んじゃいます」
「・・・・・・そっか」
こうして、モブリオンはその信念の勝利を獲得し、2人は不承不承ながら、宮廷画家のモデルとなったのであった。
・・・・・・。
・・・・・・。
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・・・・・・。
「脱ぐなんて聞いてない~っ!」
つかなくなりまちた(笑)。
次話は来月のどこかですっ(笑)。