大空に描ける星。昴
「んんー。描けないなー。」
少女が筆を窓枠に向けて呟く。
描ける日は描け放題。描けない日は全然。
「んんー。んー?」
ガラガラ。
「よう。昴。描けてるか?」
男が教室の窓を開けて話しかけてきた。
昴は私の名前。
男は語る。
「今日中だかんなー?明日には全部の絵を審査に出すから。」
「そんなこと言われても描けないものは描けませんからねー。」
「で?絵の題材くらい決まってるんだよね」
ドキリ。と心臓が跳ねる。
「決まってますよー。アレです。」
焦るのを隠しつつ筆で窓枠を指す。
「んー?風景画かー?ありきたりすぎやしないか?昴の絵はたまに意表を突いていい線いくし期待してたんだけど。」
「でしょ?だから、ただの風景ではなくここから見える、窓枠を含めた風景画です。」
なるほど。と、男は呟く。
「まぁ題材決まってるなら今日中でも平気かー?で。どこまでできてる?」
「もうちょい、ですかねー。」
昴は絵の具を混ぜながら答える。
「よっと。まぁ暗くならないうちに帰れよ」
男は窓から降りると階段の方へと歩いていった。
行った?
「ふー。見られなくてよかった。」
昴の前には窓枠が二つ。
ひとつは本物。もうひとつは絵。
絵の中心は真っ白。
「んー。刺激がほしーなー。」
芸術家は作品が進まないのに意味を求める。
刺激が足りない。昴の場合それだ。
「コーヒーでも買い込むか。」
今日は帰らずに仕上げるつもりで。
こんな時は眠気覚ましに缶コーヒーを買い込む。
ガラガラ。タッタッ。
「んー。財布財布。あった!」
ピッ。ガラガラ。ピッ。ガラガラ。
こんくらいか。よっと。
「おっ?」フラッ
ガシッ!
「大丈夫っすか?」
この人はえーと。
「体験入部の。あっ。今日美術部やってるから覗いてく?私しか居ないけど...。」
「いいっす。先輩コーヒー好きなんすか?」
「いや?眠気覚ましに買い込んでおっとと」
「運びますよ。」
「そっか。じゃ、お願い。」
スタスタ。タッタッ。ガラガラ。
「ここに置いときますよー。」
「ありがとー。」
男が絵をまじまじと見つめる。
「?。やっぱ興味ある?」
「いえ。では失礼します。」
「あっ、そうだ君。」
「なんでしょうか。」
「......」
「......」
沈黙は時なり。
男が疑問を突くより先に。
「ま、まぁ座れば?」
「?。ええまあ。」
よっし。引き留め成功ッ!
「実はさ。この絵についてアドバイス欲しくてさ。この絵を完成させるのは簡単なんだけどもひとつ何か欲しい。」
「そこで僕ですか。」
「そそ。時間ならたっぷりあるから大いに悩めよ少年。」
男が絵を見つめる。
窓枠の方を向いて写真のように切り取る。
「先輩は星は昴ってどういう意味だと思います?僕は星ってのは昴のことだ。ではなく。その星は昴の様に輝いているって意味だと思います。」
「つまり...?ちょ、ちょっと待って!」
昴がスケッチブックに箇条書きする。
「ある人に訪ねた時その人はこう言いました。『昴って人が星に帰るって意味?』と。
つまり言葉というのは言った人にしか本当の意味は分からないんです。でも書き連ねることで連想させることはできる。絵も同じだと思いませんか?ぱっとみでは分からなくても書いてる経過を見ると意味が分かってくる。様な気がするします。これが僕のアドバイスです。」
昴がスケッチブックに書いてる横でコーヒーを飲み干すと。
「先輩。ご馳走様でした。明日また見せてくださいね。」
男が去るのにも気付かずスケッチブックに夢中で書き連ねる。
いつの間にか暗くなっていた。
昴は暗い教室でキャンバスに向かっていた。
「先輩。できましたか?」
「まあね。これ。」
窓枠から覗く風景は外周が明るい色で、内側が夜の闇を描く。その中心に星がキラリ。
「題名は・・・星は昴、はもうあるんだっけ?じゃあ。」
大空に描ける星。昴