そう言われても
もし良かったら、男子寮への案内をしてほしい。
そう告げる、自分と同年代くらいに見える少年に、登笈は一旦、どう返事をしたものか逡巡する。
まず、案内は出来ない。何故ならば、自分も今ようやくここに来たばかりだからだ。何なら街の入り口からここまでの道のりすら既に記憶の彼方である。
彼の身長は自分より少し高いくらいで、整った顔はしているが、まだ目元や表情からは幼さが感じられる。寮まで行きたいという言葉から考えても、やはり同じ入学生と見ていいだろう。
「……申し訳ないんだけど、僕も今日初めてここに来たとこでさ。案内板とか無いかなーって探そうと思ってたところなんだよ」
なので、ぺこりと頭を下げて謝った。こればかりは仕方がない。
まぁ、道案内というだけなら、近くのベンチに座っている人達に聞いた方が早い。最初は自分の足で探索したいということで、あまり人に尋ねるつもりはなかったが、彼は違うだろうし。
視線を戻すと、金髪の少年は面食らったような表情で突っ立っていた。が、何秒かしてから、何かに気付いたようにハッと瞼を大きく開いて、
「———もしかして、あんたもここに入学すんのか? 俺と同い年? え、歳いくつ?」
と、まくし立てるように、登笈の両肩をがっしりと掴んで質問を投げかけてくる。
どうやら、考えは当たりだったらしい。と、そのテンションの上がりっぷりに少しばかり苦笑いしながら、やがて登笈はコクリと頷いた。
「うん。僕も明後日からここの生徒になる予定なんだ。えっと……」
ちら、と少年の顔を一瞥すると、彼は、ああ、と自分の顔を指差した。
「俺、ライア。生まれはアテリア王国。今年で十三歳になる。君は、見た感じ東の方の人?」
髪黒いし、と一言付け加えて、少年———ライアはこちらに手を伸ばした。
断る必要もなく、登笈もその手を取った。ネサラに来て初めての友人になれるかもしれない。そう考えると、無性に楽しくなってくる。
「僕は宮城登笈。歳はき———ライアと一緒だよ。出身は枇杷の国だけど、今はアテリアに住んでるんだ」
「マジ!? へぇ、何か波乱万丈って感じだな。そっか、ミヤギ……はちょっと呼びにくいか。トオイって呼んでいいか?」
「あ、全然何でも好きに呼んで。名前で呼んでくれるなら、僕もそっちの方が嬉しいし」
そう言うとライアは、決まりだな、と白い歯を見せて笑った。
この後も互いに質問をして、互いに答えて笑い合いながら、二人は入り口から最も近い建物へと入っていった。
「……お、お腹空いた」
登笈とライアが去った後。へその辺りに手を当てて、ふらりふらりとよろめきながら、少女は学習院に足を踏み入れる。
直後。ぐぎゅるるるるるるるる、と一際大きな腹の音が響き、そのまま彼女は芝生の上に倒れこんだ。