二人の邂逅
時計台から重々しい鐘の音が響いていた。
見れば、短針が真上を向いている。この音は街中の至る所に届き、活気に包まれたネサラの住民たちに正午の到来を告げるものだった。
「あれが時計台……、予想よりちょっと小さいな」
それを登笈は、拍子抜けしたような顔で眺めていた。
ふーんとかへーとか漏らしながら、先ほど購入した、具がレタスだけの簡素なサンドイッチをかじる。
今しがたごーんごーんと鳴った時計台は、ネサラの時計台、だとかなんとか呼ばれていて、そこそこ有名な観光名所なのだとリアーネから事前に教わっていた。
なんでも、このスリージ聖王国の建国当初から存在する由緒ある時計台なのだとか。
しかし、こういったものはその建造物が持つ歴史や経緯などを踏まえた上で見ないと、あまり価値が感じられなかったりするものだ。
なので、その辺りの知識に乏しい登笈には、ちょっと古くていい感じの時計台、くらいにしか映らなくて当然なのかもしれなかった。
そうして色々なものを見聞きしつつ歩いていると、ようやくというべきか、目的地が見えてきた。
「おぉう」
それを目にして初めて口から出た言葉は、感嘆の一言だった。
眼前には、壮麗な景色が広がっている。
建造物というよりも敷地と表現した方が正しいだろうそれは、四つ五つ、あるいはもっと多くの棟で構成された巨大な箱庭だった。四方を成人男性の身長と同程度の高さの煉瓦塀に囲われ、開放された入り口からは大きな噴水と鮮やかな花々で彩られた庭園が客人を出迎える。
「ここが、そっか」
視線を右に傾けて、煉瓦塀を手で撫でる。そこに取り付けられたネームプレートには、確かにネサラ学習院の名が刻まれていた。
改めて、街に到着した時とはまた違った表情が登笈の瞳に重なる。高揚感とも不安感とも異なる、一言では言い表せない感覚や想いが胸中を漂っていた。
一旦、足元にトランクケースを置き、ここに来るまで世話になった地図を、ありがとう、と小声で言いながら折り畳む。
記載されていた通りなら、この敷地の中に学生寮もあるはずなので、とりあえずは中に入っても問題ないだろう。後は中で敷地内の地図でもなんでも探せばいい。
そうこう考えつつ敷地内へ足を踏み入れ、辺りを見回していると、背後から不意に肩を叩かれた。
「すんません。寮まで行きたいんスけど、学習院の人……っスよね?」
突然のことに焦りながらも振り返ると、そこには身なりの良い少年が立っていた。
「……んん?」
唸る登笈の表情に疑問を持つこともせず、少年———ライア=レアンドは、人当たりの良い笑みを浮かべる。