前編
中古屋のレジ前に設けられたレトロゲームの特価ワゴン。
俺はガチャガチャと音を立てながら、大量のレトロソフトの中から宝探しのごとく掘り出し物を求めワゴンを掻き回していた。
「目ぼしい物はないな・・・」
ひとしきりソフトを漁った俺はワゴンから手を引きそう呟く。
「あの・・・」
「はい?」
不意に声を掛けられ振り向くと、セーラー服を着た女子高生がいつの間にか横に立っていた。
黒髪のショートカットにメガネと地味な印象だが、整った顔をしていて中々の美人だ。
「レ、レトロゲームお好きなんですか?」
彼女がどもり気味に聞く。
どうやらお宝の発掘を見られていたようだ。
「まあね。君も?」
「は、はい。・・・あの、これ、すごいおすすめです。」
彼女はぎこちなく言いながら、ワゴンから一本のソフトを取って差し出した。
ラベルに描かれた剣と盾を持った男からして恐らくRPGだろう。しかし、見慣れないマイナーソフトだ。
「面白いの?」
「面白いです。昔、友達にやらせてもらいました。」
先程とは打って変わって彼女は活き活きと語る。
「ふーん・・・」
ソフトを裏返すと裏面には一〇〇円の値札が貼られている。
「その友達、クリアする前に死んじゃったんです・・・」
「え・・・?」
予期せぬ重い発言に俺は声を漏らし、手に持ったソフトによって隠れていた少女の顔を見る。
その顔はうつむき加減でどこか寂しそうだった。
「凄く面白くて大好きなゲームだって友達に話してた。でも交通事故で・・・」
初対面で話すような事ではないだろうに・・・変わった娘だ。
まあ、特価ワゴンのレトロゲームを漁る俺も人の事は言えないが、この手の変人はこの店でよく見かけるし、俺も過去に何度か絡まれた事がある。しかし、皆クセがあるだけで基本的には良い奴だった。
「それなら君に譲るよ。これは君がやるべきだ。」
言葉を失う少女にソフトを差し出す。
「えーと、あの・・・ごめんなさい。ゲーム機無いんです。」
彼女は困ったような仕草をすると、申し訳なさそうに言った。
益々変わった娘だ。
「・・・わかった。その友達の思い、俺が継ぐよ。」
俺は決断した。戦果無しで帰るのは癪な上、とても買わないなんて言える空気ではない。
「ありがとうございます。」
彼女はそう言って頭を下げた。
そして、俺はソフトを持ってレジへ向かった。
「一〇〇円になります。」
特価品なので返品は出来ない。レジ袋の要不要など一通りのやり取りを終えた店員は支払い金額を告げる。
俺はポケットから財布を取り出しながら、なんとなくワゴン付近に居るであろう少女をチラ見した。
「あれ?」
少女が居ない。
身体ごと振り返り、辺りを見回すがやはり居ない。移動したとしても視界の端に映りそうなものなのだが・・・。
「お客様、どうされました?」
レジに向き直ると店員が不思議そうな顔をしていた。
「ああ、いえ・・・」
言葉を濁しながら俺は一〇〇円玉を会計皿に置いた。
その後、周囲を気にしながらも店を出たが、結局少女は見つからなかった。