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誤字報告いつもありがとうございます。
「ん! 前回の魔道具と同じ感じの魔力があるね」
「マジか…」
昼前になって、美鈴が魔力を感知したようだ。しかも魔道具と同じ感じだという…
美鈴に誘導を任せ、その反応があった地点へと移動する。それほど強い魔力は出ていないらしく、そんなに遠いわけでは無いようだ。
「ん、アレかな? あそこに箱が埋められてる」
「ああ、確かにあるな。早速拾うとするか」
美鈴の指差す方に、確かに前回と同じような箱が視界に入った。
かなり高価だという魔道具を複数設置するなんて、これを用意した側の本気度が伺えるな。約束は明日だが、これは今日持って行った方が良いかもしれないな…
埋められている箱に近づき、確認。
「うん、同じような魔法陣が描かれている、間違いなさそうだな」
「感じる魔力も同じかな、これは間隔的に見れば、まだあるかもしれないね」
「そうか? なんでもえらく高級品らしいじゃん、2個あっただけでも驚いたのに、そんなにポンポン置いていける物じゃないみたいだぞ?」
「これを設置した目的は分からないけど、高級品である魔道具を使っているってだけでも、相手方の本気度が窺えるわね」
「そうか… 本気で王都を落としにかかるんなら必要経費って事か」
「その必要経費を奪っちゃってますけどね! それじゃあ夕方まで同じように探してみて、それから王都に行く? 急いだ方が良いような気がするよね」
美鈴も霞も、なにやら大事になりそうな件に嫌な予感を感じてるみたいで、王都に報告と薦めてくる。まぁ俺も同じように感じている事だし、ここは乗っておくとするか。
「だな、俺としては今からすぐにでもって思っているけど、晩まで探すか?」
「いや、今からの方が良いわね。報告してまたすぐに森に来た方が無駄が無いと思うわ」
「そうだね、晩までここにいたら、王都に着いた頃には門が閉まっているだろうしね。問題が起きて鍛冶屋が閉店でもしたら嫌だもん」
「ええ、その通りよ。おじさんもそれでいいかしら?」
「いや、提案したのは俺なんだが…」
ともあれ、満場一致で王都に戻る事にした。
しかし、何が起ころうってんだ? 王都を落として得をするやつって誰だろうか… 恐らく国内の者ではないだろうな。ともかく、周辺の地理も国同士の関係も良く分かっていない俺が分かるはずもないか。
急ぎ足で森を抜け、車に乗り込み王都へと移動を開始した。
グリムズ王国の西方にあるガスト帝国領では、帝国軍が集結しつつあった。
国境を越えた先にある、グリムズ王国辺境伯領であるアベマス辺境伯を襲撃するために集められた軍だ。その全体数は2万人に上り、準備ができ次第進軍を開始する手はずになっていた。
「輸送部隊と魔導士部隊の集結は完了したのか?」
いかにも高級そうな鎧を着こんだ大柄な男が、部下に対しそう問うと、その部下は姿勢を正して返答した。
「はっ、糧食の輸送に遅れが出ていて、この地点に到着するのは、およそ2日後になります」
「そうか、こちらの準備は終えている、急ぐよう伝えろ」
「はっ!」
部下が礼を取って下がり、入れ替わりに違う男が入って来た。
「将軍、出発は2日後という事か?」
「これは殿下、物資の輸送に遅れが出ているようで… 申し訳ありません」
「いや、別に大した問題ではない。無理に急がせて物資が失われる方が問題だ、それに… グリムズ王国の王都付近にある森の中には魔道具を設置済みだ、辺境伯領に攻め込む前に魔導士を派遣し、魔道具を発動させれば王都も混乱するであろう」
「はっ、それと同時に我らが辺境伯領を落とし、一気に王都まで侵攻すれば… 慌てふためいた王国軍を容易く蹴散らす事が可能でしょう」
「うむ、我が軍の損耗を限りなく減らし、グリムズ王国を落として見せよ! 将軍の活躍を期待しているぞ」
「もったいないお言葉… 全ては皇帝陛下のために」
「頼むぞ。それでは、俺はプラム王国側からの進軍部隊の指揮を執る。グリムズ王国の王都で落ち合おう」
「承知しました」
殿下と呼ばれた男は、そのまま馬車に乗り込み、東南東の方角にあるプラム王国を目指して進みだした。
ガスト帝国… 当代の皇帝は穏やかな人物であると周囲には伝えられていたが、突如豹変したかのように軍備を整え始め、周辺国に一切気取られる事も無くプラム王国を落としていた。
現在のプラム王国は、王家の血筋は全て処刑され、国内にいる貴族までも掌握を済ませており、もはや完全に帝国領と化しているのだった。
本来の目的は、帝国本土とプラム王国領からの2方向からグリムズ王国を攻め込む算段をしていたのだが、プラム王家が隠し持っていた魔道具を見つけ、それらを使って効率的にグリムズ王国を滅ぼそうと策を練り直した。
最終目的は帝国皇帝しか知らない事だが、現状軍部には、大陸全土を帝国領とするための聖戦だという事を伝えている。
帝国に伝えられている歴史では、大昔は大陸全土が帝国領だったと伝えられており、元の姿を取り戻そうという主戦派の者達は歓喜の声を上げて従った。
しかし、突如豹変した皇帝の動向を疑う者も出ていて、何者かに操られているのではないか、似ているが別人なのではないかと疑惑を呈する者もいる。
それくらい皇帝は豹変していたのだ。
目下最大の敵は神聖教国であり、信仰を元とした軍隊は、死をも恐れぬ狂戦士の集団だという。正面からぶつかり合えば、帝国が勝利する可能性は五分五分。むしろ押し込まれるかもしれない… それを回避するために、隠密に、それでいて迅速に神聖教国を取り囲む領地を持つ国々を落とし、複数の地域から攻める事で神聖教国軍の分散が最大の目的だ。
帝国軍が進軍を開始するまでは最速で2日後、辺境伯領を攻撃中に別働部隊がプラム王国側から魔道具を駆使して王都に攻め込む予定なのであった。
SIDE:来栖大樹
「ギルドマスターに取り次いでくれ、急ぎだ」
「は、はい、少しお待ちください」
俺達は王都に戻り、急いでギルドに来たのだった。
「ギルマスの執務室へどうぞ、先導します」
受付嬢に先導され、執務室へとやって来た。
「もう来たのか、約束は明日だったはずだが… 何かあったか?」
「ああ、もう一つ見つけてしまったよ。これは急いで報告した方が良いと判断したんでね」
「マジか… あの魔道具はそんじょそこらの組織が複数手に入れられるような値段じゃないんだが… 複数あったという事は、それほどの資産を持ったやつが何かしようとしている… という事だな」
ギルマスが顔をしかめながら言うのだった。