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誤字いつもありがとうございます。
異世界生活67日目
今朝も変わりなく、4時にはベッドから抜け出してロビーにやってくる。完全に慣れた手つきでコーヒーを用意してソファーに座り込む。
本日の行動は魔道具探しという事だが、ぶっちゃけ俺と霞は忙しい事にはならないはずだ。先日森に入った時と同じように、魔物の気配を探るだけでいいだろう。
魔力を探知できる美鈴だけは、ちょいとばかり負担は大きくなるだろうな。なんせ魔道具から発せられる魔力の探知を、俺と霞は出来ないからだ。適材適所と言えばそれまでだが、それ以外での美鈴の負担は俺達で減らしてやらなきゃいけないよな。
まぁ魔物の気配なんかは霞の方が素早く察知できるし、俺は俺で美鈴の護衛をする事になるかね… そんな訳で、今日から美鈴は中衛、つまり真ん中を歩いてもらう。先頭は霞で俺は最後尾という事だが、まぁこの森程度の魔物であればそれで十分だろう。
今日は一日森にいる事になると思うし、登山靴のようなしっかりとした靴でも探してみるか。
森の中を普通の靴で歩くと、どうしても土とか小石とかが靴の中に入ってしまい、歩くのに支障が出てしまうのだ。
靴の中で小石が足の裏を攻撃してくるアレ… とてもじゃないが気分の良い物ではない。登山靴だと足首よりも上まであるので、そういった土や小石が入りにくいんだよな… まぁ脱いだり履いたりするのに手間がかかるという点もあるが、メリットを考えれば些細な事だろう。
製造モニターの前まで移動し、靴の項目を見ていく。
ぶっちゃけ登山とかやった事が無いので、詳しくは知らないけど、まぁアレだろ? 靴底が厚めになっていて石とか踏んでも痛くないってやつ… 普通の靴よりか重いんだろうけど、その点は心配しなくていいからな。
まぁ女性陣は、少しでも見た目の良い物をって選ぶんだろう… これって俺が勝手に作ったらクレームが来るパターンか? ここはまず自分の分だけ作ってみて、見せてから作らせた方が円満に行くんだろうな… そうするか。
とりあえず自分用にと制作を始める。靴のサイズは26.5センチだ…
コーヒーを飲みながらボケーとして時間を潰し、気が付くと美鈴が起きてきた。朝の穏やかな時間は終了のようだ…
「おじさんおはよう、今日は何か収穫があればいいねぇ」
「魔道具ってのは金のかかる物らしいからな、案外1個しか仕掛けてなかったなんてオチがあるかもしれんぞ?」
「それならそれでいいよ、注文してある武器が完成するまでの時間潰しって考えれば、それほど苦にならないからね」
「そうだな、早くミスリルの武器… 使ってみたいよな」
「うんうん、ハンマーでぶっ潰す!」
恐ろしい事をさらりと言い放ち、顔を洗いに洗面所へ消えていった。
良い方に考えれば、この世界に順応して、魔物を討伐する事で稼ぎを得る冒険者として行動できているって事なんだろうけど、日本の女子高生としてはかなりぶっ飛んだ思考ではある。
まぁ確かに、この世界に来てもう2ヶ月が過ぎているから、俺自身も順応してきている自覚はあるがな… 美鈴ほどではないと思う。
洗顔から戻ってきた美鈴に登山靴の事を話し、作るなら作れと言ったらモニター前に陣取って考え込んでしまった。
「靴を選ぶのにそんなに悩むもんか? どうせ消耗品だろ」
「ええ? それはちょっと考え方の相違がみられますな。例え消耗品だろうと、身に付ける物であるならばしっかりと選ぶ… 常識だよ?」
「どこの世界の常識だよ。色合いを合わせるだけで十分だと思うんだけどな」
「甘いね! お洒落は足元からって良く言うでしょ? 足元は重要なんだよ」
なんか知らんが重要らしい。
まぁ性能で選ぶというならば納得だけど、お洒落と言い切りやがったからな… 美鈴は。しかし、美鈴でコレなら霞も同様のことを言うだろうな… どちらかというと、美鈴よりも霞の方がお洒落にうるさい感じがしているし、まぁいいか、マイホームを出るまでに決めろと制限時間を設けてやれば必死に決めるだろう。
その後、予想通り霞もモニター前に居座り、靴を決めるのに悩み抜いていた。だが制限時間を設けたのが功を成し、今までの中では最速で決め、出発する時間には完成させて履いていた。
「よっし、そんじゃ予定通り昨日魔道具を見つけた場所まで行って、そこから王都と平行に移動しながら探すって事で。明日はギルドに行くからそのつもりで」
「「了解」」
前回の魔道具を見つけたのは偶然だったが、魔道具から発せられる魔力を美鈴が感知したからすんなりと見つかった。今回も美鈴頼りになるだろうけど頑張ってもらおう… ま、あるかどうかもわからんのだけどね。
「この登山靴、どっしりとしていて悪路を歩くのには良い感じだね」
「そうね、安全靴と違ってつま先に鉄板が入っていないのが気になるけど、歩きやすいのは確かだわ」
「ちなみに、普通の女子高生には重い靴だから、却って歩きにくくなると思うんだけど… まぁ2人には関係なかったな」
「ちょっとおじさん! その言い方はデリカシーに欠ける発言だよ? まるで私達が重い靴を物ともしないって感じに聞こえるじゃない?」
「いやいや、その通りじゃないか。自覚しろよ」
美鈴の発言に思わず吹き出しそうになる。だが心配するな、お前達は決してか弱くないからな!
…と、思ったけれど口には出さない事にした。だって昔の人は言ったじゃん?『口は災いの元』ってね。確かに普通の女の子に言うにはデリカシーに欠けていた言葉だったのは納得できる… だがしかし! って思う訳よ。女心ってやつは大変なんだな…
「これでも学校では、チビとか貧相とか言われてたんだからね!」
「それは煽られてただけじゃないのか? 少なくとも誉め言葉じゃないよな」
「それはそうだけど… ガチムチ系女子って思われるよりもマシじゃない?」
「どっちもどっちだと思うがな… 少なくともミスリルのハンマーで戦っているところを見られたら、絶対ガチムチ系って噂が立つと思うけどな」
「いやいや、そこは『小柄なのにあんなデカい武器を振り回してSUGEEE!』だと思うよ!」
「どう違うんだか」
相変わらず微妙な方向にポジティブな美鈴だった… まぁ悪くは無いと思うからスルーしておいてやるか。
喋りながらも周囲を索敵し、昨日の場所まで辿り着く。
「よし、それじゃいっちょ働きますか」
「そういえば、ギルドの依頼を受けたのって初めてじゃない?」
そうか、そういえばこれが冒険者としての初仕事になるのかもしれないな。