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誤字報告いつもありがとうございます。
SIDE:レイコ
野宿を繰り返しながら西に進み、夕方近くになってようやくハワード伯爵領の領都に辿り着いた。
さすがは伯爵領の領都、今まで通ってきた町とは一味違う都会の雰囲気が漂っている。手持ちのお金も結構あるし、今日は久しぶりにベッドで眠れそうだ。
「ギルドに顔を出したいけど、情報収集する前に宿を確保しないとね。多分そのまま寝てしまいそうだから、ギルドは明日にしよう」
カオリと離れてから、最初は非常に快適だった。何をするにも自分で決められて、自分のペースで歩いたり走ったり、寝る時間も起きる時間も自分次第。
だけど… さすがに話し相手がいないというのは結構キツく感じて来ていた。
でも! これは自分で選んだ道だから、へこたれずに突き進むのみよ!
「1泊お願いします、2食付きで」
「はーい、小銀貨5枚ね」
受付にいたおばさんに話しかけ、ただの営業スマイルだというのになぜかホっとする自分… きっと身体的な疲れもあるんだ、へこたれないへこたれない!
夕食を取った。ここのところマインズの町で買ってあった非常食のみだったから、とても満足のいくものだった。
食べたら予想通り、急に眠くなってきたので、与えられた部屋に入り、ベッドにクリーンの魔法をかける。この世界の衛生面は信用できないからね、ダニとか普通にいそうだし。
済んだらやっとベッドに横になる。一応防衛のために防壁の魔法を張り巡らせ、ここまでやってやっと安心できる。
「寝る前に収納魔法の練習しないとね、要領は掴めてきているから、もっともっと使いこなせるようにして、容量や経過時間の軽減とか… もっと上質に」
収納系の魔法使いはとても希少だという、知られれば商人なんかがひっきりなしに交渉に訪れるという話を聞いている。バレると面倒な事になりそうね、だけど使えるものは使わないと生きていけない世界だから… 身の守りを最優先していかないと。
空間に隙間を開けてスペースを作るという、普通に生活していたら絶対に考えないような事を何とかイメージしながら集中する。
「ああ、もうダメね。眠くてしょうがない… うん、明日から頑張ろう」
ベッドに潜り込み、ゆっくりと休むのだった。
SIDE:来栖大樹
異世界生活66日目
おはよう、いつものように4時には起きてしまっている。
どうやら魔力的な疲れは大分解消されているみたいで、倦怠感などは感じない… 良かった良かった。
ま、アレはある意味どれくらいマイホームに入っていられるかを調べるテストケースだからな、さすがに今後、同じように引き籠る事は無いだろう。
とりあえず今日の予定はっと… ギルドに行って野生の魔物の出現場所と、魔物が多い危険地帯の場所を調べる事。ついでだし、他のダンジョンについても知っておいても良いかもしれないな。
とはいえ、ビリーカーンのダンジョン… あれはなんというか消化不良なんだよな。どうせなら最深部まで行ってみたいもんだし、ラスボスがいるんだとすれば… ドロップも期待できるってもんだ。
これは2人と相談だな。
多分霞は断らないだろう… アイツにとっての魔物は訓練相手みたいだし、深く進めば強い魔物が出てくるだろうから喜んで行くだろうな… だんだん霞が脳筋になってきた気がするが、それでも最初からあった知性的な印象は消えてはいない。大丈夫だろう…
美鈴はなんか考えている方向性が、徐々についていけなくなってきてる気がする。ミスリルのハンマーとかどうすんだよって思うが、本人が良いというから何も言えないしな。
まぁ美鈴もハンマーで暴れるために、ダンジョンに入る事は拒まないだろう。
「段々俺達も戦闘狂みたいになってきてるかもしれんな… 気をつけないと、知らないうちに暴力で何でも解決するようになってしまうかもしれない。さすがにそれは嫌だよな」
ゆっくりコーヒーを飲みながら朝の一時を満喫する。
さて、製造の項目が増えているかを確認するか。この10日間、魔力の消費だけを考えるならば、相当消費していたと思う。休んで回復させた途端に使っていた感じだったからな、回復よりも消費の方が上回ったって言う事が分かった事も良い事だ。
「さてさて? 何か増えてるかな~?」
項目を書いたメモと見比べながら画面を進めていく… すると!
「おお? 服のページが増えてるな、これは女性陣には見せたくないかも」
服が増えてるなら他のも増えている可能性はあるな! どんどん進めていくか!
ページを進めていくと、なぜかエス〇ードの強化パーツがあった。まぁこれはこれで使えるだろうな、魔物が飛び出してきて、非常時には車ごと体当たりなんて事もあるかもしれない。そんな時に強化パーツや保護パーツは威力を発揮するだろう…
「まぁそれ以前に、俺の運転が今よりもずっと上手くなれば回避できる事も増えるんだろうけどな」
運転が下手だとは思わないが、それはあくまでも交通ルールが存在し、それに沿って周囲が動くからでの事であって、こんなルールも何も無い世界で… それこそ車ですら武器として使える世界じゃ既存の乗り手の意識ではどうにもならないだろう。
大事なのはタイヤに問題が起きそうな石ころとか段差を、いかに素早く見つけて回避するか… 車へのダメージをどれだけ減らせるか、多分これがこの世界での上手な乗り方になるだろうな。
よし、妄想終わり! 他のページも見ていかないとな、特に武器のページを… なんて、この時はそんな事を思ってたりしました。
「おじさんおはよう! 何か増えてた? どれどれ」
起きてきた美鈴が、俺が書き留めていたメモ帳を取り、読みだしたのだ…
「おおー! 服が増えてるんだね? どんなのが増えてたの? ちょっとだけ見てもいい?」
はい、すっかり乗っ取られました。
まぁいいか。武器のページは気になるけど現状困ってないしな、ただ新しい物があれば使ってみて、練度を高めておく必要があるだけだ。
あれ? 実は結構重要だったりするのか? しかし何が増えているかなんて確認すらしてないからどうしようもない、美鈴が満足したら見る事にするか。
しかし、そんな時間が無いまま霞が起きて来て朝食となり、ギルドへ出陣と相成った。
「それじゃあ私は、強そうな野生の魔物について調べてくるわ」
「んじゃ私はマインズとビリーカーン以外のダンジョン関係だね」
「ええ? それだと俺は何をすればいいんだ?」
「おじさんは魔道具に関して調べてほしいかな、何せ日本人には馴染みのない道具だからね」
話がまとまり、マイホームを出るのだった。