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誤字報告いつもありがとうございます。
SIDE:賢者君
1日馬車に揺られ、ようやくダンジョンに辿り着いた。今日から実際に魔物と対峙し、殺して回る事になる。
俺は眼鏡をかけないと、人の顔も判別できないほど視力が悪かったんだが、魔法の訓練をしているとレベルという物が上がったのか、今では裸眼でも非常に遠くまでよく見えるようになっている。
しかし、眼鏡との付き合いは長いため、目が良くなったからといって外すという選択肢は無かった。外したのはレンズだけで、フレームだけかけているのだ。
「よし、勇者である俺が全部倒すからお前たちの出番は無いぜ!」
勇者の奴が何やら息巻いている、正直に言ってかなり鬱陶しい。日本人として見ればイケメンと言われるだけの顔立ちなんだろうが、この世界にやって来て、欧米風の顔立ちの人ばかりを見ていると、勇者の奴がイケメンだとは思えなくなった。
この国… イケメン率が高いんだよな
俺は運動は苦手な、俗にいうがり勉というやつだった。しかし陰キャだとは思っていない、それなりに社交性だってあるし、計算に限らず頭を使う事なら同年代に負ける事も無かったしな。
そういった意味で、俺が『賢者』となったのは当然とも言えるだろう。
「ああ、前衛は勇者に任すよ」
だから、この顔だけの勇者を俺の壁にして効率よく経験値とやらを稼がせてもらおうか。せいぜい元気良く立ち回ってくれ、俺はそのすべてを利用してやる。
SIDE:大魔導士
なんでこんな所に連れてこられたんだ? この2ヶ月の間… ほとんど魔法の訓練をしていないというのに、毎日毎日やる事と言ったら走る事や筋トレばかり… もっと僕を大事に扱わなきゃいけないだろう? 大魔導士様なんだよ?
それに… 勇者は結構立派な剣を持ち、賢者は古そうだけど何やら怪しげな杖を持っている。どうして俺には何もないんだ?
まぁいいさ、僕は最後尾にいるんだ、一番最初に覚えた初級魔法でだって活躍は出来るさ。
僕にはラノベで培われた知識を山ほど持っているんだ、それらを有効に使えば間違いなく『俺Tueeeee!』で、あの王女も僕の言う事を聞くようになるさ。
機会を見て、戦っている勇者と賢者にフレンドリーファイヤを仕掛けてやろう… お前達は僕のハーレム計画の邪魔になるだけだしな。
2人とも大した連中ではないだろうけど、『勇者』や『賢者』というビッグネームに人が集まってくるかもしれない、でもそんな事僕は求めていないから排除して当然だろ?
どうせここは日本じゃないんだし、大魔導士の肩書を持つ僕が多少はっちゃけたって何も問題は無いだろう。
今までキモデブオタと言って馬鹿にされていた鬱憤をここで晴らすとしようじゃないか! まずは城の連中に、僕が一番だってことを知らしめてやらないといけないから… 勇者と賢者にはここで退場を願おうかね… ふひひ
SIDE:来栖大樹
王都に戻ってギルドに到着した。そのまま受付に向かい、手すきの受付嬢に話しかける… もちろん霞が。
「近くの森に行ったのだけど、少し奥に入ったところに魔道具が落ちていたわ。これはギルドや国が関係する物なのかしら?」
そう言いつつ、美鈴が描いた絵を見せる。
「いいえ、王都の周辺に魔道具を仕掛けたなんて話は聞いたこともありませんね。それにこの絵… 上手ですね?」
「いえ、そこは気にしなくてもいいわよ」
美鈴が描いた魔道具の絵… 10センチ×30センチ程度の長方形の箱型で、杭のような物が取り付けられて地面に刺さっていた事なども書いてある。
箱の中心部くらいに魔石が取り付けられ、魔石の周囲には魔法陣のような模様が描かれている。
「とりあえず、この魔法陣が何を意味するのか調べてみる必要がありますね。絵に描かれている魔法陣は正確ですか?」
「見ながら書いてたから正確だと思うわ」
「了解しました、それではこの絵は預からせていただいても?」
「構わないわ」
「ありがとうございます。魔道具のあった地点を聞きたいので、場所を変えさせていただきます。他の人に聞かれて先回りされてはいけませんから」
「やっぱそうなるか…」
場所を移動し、ギルド内の小さな会議室のような部屋に案内された。そこには朝に会ったギルマスもいる…
移動中受付嬢に聞いた話では、地面に刺して使うような魔道具の大半は、儀式魔法に使うものが多いらしく、複数の魔道具で陣を築き、広範囲に効果を出すものだという。
そして、その効果というのは魔法陣次第だとの事で、良い物であれば、農耕地帯に配置して土地の働きを良くするものがあるというが、悪い物となれば… 大地を腐敗させたりする呪い効果の物が、過去に確認されているという。
そんな理由でギルドとしては放っておく事は出来ないらしい。
「それなら提案なんだけど、俺達が今からその魔道具を取りに行けばいいんじゃないか? その間にギルド側は魔法陣の調査をすればいい。その方が時間の節約になると思うんだけどな」
「ギルドとしてもそうしたいのだが、万が一国が何かの目的をもって設置してある物だった場合面倒な事になるのでな、一応手順を踏まなければいかんのだ」
「なんだか面倒そうだな… そういう事なら落ちてた場所を教えれば、俺達は解放されるのか? ギルドの事情でアレコレやりたいんだったら俺達抜きでやってほしいんだが」
「まぁそう言うな。もしも悪い効果のある魔法陣だった場合、他にも同様の物があちこちに設置されているかもしれん。その探索をお前達『セツゲッカ』に指名依頼を出したい」
「残念だが、俺達全員Dランクなんだ。指名依頼を受ける資格はないんでね、朝いた連中にでもやらせたらいいと思うぞ? なんせDランクだからと馬鹿にしてくるような奴らだ、さぞかし本人達のランクは高いんだろうよ」
まったく何を押し付けるつもりだ? この筋肉は。とはいえ、自分でアイツラが良いと勧めておきながら、アイツらも脳筋臭いから細やかな仕事は不向きなんだろうな… 知らんけど。
「ふっふっふ、残念だがギルドには強制依頼というシステムがあってな、ギルドマスターが指名したパーティはランクに関係なく仕事を依頼できるというものなんだ。もちろん断る事は出来ない」
「マジか… そんじゃ冒険者辞めるか?」
「そうね、そんなギルマスの我儘を聞くために冒険者に登録したわけではないし」
「じゃあそうしよっか! 別にそこまで言われてまで続ける気はないんだしね」
俺のボケに美鈴と霞が追随してくる… さすが分かってらっしゃる。