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誤字報告いつもありがとうございます。
「伯爵、これが王冠です」
「おお、戻ってきておったか。どれどれ」
伯爵は王冠を検め始めた。色々な角度から見ているようだが、良し悪しが分かるのかね… 俺には派手で華美な装飾品としか認識できないんだけどね。
「ふむ、確かにこれは素晴らしいものだな。何階層で出たのだったか?」
「これは50階層の守護者が落としたやつですね、オーガの上位種だったはずです」
「オーガの上位種か… なるほど、難易度に見合った報酬だったという訳か」
丁重に王冠を扱っていた伯爵が、そっとテーブルに王冠を置いた。
「では、この王冠は上納しても良い… それで構わないな?」
「ええ、もちろん構いませんが… その代わり、その王女さんとのアレコレは無かった事にしてくださいね?」
「うむ、陛下に進言しておこう。それで、王都にはいつまで滞在するつもりなんだ?」
「頼んだ装備が出来上がるのが5日後と言う事なので、最低でも5日はいますね。宿も取らずにふらついているので、どこにいるかはその時次第ですけど」
「宿を取っていないのか、いくら王都といえども外で寝泊まりしていれば危険だろう。なんだったらここに泊まらせてやっても構わないぞ?」
「いえいえ大丈夫ですのでお気になさらず、ギルドには顔を出すかもしれないので何かあればそちらにどうぞ」
「む、そう言っておいてまたどこかに消えるつもりじゃないだろうな」
「もし消えたとしても、戦闘訓練を積まなければいけないと思っているので、どこかダンジョンのある町にいると思いますよ」
「ビリーカーンのダンジョンには戻らないのか?」
「それも選択肢にはありますよ。まだ70階層だし、どうせなら最後まで行ってみたいし」
「ふむ、ともかくだ、この王冠をもって謁見をしてくる。どのような結果になっても連絡するから逃げないように頼むぞ」
「確約は出来ませんが、滞在中であれば」
「むぅ、そこは承知したという所ではないか。本当に頼むぞ? 俺だってお前達と敵対なんてしたくないんだ、陛下にはちゃんと伝わるよう話をしてくるから逃げるのだけはやめてくれ。探すのは大変なんだ」
「はぁ…」
そんな話し合いと言うか、なにやら逃げるなと懇願されたような気もするが… 終わって伯爵家の王都邸を出てきた。馬車で送るとも言われたが、さすがに馬車はお尻が痛いのでお断りした。
「さて… すっかり予定外の時間を使ってしまったが、これからどうする?」
「もう一度ギルドに戻って近場の狩場を調べる? どうせ宿なんて取ってないんだから、外で夜になっても問題は無いしね」
「そうね、トレーニングばかりで実戦から離れていたから、そろそろ何かと戦ってもいいわね」
「いやいや、ついさっき他所の冒険者やっつけてただろ?」
「「それは別腹」」
「ソッスカ…」
「さっき見た感じじゃ、この近辺だとブラッドウルフしか出ないみたいだから、それで我慢しとこうよ。武器が完成すればダンジョンに入ればいいんだし」
「ブラッドウルフ程度じゃ物足りないけれど仕方がないわね。それでも生きて動いている魔物であれば我慢するわ」
「ブラッドウルフが可哀想になってくるな…」
結局ギルドまで戻り、周辺の地形をギルド職員に聞いて最寄りの森に足を向ける。ああ、ギルドに戻った時、他の冒険者の連中は目を合わせてこなかったぞ! ホント分かりやすい奴らだな。
王都の西側、ビリーカーンの町とは反対側の門をくぐってみると、目視できる距離に広く緑が見えている。あそこが王都から一番近い狩場と言う事らしい、歩いて向かうと1~2時間ほどって所か。
「どうする? 歩くか車を出すか… ちょっと微妙な距離だよな」
「車で行こう! 時間は有限だしね」
「そうね、早く森に入りたいわ」
「じゃあそうするか」
ま、俺自身も車で移動したい… 歩くのは嫌いじゃないが、さすがに広い荒野を延々と歩くっていうのは心が折れる。目的地である森は見えているけど、着くのが目的じゃないからな… そこから狩りをするつもりなんだ、余力は残しておくべきだ。 もちろん体力的ではなくて、精神的な余力な。
ガレージの扉を出してエス〇ードを出庫、即座に2人が乗り込み出発となる。
「やっぱり馬車に乗った直後だと、車の偉大さが良く分かるよね」
「そうね、路面のデコボコの衝撃を吸収するサスペンションの効果は抜群だわ」
「ま、この車も悪路を走れるよう考えられた車だからな。タイヤも大きいし乗用車とは違うよな」
結構遠くに見えていたはずの森に、30分程度で到着。早速ガレージに車をしまって狩りを始める事になった。
「ま、ブラッドウルフ程度であれば、作戦とか陣形とかは不要だろう。迷子にならない範囲で自由行動にするか」
「「了解」」
「んじゃまずは、12時に1回集合して昼食だな。待ち合わせはこの場所で、一応迷わないように缶スプレーでマーキングしておくか… あとこれ、インカムを持って行こう」
一応交信距離が短いけど、以前使ったインカムをそれぞれ持ち、散る事になった。
「考えてみたら… こうして1人で狩りをするなんて初めてじゃないか? なんだかんだ常に誰かと一緒に行動してた感じだよな…」
しかしせっかくのソロ狩りだ、索敵から戦闘、収集まで全部一人でやらなければいけない。ある意味訓練にはちょうどいいのかもしれないな…
お昼までの僅かな時間、手ぶらで帰るなんて事にならないよう真剣に索敵を始める。足元を確認して足跡をチェックしたり、木に毛が付いていないかを見てみたりと、一応知識にあった行動を心がける。
「お、足跡発見。この辺縄張りなのかな?」
ブラッドウルフ程度であれば、不意打ちで奇襲されたとしても問題なく対処できると思うが、それでは何の訓練にもならない。弱い魔物だからこそ、気づかないで奇襲を受けるなんて事はむしろ恥ずべき事だ。できれば逆に、気づかれないように奇襲をかけるようにならないといけない。
腰を落として視界を下げ、集中して周囲の気配を探る。耳を澄ませて自分以外の音にも注意を払い進んでいく。
ブーン、ブーン、
「ちっ、もう時間か。1匹も見つけられなかったじゃないか…」
セットしていたスマホのアラームが鳴り、集合時間の20分前だという事に気づいた。
成果無しというのはちょっと照れるが仕方がない。俺が戻らなければマイホームに入る事は出来ないから、先に昼食を…なんて事はできないからな、戻るか。
自分が付けた足跡を頼りに、来た道を戻るのだった。