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誤字報告いつもありがとうございます。
「はー、良い暇潰しになったね! スッキリしたよ」
「そうかしら? あまりに弱くて物足りないわ。全員任せてもらえば良かったわ」
「何言ってるの、ちゃっかり3人も蹴り飛ばしたくせに」
「だって向こうから攻めてきたんだからしょうがないじゃない? おじさんも楽が出来て良かったでしょう?」
「いや、俺もやる気満々だったんだけどな… まぁ終わった事だしもういいけど」
霞は上手に手加減が出来ていたようで、骨折などの大怪我はさせていないようだが、美鈴の相手は気の毒だったな…
相手の男と身長差が結構あったから、足止めと膝をつかすために脛を蹴り上げたんだろうけど… その1発で足が折れ、悲鳴とともに倒れ込んだ所に顔面パンチ。
目の周りが黒ずむまで腫れあがっている… マジで痛そうだ。
「おい、雪月花の3人は俺の部屋まで来てくれ。ビリーカーン支部のギルマスから手紙が来ている」
「いや、どうせろくでもない話だろうから断るよ。あのギルドマスターもいい加減だったからな」
「そうだね、サブマスターの方が優秀そうに見えたよね」
あっさりと断りを入れ、美鈴が茶々を入れてきたのを、驚いた顔をして振り返るギルドマスター。
「そう言わずに来てくれ、貴族家絡みの話みたいだから無下に出来んのだ」
「貴族ったらハワード伯爵か? 尚更ろくでもない気がするんだが…」
そうは言いつつもギルド内部へと案内されて手紙を受け取る。
仕方が無いので中を見てみると… 伯爵名義で王冠とミスリル製品の売却要請と、この国の王家からの指示があるとの事だった。
「王冠はともかく、ミスリルは売れないよね。もう3人分の装備で結構使ったと思うし、どれだけ残ってくるかは終わらないと分からないもんね」
「それに… 王家からの指示って何のつもりかしらね、私達はこの国の民でも臣下でもないのに指示って」
「ま、偉い奴にとっては冒険者なんて、体のいい駒にしか見えてないんだろ。お断りの方向で確定だな」
「ん? なんだお前達、ミスリルなんて持ってたのか? どこで手に入れたんだ?」
ギルドマスターが口を挟んでくる。そういえば鍛冶屋のおっちゃんが言ってたっけ、ミスリルはここ最近採取されなくて希少価値が高まっていると…
「ビリーカーンのギルドマスターに伝えてあるけど聞いていないのか? 60階層のボスがミスリルゴーレムだったんだよ。そいつの体の一部を吸収される前に取り上げて持ち帰って来たんだよ」
「60階層か… 確かお前たちが来る前の最高到達点は40階層だったよな、そうなると簡単には手に入らないって事だな」
「ま、そうかもな」
ギルマスの話では、数日前にはハワード伯爵は王都に来ていて、王都邸にて連絡待ちをしているとの事、俺達が酔っ払いといざこざをやってる最中に、職員が連絡に走っているので待機しろとの事だ。
「いや、付き合ってられないんだけど?」
「まぁそう言わんでくれ、こっちも正式に依頼されたから仕事として受けてあるんだよ」
「そうやって冒険者を売ってるのか? ギルドマスターって奴は」
「いやいや、そういう訳じゃないんだ。この件には王家が絡んでいるからこっちも断れないんだよ、そこは分かってくれ」
コンコン
ギルドマスターの部屋の扉がノックされ、マスターの許可とともに職員が入って来た。
「ハワード伯爵家の執事が参りましたのでご案内します」
「おう、入ってもらってくれ」
そう言われて入って来たのは、見覚えのある老執事だった。 確か名前は…
「お久しぶりでございます、ハワード伯爵家の執事グロウです。本日はこのまま伯爵家の王都邸までご案内させていただきます」
「断る事は?」
「出来ません、諦めてください。『デンチ』の事とか、聞きたいことが多々あるようなので、詳しくは伯爵様にお尋ねください」
逃げられそうもないか、しょうがないな。チラリと美鈴と霞の方を見ると、やれやれと言った感じで頷いているので付いていく事にするか。
執事のグロウに付いていくと、ギルドの前には馬車が横付けされていて、それに乗るよう言われて乗り込んだ。
「馬車に乗るのは2回目だけど、こっちの馬車は多少乗り心地が良く感じるね」
「そりゃー貴族家の馬車と、あんな荷物同様に運ばれるような馬車と一緒にしたら失礼だろ」
「そうかもしれないけど、やっぱり車の方がお尻が痛くならないから…」
「おじさん、クッションは?」
「残念、道具箱に入れていないな」
「「がっかり」」
執事のグロウが同乗しているにもかかわらず、乗り心地について愚痴を言い出す女性陣。まぁ車と比べちゃいかんよね。
「まぁホラ、王都に来てから町をうろついていなかったんだ、車窓からだけど街並みでも堪能したらどうだ?」
「それは言われなくても見てた。確かに都会ではあるよね、今まで見ていた中では…だけど」
「そうね、石造りの建物ばかりだから地震が起きたらと思うとちょっと怖いわね」
「地震が無いからこんな街並みなんだろ? 日本と比べちゃいかんよ、日本は地震大国だしな」
「そういえばそうよね、地震に台風… 災害ばかりだわ」
「地震…とは何のことですか?」
世間話をしていたらグロウが話しかけてきた。この世界では地震っていう現象は起きないのかな?
「大地が揺れる現象の事を言うんだよ。この辺では起きないのか?」
「なるほど、地揺れの事でしたか。年に1回あるかないかですね… それで、地震大国という事は何度も起きるような国だったと?」
「そうだな… 年に千回とか普通に揺れるよな。数年に1回ペースで大災害が起きたりとか… 建築物も地震が前提にあって、崩れないように設計されたりしているからな」
「ほほぅ、地揺れの災害とはどのような規模なんでしょうか?」
「規模で言うなら… 大地が割れたり山が崩れたりするな。あー後、火山の噴火も多い国かもしれないな」
「それはまた… 大変な国だったのですね」
「まぁ生まれた時からそれが当たり前の状態だったから、災害が起きたらどうやって生き残るかっていう避難訓練を国中の地域がやっていたからな」
「なるほど… そのような土地にこの町があったとすれば…?」
「1年… もって2~3年で崩れ去るんじゃないかな。俺達の生まれた国の建物は頑丈に作られているけど、それでも壊れたりしてたからな」
「そうね、確か統計では震度6強の地震が起きる確率は、年に1回だったはずだわ」
ちょっと話をしていたら馬車が止まり、伯爵家の王都邸に着いたようだった。