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誤字報告いつもありがとうございます。
鍛冶屋での打ち合わせで結構な時間を使ってしまい、日はずいぶんと傾いているようだ。スマホを見ると午後4時… 朝一から門前で並び、ギルドに立ち寄ってから鍛冶屋へ直行していたため、昼食も取っていないのだ。
「この辺の建物の隙間なんか人目に付かないんじゃない? お腹も空いたしそろそろ…?」
「そうだな、15日は長いと思うけど、まぁ欲しかった武器が手に入るんだから仕方ないか… んじゃ隠れそうな場所を探すとするか」
「「了解」」
工業区域にはびっしりと建物が並んでいて、商人と思われる者や冒険者らしき者がひっきりなしに歩いているのが見える。
しかし、建物の隙間や路地の方に行くと人気は無く、建物自体が歪な物が多くて、建物の隙間を縫って歩くとすぐに死角になる場所に辿り着いた。
「この辺でいいかな? 腹も減ったし今日の営業は終了って事でいいな?」
「うんうん、お腹空いた~」
美鈴がお腹を押さえて空腹をアピールしてくる… 霞も同様らしいのでマイホームの扉を出して中に入った。
昼食には遅く、夕食には早い時間だが、ここはガッツリと食べたい気分だ。厨房には美鈴と霞の両名が向かい、今から調理をする。
その間に俺は自分用の作業服を新調する。使うか使わないかは別として、ミスリル製の剣を下げる事になるんだから、俺も青が似合いそうな色の服が欲しいと思った訳だ。
「うーん、青が似合う色か… 黒は意外と汚れが目立つからなぁ、その点グレーは便利なんだよな。まぁいいか、黒にしてしまおう」
相変わらずポケットが多く、破れにくい素材で作られている作業服の黒を選択して製造を開始する。
日本人らしい黒髪に黒い作業服、バッチリ合うとは言わないが青い剣との相性は悪くないだろう。センス? 俺にそんなものを求められても困る、違和感さえなければ良いと思っている人間だから。
「よしよし、今後はこの黒いのもローテーション入りだな。普通の服も作った方が良いのかもしれんが、まぁ異世界だから作業服だとは判断されないだろう」
「それはわからないよ? 作業服ってポケット多すぎるからね。胸元に2ヵ所、お腹の部分に2ヵ所、腰に2ヵ所、お尻に2ヵ所、太ももに2ヵ所… さすがにこれだけポケットが付いていれば、何かしらの仕事着だって普通に思われると思うよ」
「なんだと…!?」
厨房にいるはずの美鈴から突っ込みが入ってしまった… 日本にいた頃はスーツさえあれば足りたので、休日のお出かけ服なんてろくに持っていなかったせいか、衣服に対しての無頓着は今に始まった事ではない。
1人身も長いので、それに対して突っ込んでくる奴もいなかったから変わる事が無かったのだ。
「なんなら… 私がコーディネート、してあげよっか?」
「面白そうね、私も参加したいわ」
「いやちょっと待て、この作業服は便利だから気にしてないぞ? それにおっさんが今更お洒落に目覚めるなんて滑稽すぎるだろ」
「いやいや、おじさんもどういう訳か、召喚された日に比べて若返ってるような感じがするよ? ダンジョン入って戦闘してるからかもしれないけど、肌のハリとか血色も良いし、30台前半って言っても大丈夫なくらい」
「そりゃないだろ。確かに体は軽くなったと思うし、以前に比べたら筋力も増えてると思うけど」
思わず自分の腕を見ながら、手を握ったり開いたりを繰り返し、筋肉の動きを見てみる。
確かに血色は良いし、筋肉に押し出された血管が、なんとも言えない肉感を出しているが… うん、こりゃあ間違いなく召喚された日よりもマッチョになってるよな。
「仮に30代前半に見えるとしても、俺本人が不要だと思っているからな… お洒落を。だから、おかしくない程度であればそれでいいと思うんだ。だから気にしないでくれ」
「そうかしら? ガッチリとした体つきだから、色々と似合う服があると思うのだけど」
「そうだよね? これでただの中年太りだったならこんな話はしないよ?」
「まぁまぁ、それで… ご飯は出来たのか?」
腹が減っているのもあるので、話を逸らしてやった。
「出来たよ、早く食べたいからラーメンにしたよ」
「おっ、ラーメンは好きだから何も問題は無いな。じゃあ飯にするか」
「「はーい」」
よし、無事に逸らせたようだな。よきかなよきかな…
「さて、明日からの2週間の過ごし方について意見を集めます。残念ながらマイホームに引き籠るというのは無しの方向で頼む」
「とは言ってもさー、実際何日引き籠れるのか試しておいた方が良くない? マイホームに入れないほど消耗してしまったとしても、私と霞でフォローできると思うよ?」
「そうね、現状を知っておくのは悪くないと思うわ。まぁマイホームに入っていたら疲れるとか、体調が悪くなるとかならさすがに止めるけれど」
「ふむ、そう言われればそうかもしれないな。実際一晩くらいじゃ魔力を消耗したような感じは無いし、せいぜい何かを制作した時に魔力を吸われる感覚があるくらいだ。車を作った時が一番疲れたな」
「それじゃおじさんの体調が悪くなるまで引き籠りという事で… 昼間ならお風呂使ってもいい? そろそろ熱い湯船につかりたいなーと思ってたの」
「なるほど、狙いはそこか」
「そりゃーね、普段はおじさんが使ってるわけだし、邪魔する訳にもいかないからシャワーで済ませてるけど… たまには使いたいじゃない?」
「そうね、そういう事なら私も参戦するわ」
「あーわかったわかった、引き籠り中は夕食後に入るから、その前後なら許可するよ。決して入るタイミングが被らないようにしろよ?」
「やったー!、了解だよ!」
「やっぱりマイホームの中にいれば、訓練時間が増えるからいいのよね。日中外にいたら、時間が足りなくて余り訓練できなかったから… 朝も早いし」
「まぁそうかもな、とりあえず通常通り使いながらどれだけ入っていられるかの検証って事で、じゃあ会議は終了!」
SIDE:アニスト王国、国王
「陛下、ダンジョン都市マインズに配置しているものから連絡が入りました」
「やっと来たか、よし申せ」
「はっ、マインズに訪れた異世界人は5名との事、中年の男性が1人と黒髪と茶髪の女性4人との事です。王都に戻りながら通りすがりの町を訪ねても、この5名しか確認が取れませんでした」
「つまりなんだ? 回りくどい言い方をしないで結論を言え」
「はっ、確認の取れない金髪の男女2名… この者達は国境を越える前に何かしらがあって死亡したのではないかと。我が国の儀式魔法陣が消えてしまったのはそのせいかと…」
「くっ、軟弱な奴らめ。どうせ逃げるのならばちゃんと隣国まで行けばいいものを… まぁ今更騒いでも仕方あるまい。勇者達の訓練を急がせよ、兵器として使えるようになれば、他国を攻め落としたときに魔法陣も手に入るからそれを代わりとする。 もちろんこの事は外部に漏れないよう細心の注意を払え、いいな?」
「承知しました」
「では仕事に戻れ」
魔法陣が消失した原因はやはり異世界人の死亡だったか、しかしこの際どうでもいい… 他の国から奪えばいいのだ! 今に世界は儂の物となるだろう!