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誤字報告いつもありがとうございます。
SIDE:ハワード伯爵
「どうも行き違いがあったらしく、あの者達は王都に向かったとの事です。目的は武器などの製作との事なので、しばらく王都に滞在するのではないかと思い、王女殿下におきましても… このような田舎町に滞在されるよりも遥かに良いのではと」
「ほぅ、行き違いですか… 私をここまで待たせておいて、その時間が無駄であったと」
「彼らに事前の連絡がいっていませんでしたので、仕方がないかと」
「そういう問題ではありませんよ? 国王陛下からのお言葉を携えた私を待たせることが問題だと言っているのです。しかし、これ以上この町にいるというのでは気が滅入りますので、王都に戻るというのは反対しませんわ」
「大至急準備を進めていますので、しばしお待ちを」
なんとか王女殿下から移動の許可を得ることが出来た… これで王宮に戻っていただければ、今後俺は関わらずに済むだろう。
「全く… 僅か3人でこの町のダンジョンの70階層を踏破できるという者が、どれだけ恐ろしいのか理解していないな」
思っていた事がつい口から漏れ出す…
王家の女子に生まれた以上、その身は必ず国のために使わないといけないと指導されている。いずれは会った事も無いような男に政略のために嫁ぐ事になっていた身だったのだが、突如降ってわいた異世界人との婚姻話。
その婚姻には、異世界人の持つ知恵と力を取り込もうとするもので… その扱いは当然婿入りとなる。そうなれば当然第4王女はその妻として、この国に残る事が出来るのだ。
王女殿下からすれば、全く知らない地に嫁ぎに行くよりも遥かにマシな待遇が約束される事となり、何が何でも口説き落としたいというところだろう。
他国の王家に嫁ぐならまだしも、王家よりも格下の貴族家に…と考えれば、異世界人を婿に取り、今まで通り王宮で暮らせるほうが得だと考えているに違いない。
「なんだかタイキが気の毒に思えてきたな… あの男の事だから拒否すると言うだろうが、それは是非我が伯爵家と関係の無い所でやってほしい。後は無事に送り届けるだけだ」
現状で一番面倒だと思われた仕事が片付いたため、ほっと一息をつくのだった。
SIDE:来栖大樹
「こんにちはー」
鍛冶屋の中に入り声をかける、見た所人がいないのだ。
「誰もいないとか不用心にも程があるだろ」
「そうね、あちこちに武器とか置いてあるし… なにか防犯対策しているのかもしれないわね」
「とてもそうは見えないけどな」
ドカドカと足音を立てながら奥へと入っていく、建築用の安全靴を履いているせいで、足音が良く響くのだ。これは靴の裏のゴムが非常に硬いから仕方ない、足音を消す必要も無いのでそのまま履いているのだ。
「おう、何か買いに来たのか? うちは初心者向けの装備以外は受注生産なんだ。物にもよるが時間はかかるぞ?」
店の奥から俺とそう年の変わらない感じの男が出てきた、この店の店主と言った所か…
「装備の制作を依頼しに来たんだ、ギルドからの紹介状もある」
「ギルドからの紹介か… どれ、見せてみろ」
紹介状を店主らしき男に渡し、反応を見る。
男は紹介状の中身を読み終えたようで、紹介状を引き出しにしまった。
「アンタらがビリーカーンダンジョンの最下層を進むパーティか、ビリーカーンの町にはドワーフの鍛冶師がいたはずだ… 奴に頼まなかったのか?」
「ああ、あの鍛冶師は俺達のような見覚えのない者に武器を作るのが嫌らしい。態度も悪いし願い下げをして王都に来たんだ」
「ガッハッハ! ドワーフの鍛冶師を相手に願い下げと来たか、確かに奴は傲慢な態度が過ぎるから王都で干された奴だが、腕前だけはいっちょ前なんだぞ?」
「こちらの要望を無視して勝手をやらかしそうな気がしたんでね、どれだけ腕が良かろうが、そんなのは求めてないからな」
「いいだろう、それで? どんなものを作りたいんだ? 素材次第では足りないものもあるかもしれんからな」
どうやらようやくまともな鍛冶師と出会えたようで安心した。
「ミスリル製の物を作ってほしいんだが、ここで加工は出来るかい?」
「ふんっ、ミスリルくらい扱えないようじゃ王都に店を構えることは出来んよ。しかし… ミスリルその物が品薄で手に入らん。今から探して買い取るとなると、結構な額になるが大丈夫か?」
「ミスリルはすでに持っている、だから加工だけを頼みたいんだ」
「なんと! ミスリルを持っているのか! そいつはいいね、是非ともやらせてほしいもんだが… そうなると、ビリーカーンの町の鍛冶師は馬鹿な事をしたもんだな。近年ミスリルは全然見かけなくなってしまったから希少素材なんだ、まぁそのおかげで俺の店に来てくれたんだから… 感謝しといてやるか」
ほぅ、ミスリルその物が希少な素材なのか… そういえばドワーフの鍛冶師もミスリルと言った途端に態度が変わったからな、今更どうでもいいけど。
そんな感じでマチェットを1本手渡し、全く同じものをミスリルで3本、後は各々が欲しい物を注文していった。
価格に関しては、加工だけなのでそんなに高くならないらしく、マチェットが1本あたり金貨5枚、霞の腕輪と脛当てのセットで金貨15枚。美鈴が所望した大型のハンマーは… なんと金貨3枚だった!
なぜマチェットよりも安いのかというと、ただ溶かして造形するだけなので…との事だ。良かったな美鈴!
それで俺はというと… よくあるファンタジー系でありふれたような聖剣風の片手剣にした。鞘はあまり目立たないように普通にしてもらい、金貨20枚を請求された… 何故一番高いんだ、解せぬ。
「よし、前金は確かに受け取ったぜ。巨大ハンマー程度ならすぐに出来るが、腕輪と脛当てはちょいと時間がかかるな。15日という所か」
「15日か、了解した。そのころにまた来るよ」
「おう、任してくんな!」
それぞれの財布から、請求額の半分を前金として払って鍛冶屋を出るのだった。
「やー、なんか私だけ安上がりだったね! 金貨8枚しかかからなかったよ」
「腕輪と脛当ては細工が細かいから、もう少しかかると思っていたけれど… なんとか予算内で収まってよかったわ」
「そう…だな」
「いやーしかし、おじさんがまさか普通の片手剣とはねぇ… 一番高かったし」
「そうね、でも剣としては格好良い感じになるんじゃないかしら?」
「やっぱり王道だからね、なんかエクスカリバーって感じでしょ? いいと思うよ!」
「そう…だな」
やはりバレていたか、エクスカリバー的な剣を頼んだことを… くっ
一番金貨を使ってしまったが、霞の言う通り予算内で収まったんだから良しとするか。