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誤字報告いつもありがとうございます。
SIDE:ハワード伯爵
タイキ達が町を出て行ってしまった、これには困った… 王女殿下もそろそろしびれを切らす頃だろうし、キャサリンを傍に付けているとはいえ、我儘王女だからな…
「こうなったら王女殿下を連れて王都へ戻った方が良いのではないか? ダンジョン都市にいるよりは遥かに娯楽も多いし、待つことも苦にならないはずだ」
よし、そうしよう。いつまでも王女殿下のお守など神経がすり減ってどうにもならん、ギルドの方で王都支部に連絡を入れるはずだからもう向かってしまえばいいんだ。
「グロウ、すぐに出立の用意をしろ。行先は王都だ、王女殿下もお連れするから護衛はしっかり頼む」
「承知しました…が、王女殿下にはなんと説明すれば良いのでしょうか?」
「はぁ… さすがにそれは部下に任せる仕事ではないな、俺から説明しておくから気にしなくても良い。準備だけを頼む」
「承知しました」
さて、上手い事説明をしなくてはな… 王女殿下の身柄を預かる身としては、早急に事を済ませて解放されたいからな。
我が領地からさっさと退場願って王都に帰ってもらわねば…
言い訳を考えながら王女殿下が休まれている部屋に向かって歩き出した。
SIDE:来栖大樹
2時間ほど走っていると、地平線の彼方に町を守る防壁が見えてきた。
「おっ、あれが王都なのかな? 確かに遠くから見てもでかいな」
「うん、今まで見てきた中では最大の町だね。多分あれが王都なんだろうね」
「という事は、車で近寄ると… もれなく門衛に囲まれてってなるんだろうな。目に見える位置に行先があるという事だし、体力的にも問題ないからここから歩くか?」
「それでいいと思うわ、座ってばかりだと体も鈍ってしまうし」
満場一致という事で停車し、車庫にしまってから歩くことにした。とはいえ、さすがにこの距離だと今日中に着くことはできないだろうな…
平野部なので見通しはいいが、目算だと3~40㎞くらいはありそうだ。逆に言えば、見通しが良いせいで、防壁の見張り番に容易く見つかってしまうという事だ… 面倒は回避して当然だな。
手ぶらでの移動はさすがに怪しさ満載なので、いつぞやに用意した旅人ダミーセットを担いで歩く。ダミーセットの中身は水の入ったボトルにタオルが数枚、腰には3人揃ってマチェットを下げている。
さすがにミスリルソードやミスリルの槍を見せびらかすなんて愚行はしない。最悪の場合、門衛に没収されて終了なんてあり得るからな。
「それにしても、ここの所戦ってばかりの日々だったから、こうして暇になると体がうずうずするよね」
「そうね、でもミスリル製の武器防具は欲しいから我慢できるわ」
「霞は何を作るつもりなの?」
「私は… そうね、手甲と脛当てを作ってもらおうかしら。いくら身体強化しているとはいえ、直接蹴るのが嫌な魔物っているじゃない?」
「それはあるね、私はどうしようかなー、マチェットは確定として槍もあるし… 大きなハンマーみたいなやつを作ってもらおうかな!」
「え? それを作ってもらってどうするつもり?」
「もちろん使うんだよ、武器としてね。やっぱりファンタジー物だと定番じゃない? 小柄な子が自分よりも大きな武器を振り回すのって」
「定番なのかもしれないけど、それを美鈴がやらなくてもいいのではないかしら」
「いや、もう決めた! 普通であれば邪魔な荷物になるけれど、おじさんの倉庫があるから不要の時は隠していけるしね」
「巨大なハンマーねぇ… とても斬新ね」
「でしょでしょ?」
2人の会話を聞いているが… 定番なのかソレ? 確かに小さな女の子がドでかいハンマーを使っているのはアニメやなんかでは良く見る事だが… 聖女があえてそれをやるのか? ちょっとよくわからないな… この件には触れないでおくか。
しかし… そうだな、俺はどんなものを作ろうかねぇ…
日本刀だとどうだ、見本が無いと多分作れないかもしれないんだよな。あのしなり具合も計算されているんだろうし、鞘だって抜くときに滑るようにできていたはずだ。となると、普通に片手剣になるかな… 某海賊アニメみたいに三刀流とかは… アレは無いな。二刀流だとやっぱり特別な技術が必要になるんだろうし、どうするか…
「おじさんは何を作るの?」
「んー? 今考えているんだけど、何が良いかねぇ」
「うーん、某三国志ゲームにあった偃月刀とか格好良いんじゃない? 青龍偃月刀とか… ミスリルも青いしちょうどいいかも?」
「おーそれな! それなら俺も知ってるぞ。義兄弟の次兄が使ってたやつな」
「そうそれそれ、ただあの武器だと薙刀の技術が必要になるかもしれないけどね」
「そうだなぁ、あの形状なら確かにな。やっぱり技術が無いと扱えない武器はどうかと思うんだが」
「それもそうだけど、ここは異世界なんだから誰も正しい技術なんて知らないし、我流で使っていればそれが正当流になると思うよ?」
「それは… 地球の開祖に申し訳が立たんだろ」
「まぁまぁ、空手のなんとか流とかっていうやつも、元祖の空手から独自改良したりしてるんだから大丈夫じゃない?」
「ま、着くまでには考えとくよ」
王都の防壁はまだまだ遠くにある、早くても今晩… つまり今日は入れない可能性の方が高いのだ。しかしマチェットは俺も作る予定だから、槍みたいな中距離の武器か、いっそミスリルでボウガンを作ってしまってもいいかもしれないな。ボウガンの作り方をこの世界の鍛冶屋が知っているかどうかはわからんが… あ、弦の問題があるのか。確か張りっぱなしはダメだとかなんとか、お手入れが大変そうだな。
最悪はマチェットだけにして、残ったミスリルは保存するってのも有りだな。
「それでね、おじさんにお願いがあるのよ。聞いてくれるかしら?」
「ん? そりゃ内容によると思うけど」
「ミスリルの青い手甲と脛当てを作ってもらうとして、その色に合わせた戦闘用の服を作ってもらいたいのよ。作業服のような形状じゃなくて、ショートパンツ系が良いと思うのだけど… どうかしら?」
「ああなるほどな、確かに良質な装備をしていても服が合わなければみっともないもんな。まぁそのくらいなら許可するけど」
「本当? じゃあ早速今晩にでも製作してもらっていいかしら?」
「ミスリルの防具に合わせるんなら装備が出来てからの方が良いんじゃないか?」
「それもそうだけど、王都と言えば国で一番の都じゃない? 作業服はちょっと… と思ってしまって」
「ああ…、さすがに伯爵家に行った時のような服じゃ浮くしな。まぁいいだろう、町用に1着と… 戦闘用の服は替えがあった方がいいだろうな」
「それじゃあ今晩は早めに休んでも良いんじゃないかしら」
「おいおい、現金すぎるだろ」
こんな異世界でもお洒落には気遣うものなのね… 俺にはわからんが年頃のお嬢さんにしかわからない何かがあるんだろう。 それくらいなら許容範囲だよな! ただ、何時間も悩むのだけはやめてくれよ!