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誤字報告いつもありがとうございます。
「車のサイズ的に… 二回りくらい大きくなったかな? これなら後部座席でもゆったりとできそうだね」
「車の跳ね方も変わるから、移動中の揺れもかなり収まると思うぞ? それじゃあ乗ってくれ」
車の感想を聞きつつも、なるべくビリーカーンの町から離れようと判断し、日が落ちてからも少しだけ移動する事にしたのだ。
「いいねこれ! バインバインって跳ねないよ!」
美鈴が歓喜の声を上げている、身長の都合で霞は最初から助手席にいたが、美鈴も最初から狭い後部座席に座っていたからだ。
一時期は後部座席に3人座っていたからな… 軽での5人乗りはマジでキツイ。
車の跳ね方が穏やかになったせいか、ジ○ニーを運転してた時よりも格段に乗りやすく感じるな。気が付くと荒れている道なのに60㎞/hほど出していた… 危ない危ない、この路面だと緊急時には急に制御できないからな。いくら異世界補正で反射神経が良くなっているとはいえ、車が言う事を聞いてくれなければ話にならない。
「こんな事なら低μ路の走り方を学んでおくべきだったなぁ… まぁ東京に住んでりゃそんな経験は出来ないんだろうけど」
「低μ路って何?」
「タイヤとの摩擦係数が低い路面って事だよ、アスファルトの道路に比べたら砂利道は横滑りしたりするだろ?」
「あ~なるほど、ラリーとかってやつだね?」
「まぁ… うん、そうだな。こういった路面の走り方って知識よりも経験がモノを言うからな、数をこなさなきゃ上手くいかないんだよ。 北海道の冬だと、普通の主婦とかが雪道で滑ってしまっても、普通に立て直したりするらしいぞ?」
「ほえ~、そんなもんなんだ」
ライトを点灯し、50㎞/hで3時間ほど走ってから停車する事にした。スマホの時計では午後8時半を過ぎた所だ、ちょいと遅くなってしまったが残業というわけではないのでセーフとしとこう。
「それじゃあ晩飯を食って休むとするか」
「あ、槍だけ出しておいてね。後で霞と一緒に訓練するから」
「お、おう。もちろん忘れてなんかいないぞ?」
なんて言ってやったが、完全に忘れてました。そういえば槍を拾ったな… 自分のじゃないからと気にしていなかったわ。
しかしそうだった、槍の聖女が誕生したんだったな… 槍の聖女ってなんだよ? マチェットの聖女よりは良いかもしれないが… いや良いか? まぁいいや。
いつも通り夕食を取り、風呂に入ってベッドに潜り込むのだった。
異世界生活54日目
いつも通り4時前に起床、自然に目が覚めるのでとっくに諦めている。二度寝しようにも目が冴えていて無理っぽいので仕方なしに起き上がる。
ここ数日ずっとダンジョンでの戦闘をしていたが、ミスリルを扱える鍛冶屋がある町までは常に移動する事になる。 つまり、体が鈍るかもしれないという事だ。せっかく鍛えたのに元に戻ってしまうのは問題だという事で、夜間の訓練は充実させようという事になった。
移動中も魔物を発見した時は、できる範囲で討伐していく方針だ。まぁ街道を走っている限り魔物が飛び出してくるというのは少ないだろうと考えている。
まぁ王都方面に向かっているわけだからな、辺境よりも魔物が出るというわけがない。というか、野生の魔物は平地には余りいないんだよな… アニスト王国から護送されていた14日間も一度も現れていない、しかし森に入った途端普通にブラッドウルフがいたから住み分けが出来ているんだと思う。
「おじさんおはよー、顔を洗ってくるね」
「おはよう、終わったら霞を起こしてきてくれな。ダンジョンじゃないから夜明け行動だからな」
「了解だよ」
美鈴が起きてきた、時計を見ると5時半… 平地での野営…というかマイホームなので、出入りを人に見られたくないという理由で、夜が明けたらすぐに行動するという話をつけていた。
しかし… 真面目で優等生である霞の唯一とも言っていい弱点が、朝が弱い事だ。高校生を子ども扱いしているけれど、さすがに個室におっさんが入っていって起こすわけにはいかないだろう。だから美鈴に頼むんだよ、不要な騒動は避けたいからね。
霞のことを美鈴に任せて車庫へと向かう。
製造しておいたドラム缶から燃料を給油しなくてはいけないからな、この手の車は大体満タンで60リットルくらい入るから、軽とは違って安心感があるよな。車重がある分燃費は軽より悪くなっているんだろうけど、まぁそこは誤差の範囲って事で。
いつでも出られるよう準備を済ませてロビーに戻ると霞がちゃんと起きていた。
「おはよう霞、車で動き出したらのんびりしてればいいから、今だけはシャキっと頼むな」
「おはようおじさん、もう大丈夫よ。朝ごはん食べたら目も覚めるわ」
なんとか用意を済ませて6時半には出発する事が出来た。
空はすっかり明るくなっていて、他の場所で野営をしていただろう商人やら何やらも動き出しているだろう。
この世界の商人は馴れ馴れしいというか図々しいというか、サっと近づいてきて話しかけてくるのだ。あれは何だこれは何だとうるさいので関わりたくはない、車をよこせと言ってきた奴もいたな… ふざけんなっての!
まぁそれでも走り出せば馬車なんかと速度が違うからな、逃げ出す事が簡単なのは救いの一つだ。
車に全員が乗り込んだので出発、目指すは王都だ。恐らく国中の技術が集まっていると思われるので、ミスリルを扱える鍛冶師も多分いるだろう。馬車で3日程って話だったから今日中につくんじゃないかと思っている、後は… 着いてからだな、色々考えるのは。
SIDE:ギルドマスター
「どういう事だ?」
ギルドの執務室にハワード伯爵が現れた、そして入るなりこの言いようである。
「職員に持たせた書類の通りですよ、タイキ、ミスズ、カスミの3名が昨日の夕方に町を出たという報告があったから、そちらにも連絡したんですよ。西の方角に向かったとのことなので王都に行ったのかもしれませんね」
「なぜ急に何も言わずに町を出たんだ? ギルド関係で何かやったわけじゃないだろうな」
「何か… と言われれば、多少は心当たりはあるんですがね」
ハワード伯爵は朝から機嫌が悪いようだ、まぁあの3人組も伯爵からの呼び出しがあったから不穏な空気を感じ取ったのかもしれないがな。
「アイツラが持ってきたミスリルを加工するのに職人を紹介したんですがね、その職人が… なんというか気まぐれな奴でして、ちょっと言い合いになったというか… そんな事があったんですよ。もしかしたらミスリルを加工するために王都に向かったのかもしれませんね」
「くっ、まぁわかった。こっちでも追っ手を出して交渉するしかあるまいな」
それだけ言うと伯爵は出て行ってしまった。
「わざわざ上がって来たって事は、70階層はクリアしたんだろうな。報告くらいしに来ればよかったんだがな」
「70階層の守護者が持つお宝が気になるよな」
居合わせたサブマスターの興味は財宝にしかないようだ、まぁそんな奴だからこそ信用できるんだがな。
一応王都のギルドに連絡だけでもしておくか…