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誤字報告いつもありがとうございます。
「おーい、お疲れさんだけど引っ張りすぎだぞ。ブレスを吐いてきたじゃないか」
「ごめんなさいね、つい興が乗ってしまったわ」
「さぁさぁお宝タイムだよ! おじさんもお説教は後にしようね」
討伐後、周囲に落ちていた物はというと…
通常種イエティの毛皮×3
白トカゲの皮×2
金色の毛皮×1
銀色の皮×1
魔物の数が多かった割には少ないと思うが、金の毛皮なんかとても高級そうで、えらい値が付きそうな予感がした。もちろん銀色の皮も…
そして宝箱の前に全員が集まる。
「さて、何が入っているかねぇ。一応罠があったら危ないから障壁を張っておくね」
「ああ、頼むよ」
美鈴に障壁を張ってもらって宝箱に近づく、いつも思うが誰が用意しているんだろうなコレ。まぁ日本の常識が当てはまらない異世界なのだからと、無理矢理に納得させる事にする。
宝箱の蓋を開けてみると…
「おっ、これもミスリル製みたいだな。槍だけど」
「槍? 私使ってみたい!」
「槍使いの聖女爆誕の瞬間なのであった」
「何それ、勝手なナレーションやめてくれる?」
柄の部分は木材のような色をしているが、穂先は綺麗なブルーメタリック。それぞれの部位の色は違っているのに繋ぎ目がわからないから一体化しているのかもしれない、まさにダンジョン産の謎技術だ。石突の部分もミスリル色だった…
全長は150センチくらいか… 美鈴が持つとやたらと長く見えるな。
「まぁ使うのは構わないが、しっかり練習してからじゃないと使ったらだめだからな。実戦訓練の前に取り回しだけでも覚えておかなきゃな」
「もちろんだよ、さすがに使い方がわからない武器をいきなり実戦で使おうなんて思ってないし」
「とりあえず倉庫に入れておくか、他の素材も一緒にな」
そんな訳で70階層をクリアしてしまった訳だが…
「さて、どうする? 今日はこのままゆっくり休んで明日朝一で戻るか、今から戻ってギルドに報告に行くか」
「明日でいいんじゃないかしら? 今から戻ったとしても、例の伯爵やら鬱陶しい鍛冶屋とかから絡まれるのも面倒だしね」
「そうだなぁ、下手に絡まれたりしたら… ついつい逃げちゃうかもしれないしな」
「逃げる前提があるのなら今からの方が良くない? 私達には暗闇の中逃げられる手段があるわけだし」
うん、これは意外と難しい問題だな。伯爵家からのお話をスルーしてダンジョンに入ったことは、ギルドを経由して話が伝わっている可能性は高いと思う。なんせ行ける日時をギルド経由で連絡しろと言ってきたくらいだからな、もしかしたら待ち構えてたり… は無いか。
いつ戻るかわからんものを、黙って待っているわけないもんな。そうなると… 夕方くらいに戻った方が良いのかな? 何かあっても『もう暗いから明日にしよう』ってその場を凌げるからな。
言い訳は多いに越したことはない、そうしよう。
「んじゃあアレだ、夕方まで休憩してから戻ろうか。何かあっても明日にしようって言い訳が立つからな」
「ん、それはいいかも。そうすれば暗くなってから脱出できるもんね」
「ま、何もないのが一番なんだけどな。それでもあの鍛冶屋の対応を見ると、何とも言えないんだよな」
「そうだね、伯爵の家に行った時も、最初の方は使用人の態度もひどかったしね」
「そういうこった、ギルドマスターも胡散臭い感じがしていたし」
「それなら… すっかり暗くなってからダンジョンから出てってそのまま町の外に行けばいいのでは? もしくは今から出てギルドをスルーして町の外とか」
「ああ、そっちの方が良いかもしれないな。なんせ俺達は自由な冒険者ってやつだからな」
「でもでも、それだとパーティ名を登録できないよ?」
俺と霞でまとまりかけた話に美鈴がストップをかけてくる、パーティ名ってそんなに重要じゃないだろうに…
「それこそ次に行った町か、王都とかでも良いんじゃないか? これから夜逃げのように出て行くって時に、わざわざパーティ名を教えてやる必要もないだろ」
「む、確かにそうだね、それじゃあ暗くなると町の門が閉まっちゃうし、そうなると突破するのが面倒になっちゃうから今から行っちゃう?」
「その方が良いかもな、そうするか」
意見が一致し、守護者の部屋の奥にある転移陣を使用して1階層に戻ってきた。今の時刻は3時半、まだまだ人の出入りがある時間帯だが、変にこっそりと動くと却って目立つので普通に移動を開始する。
「なんかこう… こそっと逃げるのに慣れている気がするんだけど」
「そうか? 逃げたって言ったって一度だけだろ。まぁ息を潜めて行動したのは事実だけどな」
「今だから笑って話せるけど、あの時は緊張したよね~」
「そうね、正直殴り合いになる事は覚悟していたわ」
話をしながらギルドに向かわず門へと進む、同じように動いている冒険者が多数いるため目立つことは無いと思いたいが… 俺達の着ている作業服は目立っているかもしれない。これはまぁしょうがないと諦めよう…
「何も起きなかったね、別に何かを期待してたわけじゃないけどさ」
「まぁいいんじゃない? 静かなのは良い事よ」
無事ビリーカーンの町から出ることができ、王都があるという西の方に足を向けた。車を出したい所だが、ちょっと人通りがありすぎて躊躇っているのだ。
しかし、今回からは車がグレードアップしているのだ! 軽から普通車へ! 1人で乗るなら特に気にすることは無いんだけど、さすがに人数乗ると軽だと厳しくなるんだよな。特に重量の面で…
さすがに本人達には言わないが、軽の足回りだと最大積載量が350㎏とかそんなもんだから、常にいっぱいいっぱい積んで走っていることになる。しかし普通車になると途端に最大積載量が1000㎏とかになるのだ。この余裕が車の挙動、特に段差を踏んだ時の揺れに直結するから舐めてはかかれない。
何事も程度というものがあって、適度が一番なのだ。
「なんかこうして町の外を歩くのも久しぶりだね~、あの頃よりも体力があるからなのか、平気になっているのが驚きだわ」
「そうね、ここ数日はずっとダンジョンにいたし、その中でもかなり歩いていたけれどね」
「やっぱりダンジョンのような屋内タイプだと、なんか歩いていても気分が違うんだよね。空の下を歩くってこんなに気分が良いなんて思わなかったよ」
「それには同意ね、日本にいた頃じゃ考えられないくらい歩いているわ」
徐々に日が暮れていき、通行している人や馬車が集まっている野営地点を過ぎると、いよいよ新車… エス○ードを車庫から出す事になった。