69
誤字報告いつもありがとうございます。
「えいやっ!」
美鈴が振るったマチェットは、イエティの首をスッパリと斬り落として戦闘は終了した。
なかなか流れるような動きだったな。パンチを障壁で受け流してバランスを崩させ、直後にローキックで膝をつかせる。そしてちょうどいい高さまで下がった首を目掛けてマチェットでとどめを刺す、十分すぎるほどの成果だった。
「良い感じね美鈴、そのマチェットの切れ味も良いみたいだし、ミスリル化の有力候補かしら」
「そうだね~、リーチは短いと思うけど、私にはちょうどいい長さかもしれない」
そう、その切れ味はイエティとか白トカゲですら切り裂く程だった。もちろん強化された腕力があってこそだと思うが、俺からしても使い勝手は良いと思う。
「まぁアレだ、ミスリルはかなりの量があるから、候補は多数あっても問題は無いだろう。俺もマチェットは気に入ったから候補に入れておくよ」
「了解、霞の分も作るの?」
「そりゃー作らないとダメだろ、ダンジョン産のミスリルの剣がいくら見た目が良いからって言っても、使い勝手は別物だからな。なんならアクセサリー感覚で持ち歩いたっていいと思うぞ、なんせ金貨2千枚以上の価値がある宝剣なんだから」
「あら、作ってくれるなら嬉しいわね」
「もちろんだ、いくら片足分とはいえゴーレムのサイズだからな。3等分したって剣なら10本ずつ作ったって余ると思うぞ」
「なんだったらもう一度60階層のボス部屋に行けばいいもんね、ミスリルゴーレムが居るかどうかはわかんないけど」
「居ればいいな、次やるんだったらもっと効率良く盗れそうだしな。見た目があんなんだから、両手両足落としても罪悪感が沸かないのは良い事だ」
それからの動きは速かった。今まで色々と探りながらの戦闘だったのが、マチェットを使うようになってからは戦闘にかかる時間が激減したからだ。
今ではマチェットを振り回す動きを逐一最適化しながらの戦闘になっている、もちろん俺もそうだが、使えば使う程動きが滑らかになっていくのを感じる。 霞も自分専用となったミスリルソードを使うようになり、まさに鬼に金棒だった。
ダンジョン内の罠も手早く見つけられるようになり、進行速度が上がった原因はそこにもあった。
「これ、なんかスキルが生えた気がするよね。危険察知的なやつ」
「そうだな、なんかヤバそうな場所って『そこは危ない』って感じるようになったもんな」
「良い事じゃない、今まで大変な思いをしてきたんだから、経験によって手に入れた技術は貴重だと思うわ」
「そうだな、それじゃあサクっと進むとするか。もちろん油断は無しで」
「「了解!」」
先頭に立って歩く霞が前方周辺を探りながら進み、最後尾の美鈴が後方に注意を向ける。真ん中にいる俺はと言うと… 何もしていなかった。
だって仕方ないだろう、2人共すっかり優秀になっちゃって俺の出番が無いんだよ!
そんな感じで俺1人だけ仕事が無くなっている状態… これは今のうちにステータスを確認してみるとするか。
しかし、自分のステータスを開いてみてみたが、特に変わった所は見当たらず、相変わらず名前と職業のみだった。
「ステータスを見てみたけれど、特に何も変化は無かったな。スキルとか書いてくれてもいいと思うんだがな」
「そうだねぇ、後はSTRとかの表記も欲しいね。それこそゲームみたいに」
「私もちょくちょく確認しているけれど、情報としては物足りないと思うわね」
「だよな… まぁ仕方がない、各々が知っていれば足りる事だしな。重要な事は共有すればいいんじゃないか」
「そうだね、ついでだから共有しておくけど… 私のヒール、部位欠損も治せるようになったみたい。実際に試してないから効果の程とどれだけ魔力を消費するかは分かんないけど」
「おお、さすが聖女様! 居るだけで安心感が爆上がりだな!」
「そうね、マチェットを振り回していなければ完璧な聖女様だわ」
「ノンノン、そんな型にハマったような聖女なんか目指してませんから!」
「武闘派だもんな? 美鈴の場合」
まぁ実際俺達『雪月花』の聖女様は… 藍色の作業服を身に纏い、杖ではなくマチェットを片手に持ち、時々毒舌を振るう女子高生だ。見た目からして聖女だとは誰も思わないだろうな… 小柄で細身で、パッと見だと斥侯職に見えるかもしれん。
まぁ、霞もお揃いの作業服だけど… やはり真面目そうなイメージのせいか、こっちの方が聖女っぽい雰囲気を出している。とてもじゃないが武闘家として最前線で魔物と殴り合っているなんて想像もつかないだろう、あくまで見た感じの雰囲気だが。
俺? 俺はどういう風に見えるんだろうな。やっぱり自分の事となると客観的に見れない部分が多々あるし、だからと言って美鈴や霞に聞いてみるのも照れる。
今日も夕方5時になると、美鈴のスマホがアラームを鳴らす。
「終業時間でーす、今日は随分とスムーズだったね。マチェット効果かな」
「だろうな、明らかに戦闘にかかる時間が短縮されているよ。訓練しつつこれだから良いんじゃないか」
「そうね、今日だけで5階層も進めたんだから十分速いと思うわ」
「明日は67階層からだし、明日中に70階層に着けそうだな。まぁ様子見はするつもりだけど」
「そこはおじさんに任せるわ、その辺の判断は間違いないと思っているから」
「そうだね、私達だとどうしても勢いのまま進んじゃう判断しちゃいそうだし」
「ま、急がば回れってやつだよ。昔の人は良い事を言ったもんだ」
完全に会社員かのように5時に終業してマイホームへと入っていく、まぁ日本人の感性だとそういったメリハリがあった方が効率がいいんじゃないかと思ってる。
無理をしても良い事なんか何もない、無理をする場面でもない。まぁ時には体を張らなきゃいけない時はあるんだろうけど、そういった時に落ち着いてポテンシャルを引き出せるように訓練してるのだ。
その内きっと役に立つと思って。
SIDE:カオリ
「いや~、ついつい飲みすぎちゃったわ。早く宿に帰ってベッドに潜り込もう」
レイコが席を立ってからも、一緒にいた男性と飲み続けていつの間にか夜になっていた。足元はふらついているが、斥侯のスキルのおかげなのか周囲の気配は手に取るように把握できている。
「おっとっと、さすがに転んじゃ斥侯と言えどもスキルは発動しないわよね」
暗がりの中宿に入り、2人で借りている部屋へと向かう。
部屋に入って左側のベッドがレイコ、右側が自分の使っているベッドなのだが、レイコのベッドは膨らんでいるものの、中まで潜っているのか顔までは確認できない。
「酔ってレイコのベッドに潜り込むと怒るからなぁ、今日は自分のベッドで寝るとしますか」
そう思い自分のベッドに入り、酒の効果もありすぐに寝付いたのだった。