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誤字報告いつもありがとうございます。
異世界生活52日目
朝の4時前である、もう早起きなんて余裕過ぎて笑えない…
さて、昨日の事を考えてみて、ミスリルの武器を作りに行くまでの繋ぎになる物を探してみようと思っている。
この世界に来て最初の頃に作ったサバイバルナイフ、当初は重く感じたけど今じゃ包丁程度にしか感じなくなっているので、もっと強度のある刃物を探そうという事だ。
制作の目録にある現代装備だって、異世界の魔物に負けないはずだ! 多分。
じっくりとモニターと睨めっこ、すると… 『Ontario 1-18゛MACHETE-PKG』というのが目に入った。
「全長610㎜、刃渡り460㎜か… 結構な長さだな。試しに作ってみるか」
さすがにデータだけじゃ判断できないから、とりあえず1つだけ作ってみて実物を見てみよう。サイズから見るに、サバイバルナイフよりもリーチは十分だ。後は折れなければいいんだがな。
それよりもマチェットって聞いた事があるよな、なんだっけ…
「そうだ! 思い出した、映画『13日の金曜日』に出ていたジェイソンが振り回していたアレだ!」
なるほどなるほど、鉈っぽいやつだね、確かにアレなら強そうだ。本物はどうか知らないけど、映画では少なくとも屈強な体躯のジェイソンが振り回し、バッサバッサ色んなものを斬っていた記憶があるから頑丈に出来ているのかもしれない。
もしそうなら使い勝手は良いだろうな。
「まぁ一応実物を見てからだな、もし記憶の通りであれば… スペアも含めて多少作り置きしておくのも悪くない」
しかしアレだな… 異世界とはいえ、銃火器を撃ちまくり、刀剣を振り回す。子供の頃に憧れていたロマン武器を余す事無く使っている現状、これは喜ぶべきなのか…
まぁ実際には悪い気分ではない…が、懸かっているのが自分の命じゃなければ良かったんだがな。
今更現状を嘆いていても仕方がないので気持ちを切り替える。生き延びる事を最優先に考えた結果、自分から進んで戦っているという矛盾もこの際脇に置いておこう。
そう… 生き延びるために順序良く経験を積んでいるのだ。レベル1の村人が、いきなり魔王に立ち向かったって勝ち目がないから、順序を踏まえ、自身のスキルアップを徹底し、いつかは戦士になれるよう鍛えている。今がまさにそんな状況なのだ! そうだよね?
「よし、とりあえず今日はマチェットを実戦で試してみる事にしよう」
取り回しが良くて使いやすかったら、この世界の職人に見せてやって… ミスリル製のマチェットを作らせれば良いだろう。
まぁ本当は日本刀が良いんだけどな、でもあれって刃のしなり具合とか綿密に考えられていたはずだから、素人がどうこう出来るもんじゃないよな。鞘だって抜きやすいように考えられているはずだし… これは仕方がない。
まぁ… マイホームで日本刀が製造できるって言うなら使ってみるけどね!
「おじさんおはよー」
「おう、おはようさん」
美鈴が起きてきた、スマホをチラリと見てみると6時を過ぎていた。刃物を見ながら2時間も妄想してたのかよ!
「ん? 何か製造中?」
「ああ、ちょっと刃物をね。昨日のイエティの事を考えて、少しリーチの長いやつを作っているんだよ」
「なるほど、私の分はあるの?」
「いや、まだどんなもんか分からないから試験的に1本だけだな」
「そうなんだ、私も試験していい?」
「ああ、もしも使い勝手が良いようなら、職人に頼んでミスリル製で作ってもらうのも悪くないなと思っている」
「なるほど! それはいいかもね!」
寝惚けた顔を何故かシャキっとさせて顔を洗いに行く美鈴… 刃物の話で元気になるなよ、怖いだろ。俺も人のこと言えないけどね…
それから30分ほどでマチェットが完成した。黒い刀身に柄も黒い素材、いかにも軍用って感じが悪くないな。これはジェイソンでなくとも振り回したくなる代物だ。
広い場所で2~3回振ってみると、ヒュンヒュンと良い音をさせて風を切る。刃の厚みは3㎜くらいか、ちょっと折れそうな感じもするが後で実際に使ってみる事にしよう。
「ちょっと見た目は怖い感じだね、これをミスリルで再現させたら、刃の部分が青になるんでしょ? 絶対そっちの方が格好良いと思うよ」
「そうかもしれないけどこれは軍用みたいだからな、黒い色には意味があるんだと思う」
「それはそうかもしれないけど、使うのはダンジョン内だし、別に夜襲したり暗殺したりするわけじゃないんだから青でもいいと思う」
「まぁね、言いたい事は良くわかるよ」
霞も寝惚けた顔でマチェットを見ているが、やはりダンジョン産のミスリルの剣を持っているだけあって落ち着いてるようだ。
「それじゃ美鈴用にもう1本用意だけしといて、使い心地を確かめるとするか」
「賛成!」
「刃物を振り回す聖女… 聖女のイメージが遠のいていくわね」
「おとっつぁん、それは言わない約束だよ!」
「誰がおとっつぁんよ!」
どうやら朝から絶好調のようだな… それじゃあ朝食を済ませてダンジョンへと行きますかね。
SIDE:ハワード伯爵
馬車に乗って冒険者ギルドへと出向き、ギルドマスターと面会を始める。例の王冠と剣の価値を聞くためだ。
「こりゃ伯爵様が直々においでなさるとは、先ほど部下を報告に向かわせたばかりだけど何か無礼でも?」
「いや、そういう訳じゃない。ただ帰してしまってから聞かなければいけない事を思い出しただけだ。例のタイキ、ミスズ、カスミについての話なんだが、持って帰ってきたという王冠とミスリルの剣を鑑定した者を呼べるか?」
「鑑定したのはうちのサブマスターだ、倉庫で他の鑑定をしていると思うが… 一応俺にも報告が来ているから、ある程度なら教えることは出来るが?」
「そうか、それじゃあ単刀直入に聞くが、それらの価値はどれ程なのだ?」
「王冠は黄金の価値と細工の価値を合わせたら金貨300枚。しかしダンジョン50階層の守護者からのドロップと考えれば、もっと価値があるだろう。オークションにかければ金貨1000枚は行くんじゃないかと思う。
ミスリルの剣は… 60階層の守護者のドロップという希少性も含めて、正直言って金貨2000枚はくだらないだろうな。しかし剣は手放さないといって断られたよ」
「それ程の物か… ミスリルの剣の細工はどうだったのだ?」
「サブマスの見立てじゃ、鞘も柄も一流だと思われる細工が施されていたという事だ。宝剣と呼んでも差し支えない程に」
「ふむ… そいつは是非とも欲しいものだな」
「アイツラも気に入ってるみたいだから無理だと思うぞ? それよりも、ミスリルゴーレムの足を持って帰ってきていたから、ミスリルを売ってもらって作る方が現実的だと思う」
「そんなものまであるのか! ならば尚更、次に戻ってきた時は代官の屋敷まで連れてきてくれ」
「伯爵様とは長い付き合いだが、いくらギルマスの権限を持ってしてもそれは厳しいと思うぞ。一応伝えてみるが、交渉はそっちでやってもらいたい」
ふむ、まぁいいだろう。ギルマスとはいえ組織の一員だからな、柵は多々あるだろうしな。