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誤字報告いつもありがとうございます。
異世界生活51日目
今日も訓練と称してダンジョン探索だ、やはりボスを討伐した後に出てくるお宝は興味津々だ。とりあえず話し合ってからでないと分からないが、70階層をクリアしたらこの町を離れるのも良いかもしれない… ミスリルの装備も欲しいしな。
朝食を食べていると、思い出したように美鈴が言い出した。
「そういえば、パーティ名は決まった? 私としてはねぇ、英語読みだからこの世界の人達に通じるのかが不安だけど、『グラディウス』がいいなって思ったの」
「グラディウス? なんかシューティングゲームのタイトルみたいだな」
「え? それは知らないけど、ラテン語が語源で剣の名前だったかな… そんな感じ」
「ほほぅ、確かに響きはいいかもな」
美鈴がそんな話をすると、霞がなんかモジモジしはじめた。
「私も考えてはみたんだけど… 『雪月花』ってどうかしら」
「雪月花… 誰が雪で誰が月なんだ? それって俺は入っているのだろうか?」
「いや、別にそれぞれを表すって意味じゃないのよ? なんとなく響きが良いなって思って… その」
うーん、グラディウスに雪月花かぁ… この2択なら迷わずグラディウスだな。
「ところで、おじさんが考えたやつはなんて言うの?」
「…」
美鈴からの問いかけに答えることは出来なかった。なぜならすっかり忘れてたからだ! いやだってね、俺にはそういったセンスなんかねーんだよ! せいぜい3人の名前の頭文字をとって、『M.T.K』とか… そんなもんしか思い浮かばないのさっ!
「おじさん?」
「スマン… 全然考えてなかった」
「おじさん?」
「あーその、なんだ。個人的にはグラディウスがいいなーと思うぞ、雪月花はちょっと照れる感じだな。俺抜きでパーティ作る事があったらその時に使ってくれ」
慌てて言い繕うと、美鈴と霞は目を見合わせていた。なんだ? 何が始まるんだ?
「だってな? 雪月花って言えば、季節の移ろいとか美しい物事を指す言葉だろ? そこに俺が入るのは照れるどころか場違いじゃないかと思う訳だよ」
「別にそこは気にしなくてもいいんじゃないかな、意味なんて知る人いないし」
「それはそうね、せいぜい私達を含めて10人しかいないわね」
「え? それはどういう意味だ? まさかとは思うが… 雪月花にするなんて言うつもりじゃ?」
美鈴と霞は再び目を合わせ、ニヤリと笑い出した。 まずいなこりゃ、雪月花でゴリ押ししてきそうだぞ? 多数決なら既に負けている…
「それじゃ私達のパーティ名は『雪月花』に決定とします!」
「マジか…」
「宿題だと言ったのに考えていなかったおじさんは論外として、雪月花っていい言葉だよね」
「そうね、残念だけど美鈴の言う通りだと思うわ。グラディウスも響きはいいけれど、剣の名前だというならちょっと物騒な気がするかな」
「いや、もう雪月花が優勝って事で。次にギルドに行ったらこれで申請だね」
おーう、欠席裁判のようになってしまった。しかし、日本語の漢字で書くのなら字面もいいけど、この世界の言葉だとどうなるんかね。
でもいいか、ギルド証を身分証明に使ってる以上、パーティなら決めておかないと不便そうだしな。
「あーわかったよ、雪月花で」
「よし、それじゃあ今日も張り切って行こう!」
俺達のパーティ名は雪月花で決まったようだ。
さて、ダンジョン攻略は63階層の続きからだな。この辺りの階層はなぜか氷の属性で縛られているのか、そんなブレスを吐く敵が2種類出てくる。
そして… 地味だけど白いトカゲが4足歩行なので、2足歩行縛りでは? という疑問が消えたのだ。
ここまで進んできて初めての4足歩行の魔物だからなぁ、攻撃の間合いとか2足歩行の魔物で慣らされた状態では、初見殺しかってくらい間合いが違う。
なによりも魔物の位置が低すぎるのが難点だよな… オーク、オーガやゴーレムと、ほとんど俺より背の高い魔物だったのが、急に地面すれすれを動く魔物に変わったのだから対応が大変だ。
まぁ実践訓練のつもりでダンジョンに来ていたわけだから、これはこれで経験になるって事で割り切ろう。
「それじゃあ進むか、油断しないようにな!」
「「了解!」」
SIDE:ハワード伯爵
「何? またダンジョンに潜っていっただと?」
「はい、代官邸に向かう前に連絡をと伝えたら、行かない場合は連絡しなければいいんじゃないかって話をしているのを聞きました」
全くアイツラは… 貴族からの指示を何だと思っているのだ。
「それで? アイツラがダンジョンに入った際、帰還するまでどのくらい潜っているのだ?」
「転移陣がある所まで進んだら戻って来る感じでしたので、先日60階層の守護者を倒したと報告があったので… 次は70階層をクリアするまで戻ってこないのではないかと」
「だから、それには何日かかるのだ?」
「完全に未踏破の区域ですので、予想がつきません。50階層クリアの報告から60階層クリアの報告までは、確か4日くらいだったかと」
「ん? ここのダンジョンの最高到達点は45~6階層じゃなかったか?」
「40階層でしたが、あっという間に更新され、現在も更新中なんです」
ここ数日で20階層も更新しているのか… なんという戦闘力なのだ。
ギルドからの使いである職員が嘘を言う必要もないので正しい情報なのだろう…
「50階層から60階層までが4日か、難易度を考えれば次に戻って来るのは1週間後くらいかもしれんな。何か財宝の話は出ていたのか?」
「はい、50階層の守護者からは黄金の王冠が、60階層の守護者からはミスリルの剣が出たそうです。どちらも売らないと言っていました」
「王冠にミスリルの剣か… 想像以上の物が出ているのだな。それについての交渉もしたい、次に戻ってきたら出頭しろと伝えてくれ。そして最速で伝令を出すように」
「承知しました」
報告に来ていたギルド職員が退出していった。
「うーむ、それらの財宝はぜひ欲しい所だが… 王冠はともかく剣は手放さない可能性があるな。鑑定したのならどれ程の価値であるか聞いておけば良かったな」
すでに職員を帰してしまっているので、知りたいのならば出向くのが一番早い。どうするか… いや、やはり先んじて知っていた方が良さそうだな、ギルドマスターに直接聞いてみるとするか。
そう思い立ち、ギルドへ向かうための馬車を用意させるのだった。