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誤字報告いつもありがとうございます。
「それじゃあ緊急会議を始めたいと思います!」
夕食を終え、風呂に入る前に全員ロビーに集まった所で美鈴がそう宣言した。
「会議?何か議題があったっけ?」
「あります! 私達のパーティ名を決めるんです!」
「ああ…」
そういえばギルドの受付嬢からそんなこと言われてたな。
「議長は私が務めさせていただきます。 それではおじさんから意見をどうぞ!」
「意見って言われてもなぁ、うーん。名前の頭文字を並べるとか?」
「名前の頭文字? ミスズのミ、カスミのカ、タイキのタ… 『ミカタ』?」
「後は『ミタカ』『カミタ』『カタミ』『タミカ』『タカミ』ね。正直言ってちょっと使いたくないわね」
安直に言ってしまったが、確かに使えそうな組み合わせは無いようだ。
「はい、おじさんの意見は却下されました。それじゃあ霞の意見をどうぞ」
「え? ちょっと急すぎないかしら? 普通ならここは、考えておいてって事で宿題にするもんじゃない?」
「そう言われればそうかも。それじゃあ後日にまた会議をするので考えておいてください!」
「言い出しっぺの美鈴はすでに案はあるんだろ? ちょっと言ってみなよ」
「え? 私はもう言ったじゃない、『ミスリルの誓い』って」
「え? あれってマジだったのか…」
まぁ宿題って事でお開きになり、風呂に入ってのんびりするか。
異世界生活50日目
後10日もすれば、この世界に来て2ヶ月になるのか。長かったような駆け足だったような… まぁともかく、最初に追放を言い渡された時に考えていた事はなんとか進められているのは重畳だ。
戦闘訓練だと言いつつも、ダンジョンに入って戦う事は嫌いじゃなくなっているのには驚くよな、日本では喧嘩すら満足にした事も無かったのに。
まぁアレだ、俺もなんだかんだと現状に対応してきているって事なんだろう。美鈴や霞ほど柔軟ではないんだろうけど、多分それで正解だと思う。
その内帰れるなんて甘えた事を言って、体を鍛えたり魔力の鍛錬を疎かにしていると、帰る以前に殺されるかもしれないしな。
ホント怖い世の中だ。 まぁ日本も含めて、地球でも過去はそうだったんだろうけどね。
まぁ今日からあのイエティ?スノーマン? そんな感じの魔物を相手に戦う事になる。ゴーレムと同等のサイズだし、ゴーレムほど硬くないけどとても素早そうな感じだったな。
霞が瞬殺したから分からないが、色々と特技を持ってるかもしれない。相手が1匹ならどうにでもなりそうだが、複数相手にした時、魔物から知らない動きをされて撹乱されたりしないよう気を付けないとな。
「そういえば、人間にスキルがあるんだから魔物にあってもおかしくないよな。もしかしたらイエティとかって雪や寒そうなイメージがあるから、『凍てつく波動』とか使ってきそうだな」
昔やったRPGを思い出す、しかし残念な事に俺達の現状はゲームじゃない。ゲームだと瀕死になっていても、無傷の時と同様の攻撃を放つ事が出来るが、現実だとちょっとした打撃でも当たった場所次第では致命傷になりかねないし、次の攻撃には多大な影響が出てしまう。
攻撃を受ける前提や耐え忍んでチャンスを待つなんて戦法は、とてもじゃないが推奨するものじゃない。
どんな手を使ってでも先手必勝で行くべきであり、かすり傷一つ負う事なく勝利するのが最善だ。
「ま、戦闘に関してはド素人の3人だけど、だからこその訓練だ。連携もまとまって来てると思うし、今は数をこなすしかないよな」
「その通りだと思うよ」
不意に後ろから声をかけられて、ビクっと体が反応する。振り返ると美鈴が立っていた…
「おじさん独り言が多くなった?」
「うっ、そうかもしれないな」
時計を見ると6時になっていた、今日はいつもより考え事をしすぎたようだな。
「それで、どんなこと考えてたの?」
「ん? いやぁ魔物にもスキルを使う奴がいるかもしれないなーってな」
「あー、それはあり得る話だよね。遊んでたRPGでラーニングとかやり込んだからなぁ…」
目を逸らして遠い目をする美鈴。まぁわかるぞ? 俺もやった事があるよそのゲーム。たしか『あやつる』で操ってから青魔導士に喰らわせて覚えさせるんだよな、攻略本買ってまでやった覚えが…
「だから先手必勝の方針は変わらないが、弱そうな魔物でも舐めてかからないようにしないとなって思ってたんだ」
「確かに、窮鼠の猫噛みで痛い目は見たくないもんね」
「何事も慣れてきた辺りが一番危険だからな。いくら聖女がいるとはいえ、痛い思いはしたくないだろ」
「それはそうだけどね」
美鈴が顔を洗いに行ったので朝食の支度をしよう。さすがに40日も一緒にいれば趣味趣向もある程度分かってくる。 そして美鈴と霞は… 朝はパン派だ、しかも軽めなやつ。
食パンにマーガリンやジャムを塗るだけで良いという。最初は目玉焼きとか焼いていたが、朝から多くは食べられないと言われて無くなった。
俺自身、朝は食べないで出勤していたけど、この世界に来てから食べるようになったな。
食パンとトースターをテーブルの上に置き、後は勝手に牛乳かコーンスープなんかを自分達で用意する。俺はおにぎりと漬物があれば十分だ。
「それじゃあ今日も引き締めて行こう、手抜きと手加減は別物だからな?」
「「了解!!」」
朝の支度をすませて、8時に出動。
「じゃあ単体でうろついてるイエティがいたら、どんなスキルを使うか検証するって事で。私の障壁がどの程度耐えられるものであるかの検証も兼ねると」
「ああ、さすがに防御無しで検証するのは危険すぎるからな。回避行動も忘れないように」
という訳で、朝食時に話し合った結果、『凍てつく波動』説を確認する事になった。まぁあるかどうかわからない魔物のスキルだから、無くたって構わないという事で、ついでに美鈴の防御魔法の検証もする事にした。
これも知っておけば緊急時にきっと役に立つだろう、ぶっつけ本番は怖いからな。
昨日は60階層からの階段の近くでマイホームに入ったので、今日は61階層まるまる攻略する事になる。入り口付近だからすぐに単体で歩いている奴に出会うかもしれない。
「足音が聞こえるわ、1体っぽいわね」
「よし、それじゃあ霞は回避行動優先で。出会い頭にワンパンしないように」
「わかったわ。美鈴も障壁があるからって言っても、ちゃんと回避するのよ?」
「わかってるよ! 私が倒れるのがパーティにとって一番やばいからね」
美鈴の防御魔法の検証が始まった。