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誤字報告いつもありがとうございます。
「59階層に着いたけれど、このままボス部屋まで行ってしまう?」
「んー、今は何時だ?」
「18時になるわね」
「朝からのペースを考えると、ボス部屋に辿り着くったら2時間はかかるんじゃないか? 急いで向かって罠を踏んでもしょうがないから明日にしようぜ」
「わかったわ、楽しみは取っておくものよね」
「楽しみだったのか…」
「ゴーレムの上位種というのがどんなものか興味はあるわね」
霞の言いたい事はよくわかるけど、無理は禁物だ。特に俺は対ゴーレム戦だと魔力の消費が多くてね…休みたいのよ。
「それにしても、色々と警戒しながら進むのって疲れるもんだな」
「そうね、斥侯が欲しくなるわね。でもカオリならいらないけど」
「辛辣だな…」
マイホームに入り一息つく。まだまだ元気そうな美鈴と霞を見ながら、これが若さか… などとほざいてみる。
さすがに1日中身体強化をかけて戦闘をすると、魔力の消費が体感でも分かるくらい減っている。エス○ードを制作した時よりも使ったんじゃないかな… 魔力の循環は毎日続けているが、やはり後方支援職だけに膨大な魔力とかは無いようだ。
まずはゆっくりとお風呂に入って癒すとしようかね。
SIDE:第3騎士団所属、緊急輸送部隊長
「まずいです隊長、これ以上ついて行けません!」
「仕方がない、一度戻るか。撤退する!」
あれから酒場から出たカオリと呼ばれていた方を追跡したのだが、あっという間に撒かれてしまった。しかし、この町ではそれなりに名が通っているらしく、すぐに情報は集まった。泊まっている宿や行動パターン、戦闘パターンまで知られていたのには驚いた。
噂話を纏めると、斥侯という職業はこの世界でいう所のシーフと同等のものだという事だ。どうりであっさりと追跡を撒かれた訳だ。
そして今日は例の2人を追ってダンジョンに入ったのだが、シーフの能力が非常に高く侵攻が速いのと、魔物が現れた時の魔法使いの対処が手馴れていて、殲滅力が非常に高いのだ。どんどんと奥に進んで行くのを追っていると、ついには俺達では対処できない強い魔物が現れる階層まで来ていたのだった。
それでもあの2人はスイスイと進んで行くので追跡を諦めた所だ。これはまずいな…
「どうするか、あれほどの探知能力があるなら俺達の事は気づいているはずだし、2人のパーティなのにこの辺の魔物にも余裕で対処している」
「アレが異世界人の力という事なんでしょうね、我らで取り押さえようとしても返り討ちに遭いますよ?」
「力尽くでは厳しいだろうな、搦め手で行くしかないか」
「それって男癖の悪いカオリの相手をしろって事ですか? 王都に恋人がいるんですけど…」
「俺もちょっと嫌ですね、隊長なら大丈夫なのでは?」
「おいおい…」
部下達がこう言うのもしょうがない、カオリと言う女の男癖の悪さはここら辺ではすっかり知れ渡っていたのだ。煽てて酔わせさえすればイケる…と。
そしてレイコの方は男嫌いのようで、誰が誘おうとも乗ってくる事は無いらしい。
「しかしなぁ、カオリは薬とかはすぐに見破るらしいから難しいだろうな。見た感じ身体能力も高そうだし」
「そもそもの任務は、我が国の悪評を流されていた場合の対処だったのでは? 特にそんな事実は無いですし、もう王都に帰っても大丈夫なのでは」
「うーん、少し考えるか」
隊長以下の部隊は、出てくる魔物に苦戦しながらも、なんとか無事に入り口へ戻るのだった。
SIDE:美鈴と霞
「おじさんはお風呂に行った?」
「行ったみたいね、今日はなんだか疲れてたようだったわね」
「朝からずっと身体強化を切らさずに使ってたみたいだよ、訓練の一環だって」
「そうなの、それで… 今日はどうする?」
「そうねぇ、下手に化粧して戦闘しても、崩れた時大惨事になるから…」
「そうは言っても、また貴族との会談や食事とかあるかもしれないわ。そう考えると基礎化粧品だけじゃ足りないと思うのだけど」
「うーん、とは言ってもねぇ… 私は元々化粧はしない派だったからね、基礎化粧品で肌の保護が出来れば十分だと思うけど」
「まぁ美鈴は良いわよね、お肌はツルツルに見えるし」
「そう? 霞も同じだと思うけど。それに戦闘を重ねてレベルが上がったような感覚があるでしょ? それで魔力や魔法が増えたりしてるんだけど、ついでに髪やお肌の艶とかも良くなってる気がするんだよね」
「それは確かに私も思っていたわ、でも化粧は礼儀の一つでもあるのよ。おじさんに話せば製作の許可が出ると思うのだけど」
「まぁ軽めの物なら無許可でもいいと思うけどね、化粧品には詳しくなさそうだから『これも基礎化粧品!』って言えば何も言われないと思う」
「確かに…」
そう言いながら、霞はファンデーションと口紅の製作を始めた。
「これだけで随分と印象も変わるから、今日はこの2つにしましょう。おじさんも魔力使ったのなら控えないといけないわ」
「ダメだよ、それを作るんなら専用の洗顔も用意しないと」
「あっそうだったわ、結局3つになっちゃったわね」
その後、2人はトレーニングルームに入っていった。
SIDE:来栖大樹
「さっぱりできたなぁ、今日はなんだかビールが飲みたい気分だな。異世界に来てから一度も酒は飲んでいなかったけど、今日は飲むか!」
日本にいた頃は、もっぱら発泡酒と焼酎だったんだが、さすがは俺のマイホーム、ビールがちゃんとある。
500mlの缶ビール1本とグラスを持って自室に入ると、グラスにビールを注いだ。
「っはー! 久々だけどうまい! 毎日晩酌するのはどうかと思うが、偶にならいいんじゃないかな」
一息で飲み干したグラスにお代わりを注いでいく、1本じゃ足りなかったか…
さて、明日はいよいよキリ番の階層だ。当然階層ボスもいるだろう… 60階層のボスは一体どんな奴なのやら、ゴーレムの上位種と言われても想像がつかないよな。
もう少しファンタジー物の知識があれば良かったな、今更だけど。
そして思考を放棄し、ビールを流し込むのだった。