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夕食も終わり、化粧品の製作も終わったので対物ライフルの製作を始めた。
「おじさん、これの試射をしてみていいかしら?」
「ああ、使用感は知っておいた方が良いからな」
「じゃあちょっと練習してくるわ」
霞がKSVKを片手で持ちながらトレーニングルームへ入っていった。重量は12㎏と書いてあったはずだ、霞のような華奢に見える女性が片手で持てるものでは決して無いはずだ。
異世界人補正恐るべし…だな。
もう1ヶ月半も異世界で暮らしてるというのに、時々思い出したかのように驚かされるよ。
異世界生活48日目
「うーん、おっ 3時55分!とうとう3時台に目が覚めるようになったか」
早起きすぎると言っても、寝る時間は9時くらいなので寝不足という事は無い。実際日本で暮らしていた時は、0時前後まで働いて、朝は7時半には出社していたからな。それに比べれば、随分とのんびりしてるというものだ。
そして、最近はこんなことも考え始めている。
日本には戻りたいが、以前のような社畜人生には戻りたくない。もしもの話、帰る事が出来たのならばこの能力はどうなるのか。もしも、このままマイホームベースが使えるままであったなら、働く必要はないんじゃないか? 衣食住を完璧に維持できるからお金に焦る必要もないし、車だってあるから移動にも困らないし駐車場もいらない。まぁナンバーは無いけどね
「はぁ、俺も心のどこかでダラけたい欲があったんだなーって考えちゃうな。あーでも、住民票は無いといけないからボロアパートくらいは借りないとダメか…って、ダメだダメだ! 俺もホームシックにでもなっているんだろうかね」
ついついネガティブな考えをしてしまう。きっとアレだな、元の世界の優秀すぎる娯楽が無いからへこたれてるんだ、多分そうに決まっている。
大体夜9時に寝てしまうなんて、小学生かよ!ってレベルだからな。やる事ないから寝るんだけど…
よし、気持ちを切り替えよう! 当面の目標は、勇者達を含むアニスト王国に報復する事! その為にもアイツラを上回ると自覚するまで鍛え上げる事。 多分だけど、対物ライフルを3人で使えば、今すぐにでもアニスト王国を滅ぼせるかもしれない。でも、俺が求めるのは滅ぼす事じゃない、所謂お仕置きがしたいんだ! 見る目の無かった連中に、『見限ったはずの人材にボロクソにやられてどんな気持ち?』と、ざまぁしたいんだ! 決して殺す事が目的じゃない。
まぁ、人を殺すって事が最大の罪であると教えられている日本人だから、そう思ってしまうんだろうな。 まぁヤンキー君の足を撃った俺が言える事じゃないがね。
簡単に言ってるけど、殺さずに制圧してざまぁするなんて、余程力の差が無いとできないと思うんだよね。 だけど、それを為すために今はひたすら鍛えるしかないんだ。
多分美鈴や霞もそう思って励んでいるはずだ、昨晩は2人揃ってKSVKの練習していたが… 多分そうだよね?
考え事をしながらKSVKの弾丸を制作する、12.7×108mmというサイズは重厚感たっぷりだ。ライフルに装填できる最大数は5発、ボルトアクション方式と言って手動で装填と排出をする仕組みだ。
3人で持てば、最大15発をリロード無しで撃つ事が出来る。最大有効射程が1500メートルという事も考えると、これだけで十分すぎる程の火力だ。オーバーキルと言っても良いだろう、人間に当たる事なんか想像したくないけどな。
よしよし、未練がましい考え事はこの辺で止めよう。何をするにしても生き抜いてからでなきゃどうにもできないからな、まずは戦闘経験をつんでレベルアップしなきゃだよな! とりあえず今日中に60階層まで頑張ってみて、ゴーレムの上位種を拝まないといけないな。
本当にミスリルとかだったらどうすればいいんだろう、それを扱える鍛冶師を探さなきゃいけないって事になるよな… これは今度ハワード伯爵に聞いてみるといいかもしれないな。
「おはよー、今朝も早いねぇ」
美鈴が起きてきた、もう6時じゃないか! 考え事をしていると時間が経つの速く感じるな。とりあえずこれで、対物ライフルKSVKが3丁と、その弾丸100発を用意する事が出来た。マガジンも15個用意して弾込めもしておけばリロードも素早くできるだろう。 装填済みも含めると、1人頭30発撃てることになる、十分だな…
そういえば、昨日発見したんだけど… 新しい力なのか、今まで気づかなかっただけなのかは不明だが、『道具箱』という物があった。
これは、そのまんま道具箱を呼び出すもので、今までのように倉庫の扉を呼び出し、その中に色々と置いて収納扱いしていたんだけど、特に必要な物は道具箱に入れておくとその場で取り出せるようになっていたのだ。
まぁ欠点と言えば、道具箱という名の通り入れられる量が少ないという事だ。しかし、KSVKがギリギリ入ったので使い道が広がった訳だ。
「よし、あんまり朝から根を詰めてもしょうがない、朝食の準備でもするか」
しばらくして霞も起きてきたので朝食にする。
「今日は60階層までは行きたいわね」
「そうだなぁ、ゴーレム相手は正直辛い。飽きたというか」
「まぁ私もそうなんだけどね、でも斥侯無しのパーティだから慎重に進まないとね。ラノベなんかだと、罠の中には転移するものもあって逸れてしまう場合もあるって言うし」
「それは危険だな、絶対無いとは言えない状況だし、そこら辺は特に気を付けて行こう」
「「了解!」」
そんな打ち合わせをして探索スタート。
対物ライフルを使わないで、霞によるゴリ押しで前に進んで行く。相変わらず霞のパンチとキックは一撃でロックゴーレムを粉砕している。さすがにアレは真似できない、俺だとせいぜいゴーレムの手足が折れるくらいだしな。魔力による強化を全開にして…
バラバラに粉砕されたゴーレムは、魔石だけを残して消えてしまっている。一向にドロップアイテムが出ないのだ。
「これ… もしもミスリルゴーレムとか出たとしても、ドロップは無いのかもしれないな」
「そうだねぇ、ロックゴーレムなら鉱石とか落としてもいいと思うんだけど、何も落とさないからね」
「これならオーガの方が色々と落とすから飽きないわよね」
罠を警戒しつつ、夕方になってやっと59階層に着いたのだった。