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ギルドの事務所に向かった所、どうやら別室でギルド幹部を交えての話し合いがしたいとの事だった。
「別に今した説明以上の事は出てこないわよ?」
「いや、そうおっしゃらずに。 ギルマスが是非とも直接話を聞きたいと言ってまして」
「そう言われてもねぇ… 私達もこれから更に奥へとって思っているから時間が惜しいのよね」
「そうそう、今日だって荷物が増えすぎちゃったから一時的に戻ってきただけなんだよね」
霞と受付嬢のやり取りに美鈴が参戦している、ぶっちゃけ俺もギルマスとかいう奴との話し合いは正直嫌だ。面倒そうだもんな…
心の中で美鈴と霞を応援しておこう。
しかし、口でのやり取りだと霞の方が上手だったようで、うまいこと逃走する事に成功していた。
「さて、それじゃあ50階層まで転移陣ってので移動して、そこで今日は休憩しようか」
「はーい、知らない人の相手をするのって疲れちゃうからね」
ダンジョンに入り、転移陣を利用して50階層の守護者の部屋の奥に到着した。 現状ですでに最高到達点を更新中なので、他の冒険者は誰もいない。 人目を気にすることなく暴れられるのが嬉しそうな霞がいる…
「明日からこの先に進むつもりだけど、オーガの次は何が出るのかね」
「うーん、人型縛りプレイって訳ではないと思うけど、人型でオーガよりも強いとなると…」
「強いとなると?」
「……なんだろう?」
「わからんのかい!」
「普通わからないでしょ? だってこの先は未知だよ未知!」
「まぁ確かにそうなんだけどな、美鈴ならこの手の事は詳しいと思っていたからな」
「うーん… 人型でオーガよりも強い…か。 トロールとかサイクロプスとかかな?大穴でゴーレムも有りかも」
「巨人系って事か? イメージだとそいつらはでかいって感じだけど」
「あくまでも日本にあるラノベでのイメージだけどね。でも本当にここまで魔物のイメージが一致する部分があると、転移者が異世界で戦ってから元の世界に帰って、空想小説みたいな感じで世に残したって説が浮上するよね」
「ああ、もしかしたら本当にそうだったのかもしれないな。事実だと発表すると、もれなく精神病院送りになりそうだから」
時計を見るとそろそろ夕方の5時になる、いい加減マイホームに入ろうか。
汗を流して夕食も終わり、ロビーで3人だらけていた。
「しかし、これなら霞が1人で先行した方が実りのある訓練が出来るのかもしれないよな」
「そんな事は無いわ、安全に休める場所を確保できるおじさんや、多少怪我をしても治してもらえる美鈴がいるから安心して戦えるのよ。それ以前に1人だと、この場の空気に耐えられなくなって逃げ帰るかもしれないわ」
「そんな事ないと思うけどなぁ、でもまぁ、チームとして機能しているとは俺も思っているよ。安心して前衛を任せられて、安心して怪我の治療をしてもらえる。俺も安全地帯を提供して、これで対等なんじゃないかって思ってるしな」
「そう言ってもらえるなら嬉しいわ。最近の私は完全に脳筋化しているから」
「そんな事は思っていないぞ、交渉事も任せているしな。 まぁハワード伯爵みたいな貴族が相手なら、若い女性は侮られてしまうからしょうがないけど」
「ま、私は私にできる事で貢献するわ。美鈴もそうでしょう?」
「もちろんだよ、魔力の鍛錬はサボってないし、新しい魔法も増えてきてるし」
「え?そうなの?」
「うん、やっぱり戦闘で経験値ってのが入っている可能性は高いね。 ダンジョンに入って戦闘を重ねるごとに魔力が高まってきてる感じがするし、回復魔法も3種類に増えてるよ。 多少の怪我を治癒するヒール、骨折などの体内にまで達する怪我を治癒できるハイヒール、部位欠損… これは欠損した部分がある前提だけど、それをくっつけちゃうエクスヒールまで使えるよ」
「すげぇな聖女って、そうなるとアニスト王国って本当に何がしたかったんだろうな」
「本当よね、聖女を無能呼ばわりして追放するなんて正気の沙汰じゃないわ」
「でもさ、あのままアニスト王国に置かれてた方が私にとっては不幸だったから、そんな事はどうでもいいって思っているよ」
「そう考えればそうだな。俺もあのまま国に確保されて使い潰されてたと思うと、今の方が断然いいからな」
「他に増えた魔法はないのかしら?」
「他はねぇ… バフ系と結界、後は生活魔法って言われてるものかな」
「バフ系ってなにかしら、良くわからないんだけど」
「魔力の鎧を与えて防御力を高める魔法に身体能力が向上する魔法だね。今の霞で勝てなさそうな魔物はいないから使ってないけど… 明日試しに使ってみる?」
「少し興味あるわね、頼めるかしら」
「了解だよ。結界魔法もどんどん強化されていく感じだし、効果範囲も広くなってきてる。生活魔法のクリーンも効果が上がっていたでしょう?」
「そういえばそうね、あれだけ血まみれになってたのに、一瞬できれいになってたものね」
ふむ… 霞は攻撃スキルを使えるようになり、美鈴も聖女としての格を上げてきている。 という事は、そろそろ俺のマイホームにも何か変化があるのかもしれないな! 後でこっそり調べてみようか。 もしも何も変化が無かったら悲しいから誰にも言わないでおこう… いやマジで変わってなかったらへこみそうだし。
SIDE:カオリ
「ほらほら、どんどん飲んでよ」
「そうそう、遠慮はいらないぜ。俺達は結構稼いでるからな」
「食べ物も好きなの頼んでよ」
ダンジョンを出た所で声をかけてきた男性3人のパーティに誘われて酒場でお酒を飲んでいる、レイコも誘ったけど断られて宿に戻ってしまった。
でも、こうして男達にチヤホヤされるのって気持ちいいのよね。
日本人には無い端正な顔つき、体格もナヨっとしていないガッチリ系、こんなの日本にいたら出会う事すらなかったわよね。 ああでも、3人も同時に相手にすることになったら大変かもしれないわね。さすがにそんな経験はないから…
この男達、私ばっかりに飲ませて自分達は全然飲もうとしていない。もう完全にヤル事が前提の食事会になっているって訳ね、まぁ別にそれは構わないんだけど、これだと私が壊されちゃいそうね…それが少し心配。
ある程度お酒が進んできたところで、お手洗いに行くために席を離れ、戻ってくると、私の前に置かれていたお酒のカップ… 中身が変な色に見えた。
「これは…? もしかして?」
思わず最近使えるようになった鑑定のスキルを使った。 まだまだレベルが低いみたいで、詳細には鑑定できないけれど、そこそこ見破ることは出来る。
─山ブドウを発酵させた酒、麻酔薬入り─
麻酔薬って… 楽しく口説いてくるなら別に抱かれたって構わないと思っていたけど、女に薬を盛るなんてのはダメだ、クズ男のやる事だよ。 なんか冷めたし宿に帰ろう
「せっかくだけどコレはダメね、薬を使って女を好きにしようなんて考えは止めた方が良いわよ。 そんな男に付き合ってられないから私は帰るわ」
さっと立ち上がり、急いで酒場を出るのだった。 酔っているけど斥侯の職の効果なのか、普通に走る事が出来たから、あっさりと逃げ切る事が出来た。 ホントにもう最低の気分だわ、またレイコに愚痴を聞いてもらわないといけないわね。
暗闇の中、宿に向かって走ったのだった。