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誤字報告いつもありがとうございます。
「どうも、素材の買い取りをしてもらいたいんだけど、いいかしら?」
「あ、ああ~。 今回も大量にあるんですか?」
「ええ、かなりあるわね。収納持ちの彼が持ちきれなくなるくらいよ」
「あらまっ、それでは倉庫に案内しますね」
ギルドの受付にて霞が交渉し、倉庫に直接案内してもらえることになった。 野生の魔物であれば、解体場で素材を取るのだが、ダンジョン産はドロップアイテムといった感じで拾えるので倉庫に一度集めるのだそうだ。
「それではこちらにお願いします」
案内してくれた受付嬢が広い場所を指差して言ってきた。
「それじゃあやるか」
「はーい」
マイホームにある倉庫の扉を出し、扉を開けて中に放り込んでいた素材をギルド倉庫に並べていく。
大量の魔石、角や牙といった物をどんどん出していき、並べていく。
「え? これオーガの角ですよね? なんか大きくないですか?」
「それは40階層以降で出てきたオーガの上位種の物ね、その辺の報告もあるからよろしく頼むわ」
「40階層以降だと? おいおい本気で言ってるのか?」
倉庫の管理をしていると思われる男性職員が口を挟んできた。
「そうだが? 何か問題でもあるのか?」
「問題あるだろう、このダンジョンの最高到達点は40階層なんだぞ? それを越えたって事だろう?」
「ああ、そういえばそうだったな。俺達は50階層まで行って、そこの守護者を倒してから戻ってきたからな」
「50階層だと? それが本当なら…守護者はどんな奴だった?」
「あれは…オーガロード?キング? 名前は知らんがすごく偉そうな感じのオーガだったよな」
「そうそう、倒したらこんなの落としたよ」
話の途中で割り込んできた美鈴の手には、例の王冠があった。
「こ…これは!? これも売るのか? いやしかし前例がないから価値の付けようが…」
「査定してもらって合わないと思ったら売らないからね?」
王冠に手を伸ばしてきた男性から遠ざけるように後ろへ下がっていく美鈴、なかなかいじわるだのぅ。
「ちょっと待て! 見なきゃ査定できんだろ?」
「あっそうか」
職員の男に王冠を渡し、査定が始まる。ちなみにオークとオーガの魔石とオーク肉で金貨15枚になった。単純な日本円換算で1500万相当だ、本当に単純計算だけどな。
たしかダンジョン入りして5日間、3人で割ったとしても1人500万… 日給100万相当だったって事か! まぁ一番キツイ役目を負っていたのは霞であり、霞がいなければここまで倒せなかっただろう。
とはいえ、これはきっと安全マージンが高くて訓練がメインの戦闘だったからこんな感想を持ってしまうのだろう。 普通に考えて、未知の領域を進み、文字通り命を賭けて進んだ結果、その報酬が日給100万だというならそれは安いんだろうな。
それに、俺達は3人だったから日給100万の計算になるが、通常であればもっと人数の多いパーティで挑むはずだし、水や食料、薬なんかも持ち歩いているはずだから、その経費も考えると案外稼げないのかもな。
安い宿が小銀貨3枚くらい、3000円ほどで、飯や酒のみって考えれば、それなりに数日は豪遊できるかもしれないが、武器や防具にも金はかかるだろうし、難しいもんだな。
「うーむ、これは純金で細工も一流と言ってもいいな。金貨300枚ってとこだな」
「「ほほー」」
査定が終わったのか? 美鈴と霞は男性職員の傍で王冠を眺めているが、気に入ってるんだろうか。
「おじさん、金貨300だって… どうする?」
「どうするったって、そんなの持ってたってしょうがなくないか?」
「いや、ギルドに売るんじゃなくて、伯爵に見せればもっと出してくれるかもしれないし、寄贈して恩を売るなんて事もあり得るかもよ?」
「ほほぅ… お主も悪よのぅ」
「いえいえ、お代官様には負けまする」
「その茶番はなにかしら?」
「なんだ霞、古い時代劇は見た事ないのか? 面白かったんだぞ? 変な意味で」
「そうそう、令和の世の中じゃ、主人公が悪人をバッサバッサ斬っているから人権団体に抗議されて放送中止になっちゃうレベル」
「そう…残念ながら見た事は無いわね」
「1時間の放送枠の中で、大体1話につき2~30人の悪人が死んでたからな。今の時代にはそぐわないんだろうよ」
まぁ無駄話はともかく、王冠は確保しといた方が良さそうなのは確かだな。ギルド職員の話じゃ細工は一流のようだし。
「ついでだし報告もしておくわ、私達3人は50階層までクリアしたのだけど、魔物の情報とか教えておいた方が良いのかしら?」
「ぜひお願いします!」
ここまで案内してくれた受付嬢と霞は事務所の方へ戻っていった。
「じゃあ王冠は売らないで取っておくことにするよ、まぁどこかで手放す可能性は特大だけどね」
「そうか… ぜひギルドに欲しい所だが、獲得したパーティがそういう判断したのならしょうがない」
王冠を受け取って自分の倉庫に置くと、美鈴と一緒に事務所に向かうのだった。
SIDE:ハワード伯爵
「ハワード伯、お待たせしました。道中と滞在中はよろしくお願いしますね」
「はっ、田舎町なのでご不便をおかけするとは思いますが、誠心誠意尽くさせていただきます」
異世界人との交渉… まぁ陛下のお考えでは完全に篭絡してしまおうと思っておられるという事が確定し、思わずため息が出そうになった。
陛下が決めた交渉人… 本当に第4王女を選んでしまわれるとは…
「タイキ、ミスズ、カスミの3名は、恐らくビリーカーンの迷宮に入っていると思われます。直接向かわれますか?」
「そうですね、父上のおっしゃられる通り婿に…というのならば、早めに人柄などを自分の目で確認したいと思います」
「承知いたしました、それではビリーカーンの町に向かいます」
やはり陛下からそのような令が出されていたのか、我が領地をひっくり返すような騒動だけは勘弁願いたいものだが…
それにしても、娘を連れて来て本当に良かった。第4王女のクリスティーヌ様とキャサリンは年が近いので、道中の話し相手にもってこいだ。 少なくとも俺が相手にするより遥かにマシだろう。
ハワード伯爵家の紋章を掲げた馬車が王都を出たのは、大樹達がギルドに戻る前日の事であった。