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異世界生活42日目
「さて、いよいよここからオーガが出るわね。私達がオーガと安定して戦えればBランク以上は確定だと思うわ」
「霞はソロならAランクは堅いって事なんだろうな、恐ろしい子!」
「女性に恐ろしいなんて言うのはひどいわ、まぁ強い女性に憧れてはいたけれど」
軽口を叩きながら30階層に進んで行った。このダンジョンの最高到達点は40階層という事なので、この世界の冒険者が過去に、これよりも先に進んでいるのだから負けられないな。 なんせこれから国を相手に喧嘩をしようってんだ、後れを取っていて勝てるわけがないだろう。それに出てくる魔物が人型なのもある意味都合がいい。
「……え?」
「なんか思ってたのと違うね」
「確かにオークよりはだいぶ強いとは思うけど、なんかイマイチだわ」
そうなのだ、オークよりは大分強かった。でもそれだけだったのだ…
緊張しながら最初のオーガを探したものの、慎重に行動したはずの霞のローキック1発でオーガの足は折れ、倒れた隙に美鈴が蹴りを入れた…そしたら倒せてしまったのだ。
その後もオークとオーガの混成チームを難なく討伐しながら前に進み35階層に到着。
「情報ではここからオーガのみとなるらしい、一応油断だけはしないようにな」
「わかったわ、一応銃火器での討伐も試した方が良いわよね?」
「そうだな、緊急時に使ってみて効かないなんてなったら焦るしな」
「いや、検証の余地なんて無くない?霞の蹴りはともかく、私の蹴りでも倒せるほどなのに、銃弾を防げるとはとても思えないよ」
美鈴が銃での検証に反対意見を出してきた。確かにそうなんだけど、俺達の蹴りが転移者補正で銃火器の威力を上回っている場合も考えられる。 俺達っていうより霞の…かな。
「言いたい事は分かる、だけど検証は必要だ。油断すんなって言っただろ?」
「はーい」
つまんなさそうに返事をする美鈴、肉弾戦を好む聖女ってどんなんだよ! 本来であれば聖女って言う職は、後方から防御の支援やら回復やらをするもんだと思ってしまうのは偏見だったという事か。
しかし、戦闘経験という物は確かに蓄積されているみたいで、オーガに囲まれても特に被弾も無く処理する事が出来ていた。
あ、デザートイーグルでの攻撃も、当たり所次第では1発で倒せたね。
そして、特に何も問題が無いまま40階層を突破していた。
SIDE:ハワード伯爵
「報告は以上であります」
儂は異世界人だというタイキ達と別れてすぐに王都に来て、陛下にアニスト王国の事などを報告をした。そして陛下の顔色を窺っているが、半信半疑と言った感じだろうか。
「異世界人であることの証明として、このような物を預かってまいりました」
儂は献上された『えむぴーすりーぷれいやー』なる物を陛下にお見せする。
「これは異世界の音楽を聴けるという道具です、非常に精密だとの事で、衝撃などにご注意下され」
「ほぅ?ずいぶんと小さな物であるな、こんなもので本当に音楽が聴けるというのか?」
「はい、動かしてもよろしいでしょうか?」
「うむ、許す」
タイキから聞いた通りに操作し、『すぴーかー』から音が出てきた。
「おおお、確かに音楽が聴こえてくるの! ハワード伯よ、これは預かってきたと言っていたが、献上する事を許そうではないか」
胡散臭げな態度をしていたと思っていたが、音を出してみればすぐに食いついてきた陛下に思う所はあるが、断るわけにはいかんだろうな。
「もちろんでございます、ただ、それを使用するにあたって色々と条件がございまして」
儂はタイキから聞いていた通りの説明をする。使い続ければ1日か2日で使えなくなる事、再使用するには『デンチ』という物が必要な事、『デンチ』はこの世界では製造が出来ない事。
「ふむぅ、その異世界人であるタイキとやらに言ってもダメなのか?」
「まだそれほどの信頼関係を構築出来てはいませんのでなんとも… 今頃はビリーカーンのダンジョンで戦闘訓練をしているものと思われるので、会う事は可能かと思いますが、こちらの命令に従うかどうかは不明であります」
「まぁアニスト王国と敵対しているのであれば、我が国に害成す事は無いだろうが監視は必要だろうな。人員はこっちで用意するからその者らとの会談の場を整えよ」
「人員の選定は慎重にお願いします、僅か3人とは言え、武力は計り知れないものがあります故」
「そうか…それならばいっその事、非戦闘員を送ろうかの。 まだ婚約者の決まっていない第4王女などいいのではないか?」
「会談は受けてもらえるでしょうが、その意図を汲んでくれるかどうかは何とも言えません。タイキの傍にいる2人の女性もなかなかに美しい者でしたから」
「そうか? 女であれば王子にでも会わせれば篭絡できるのではないか?」
「異世界人の美的感覚がわからない以上なんとも…」
そんな感じでなんとか謁見を終えた。 しかし陛下は異世界人を侮り過ぎに見えてしまうのはどうしたものか… 下手に刺激すると矛先がこちらに向いてしまうとは考えられないのか。
王家の選出する人員に期待するしかないだろうな、せめて真っ当な者を選出して欲しいものだ。
ハワード伯爵は、選出された人員を自領へ連れて行くために準備をするのであった。
SIDE:賢者
召喚された日から俺は、アニスト王国で確認されている魔法について学んでいる。どうやら第2王女と結婚する事になっているらしく、すでに王女を抱いている。正直言って俺は初めてだったんだけど、王女もそうだったらしく、何とかうまくやれたと思っている。
賢者という職業、ゲーム的な解釈をするならば、全ての魔法に通じる者…そんな認識でいいはずだ。だから俺は、この世界に存在する魔法がどれ程あるのか、どのような効果があるのか、そんな知識を埋める事から始めている。
賢者という才能は凄まじく、初級魔法のファイヤーボールとはいえ、一目見ただけで再現できてしまったのだ。 それも手本として見せてくれた魔法使いよりも強力な魔法を。
魔法を使う時に現れる術式という物が見えてしまうので、自力で開発するよりも見た方が早く、王国中にいる魔法使いを王命で呼び出している所だった。 これで多くの術式を見れば、使いこなせる魔法も増えていくだろう、そうすれば最近部屋に来なくなった第2王女も俺に抱かれに来るだろう。
しかしこの程度で魔法を覚えられるとは…この世界も案外ちょろいもんだな。 他の人、勇者や大魔導士とは召喚された日から会ってはいないが、恐らく俺が一番優秀なんだろうな。 無能だと言われてた7人の事は話題にもならないから、どこかで下働きでもしてるんだろう。
この賢者様のためにせいぜい役に立って欲しいもんだ…