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ボコン!
霞に殴られたオークが、とんでもない音を出しながら吹き飛んでいった。 殴られた顔面は拳の形で陥没している…
「オークにも慣れたわね、皆はどうかしら?」
「私も慣れたかな、銃で致命傷与えられるし、ナイフでも完封できるよ。 1対1ならね」
俺達は20階層まで来ていた、ゴブリンやコボルドでは得られる経験が無いと判断し、ギルドで販売されていたマップを片手に一気に降りてきたのだ。
「慣れたのはいいが、もう21時になる、休もうぜ」
おっさんは疲れていたのだった。
マイホームに入り、汗を流してから夕食にする。今までになかったタイプとの戦闘の為、ついつい興が乗ったという所か。
「魔石の回収も出来てるし、なぜかお肉も出てくるし狩場としては良いんだろうけど、明日はどうする? もっと下に行く?」
「私としては進みたいわね、でも無理にとは言わないわ、パーティとしてやってる以上おじさんと美鈴のペースに合わせるつもりよ」
美鈴と霞の意見はそんなところだった、稼ぐのならいいんだけど俺達はそうじゃないからな。後方支援職である俺と美鈴が難なく倒せるところを見ると、オークだと経験にならないかもな。
「それじゃあ明日はオーガが出る所まで降りるとするか、30階層以降だっけ?オーガが出るのは」
「ギルドで仕入れた情報ではそうね、30階層以降からオーガが混ざって来て、35階層からオーガのみになるらしいわ」
「30階層でボス戦とかありそうだよね」
「情報ではそういった事は無いみたいだけど」
「じゃあまずは30階層を目指してみて、オークとオーガの混成チームと戦ってみてから判断するか」
「わかったわ」
そんなこんなでいつの間にか10時半を過ぎていた、もう寝る時間だ!
「それじゃあ俺は休むけど、皆も明日に備えてくれよ」
「はーい、お休みぃ」
異世界生活41日目
11時前に寝たせいか、今朝は起きた時間が少し遅かった。 まぁそれでも5時半だったが…
早速ベッドから出てロビーに行く、そして銃弾の補給っと。 オークならともかく、オーガ相手に近接戦闘はどうだろうか。オーガの動きを見てからじゃないと判断できないし、見た後で後悔する訳にはいかないから準備だけはしっかりやっておかないとな。9A-91用の弾丸も一応増やしておこう。
準備を済ませ、8時には出撃した。
弾丸は温存という事で、霞を先頭にしつつ、俺と美鈴もサバイバルナイフを持ってついて行き、複数のオークが出た時に手を出すと言った感じで進んで行った。
さすがに戦闘しながらだと、いかに霞が優秀だとはいえ、30階層に着いた時はもう夕方だった。
「よし、ちょうどいいから今日はここまでにしよう。ゆっくり休んで万全にしてからオーガの相手をしよう」
「うーん、なんかちょっと不完全燃焼な気がするけど、状況を考えればそれが一番だよね」
美鈴が賛同してくれ、霞も追随してきたので休む事となった。
「それにしても、今日は一日移動しながら戦っていたけど思ったより疲れてないよね」
「そうね、もしかしたらレベルの概念があって、それが上がったのかもしれないわ。私も朝と夕方を比べたら、体の動きが変わった気がするわ」
「うんうん、私もそれは思ってた」
そう、実際にそう感じたのだ。昨日は昼にダンジョンに入り、休むのにマイホームに入った時間は午後9時だったが、非常に疲れていたんだけど。今日は昨日程疲れていないのだ…
レベルの概念はともかく、戦闘訓練の効果は如実に表れていると思う。
「それにしても他の冒険者が全然いないけど、皆それほど強くないって事なのかな?15階層は結構人がいたと思ったけど、それを過ぎたら急に人が減ったもんね」
「鍛えようとしてないって事じゃない? 稼ぐ事を優先すればオークで十分なんじゃないかしら」
「オーガは稼げないの?」
「そんな事は無いと思うけれど、普通に考えれば30階層まで早くて2日かかるのよ? 往復の分の水と食料持ち込んだら持って帰る素材のスペースが無くなるからじゃない?」
「ああそっか、その点私達は恵まれてるからね。おじさんのおかげで」
美鈴がなぜかバンバンと背中を叩いてくる、しかし小柄なくせになんてパワーだよ…ズシズシ衝撃が来るんだが。
とりあえず脇道に入ってからマイホームへと入っていった。
ギルドで聞いた情報だと、オーガと戦えるのはBランク以上の冒険者がパーティを組んでなんとか狩れる…との事だったが、実際に戦ってみないと俺達がどの程度のレベルなのか判断がつかないからな、他の冒険者と交流なんてないしな。
未知と戦うのは正直やりたくない… このダンジョンに入ってからも数十、数百とすでに戦っているが、どうしても美鈴や霞のように好戦的に考えられないんだよな。
まぁ、ただの保守的なビビリだって言われればその通りだと思うが、やはり日本で過ごした40年がネックになっているんだろうか… ヤンキー君が相手の時はあっさりと撃てたんだがなぁ。
まぁ今更そんなことを言っても始まらないか、出来る限り安全で怪我の無いよう立ち回らないとな。女子高生を前衛に立たせている時点で矜持もへったくれも無いもんだが、せめて安全に戦えるようにフォローしないと…
もう安全の定義がわからなくなってきてるな。
「私は少し訓練してくるわ、体力的にちょっと物足りない感じがするから」
霞はトレーニングルームに入っていった。 ホント元気だな、あの体力が羨ましいよ。
「おじさん、お風呂入ってきていいよ、少し時間もあるから夕食は凝ったものにしようと思ってるの」
「そうか? それじゃあ任せるかな」
「はいよー」
美鈴の提案に乗り、俺は先にお風呂に入るのだった。
風呂から上がると霞も戻ってきていて、2人で厨房に入っていた。まだ調理中のようなので、俺は倉庫に行って、今日手に入れた魔石なんかを見に行く事にした。 ぶっちゃけすでにかなりの量になっているので、明日以降のスペースの確認をしておかないといけないからな。
話に聞くマジックバックや収納系魔法と違って、場所が限られているから整理整頓しないといけない…
風呂に入る前にやればよかったか…