㊻
いつも通り朝食後に準備をして、朝の7時にはマイホームを出てビリーカーンという町に向かう。馬車で2日と言ってたから、午前中には着くと思う。
「それにしても、ダンジョンって結構どこにでもあるもんなのかね?」
「んー、その辺の話は聞く機会が無かったから何とも言えないけど、ラノベでは大体魔力溜まりがーとか、ダンジョンマスターが作り出したーとか言われてるから、どこにできても不思議ではない感じ?」
美鈴が何か知ったかな風に喋っているけど、要するにわからんという事だな。
「まぁわからんもんはしょうがない、着いてから考えるか」
ダンジョンが近づいてくると、段々通りがかる馬車の数も増えてきた。 やはり資源を得られるという事で繁盛しているんだろう、マインズの町もそうだったしな。
商人と思われる連中は好奇心を隠すことなく俺達を、というか車をガン見してくる。声をかけようとしてくる奴もいたが、完全スルーで通り抜けてきた。
「やっぱ人が多くなるとすっごい見られるね、しょうがないけど」
「まぁな、馬がいないのに動いてるのが不思議でたまらないんだろ。わざわざ付き合うつもりはないけど」
時計を見ると午前10時を回った辺りで、視界に防壁が見えてきた。
いつものように切りの良い所で車をガレージに入れて徒歩で向かう。
「やっと強い魔物と戦えるわね、ブラッドウルフじゃ訓練してる気になれなかったのよ」
「まぁねー、私ですら銃無しで勝てちゃうしね」
「それはそれですごいと思うのだけれど? 支援職の美鈴が近接で戦う姿を見てると心配になるわ」
「まぁまぁ、支援職だからって逃げるとなれば体力勝負じゃない? 身体的な強さも必要だと思うんだよね」
「そうだけど…」
美鈴と霞の話を聞いていて、俺もそう思う。 ただでさえ小柄な美鈴が、しかも戦闘職じゃなくて支援職の聖女、そんな子が『訓練だから!』ってブラッドウルフと殴り合いをするのだ、正直心臓に悪い。
まぁ同じ理由で俺もやっているんだけど、自分がやるのとは大違いだ。 だけど身体能力の向上は必須と言えるので、負けない相手に限ってならなんとか許可できるかな… 霞も同じように思っているだろう。
ビリーカーンの町に入る事が出来たらすぐにギルドへ向かった、ダンジョンに関する情報集めをしなければな。
俺達ならダンジョンに入るのに時間は関係ないから、日が暮れる前に情報収集を済ませてダンジョンに入りたい所だ。
「このダンジョンの特徴は人型の魔物が多く出るらしいわね、浅い階層からゴブリン、コボルドとそれらの上位種、オーク、オーガと続くらしいわ。 最下層は不明で、現在の最高到達地点は40階層らしいわ」
「前半のはともかく、後半に出てきた名前の魔物はでかいんだろうな」
「そうみたいね、オークは2メートル50センチくらい身長があるそうよ、重量級だから力は強いらしいけど、速度はそれ程でもない。オーガが力と速さを両立してるので難関みたいね」
ギルドを出てダンジョンに向かっている途中で情報を纏めている。コボルドはまだ見た事が無いが、ゴブリン程度であれば俺でも素手で倒せる程度の魔物だ。しかしオークやオーガとなれば話は別だろうな、デザートイーグルが効くのかどうかも検証しないといけないな。
一応全員がサバイバルナイフを装備している、転移者補正で俺や美鈴でもそこらの冒険者よりパワーがあるだろうから、そっちでの戦闘も試してみて、異世界仕様の剣なんかを仕入れるのも有りだろう。
もしかしたら【伝説の聖剣】なんてのもあるかもしれないからな。
「ま、試してみるしかないよな。霞は大丈夫だろうと思うけど、俺達はどこまで通用するのかわからんからな、無理はしないけど色々とやってみよう」
そうして俺達3人は、ビリーカーンのダンジョンに足を踏み入れた。
SIDE:大魔導士
「全く、第3王女のマイルは我儘すぎるっての」
魔導士だというのに、毎日毎日走り込みや騎士団との訓練ばかり。こんなの俺に合う訳ないじゃないか。 俺は頭脳派であって脳筋じゃないんだ!
まぁ…少し痩せたとは思うけど。
この城に来てそろそろ1ヶ月半くらいか、あれから他の日本人とは誰とも会ってないから何をやっているかは知らない。 きっと俺のように走らされているんだろうな、あの勇者とか賢者とかイケメンぶりやがって気に入らないし、会わなくても何も困らないのだが、俺の担当らしいマイルは美人なので仲良くなりたい。
「と言っても、伊達に長年オタクをやってる訳じゃないからな、何を話せばいいのかさっぱりわからんし、女と一緒にいると緊張して言葉が出なくなってしまうんだよな」
若干コミュ障なのは認めるが、ここは異世界で俺は大魔導士なんだ、力を見せつければ女の方から寄って来てハーレムが出来上がるに決まってる。
「よし、ハーレムのために走るか! マイルも俺の女にしてやらなきゃな!」
多少痩せたと言っても元々の体重は100㎏超級、体を覆う脂肪からは汗が常に出て、当然汗臭くなる。第3王女はおろか、城仕えの侍女ですら2メートル以内には近づいて来ない事に、彼は気づいてはいなかった。
その走る姿を第3王女マイルが見つめていた
「はぁ… お父様がアレを兵器として使いたいのは理解できるけど、私が傍に付かなくても平気なのでは?」
「言いたい事は理解できますがマイル殿下、陛下のご命令なので」
「そうよねぇ、私もそのくらい理解しているわ。だけど貴女ならわかるでしょう?アレの相手が辛い事だって」
「存じております、私もマイル殿下の側仕えとして覚悟を決めましょう」
「いえいえ、覚悟を決める前に別の者を担当者にすればいいでしょう? 勇者と賢者の血を引く子を王家の者が産めば、大魔導士くらい他の貴族令嬢に譲ってもいいと思うわ」
「陛下のご命令なので…」
「はぁ…」
盛大に溜息を吐くマイル、一国の王女としてはしたない事であるが、侍女も心中を察してか何も言う事は無かった。