㊺
「なるほど、そういう事であればこちらとしては問題はない。むしろ情報提供をしてもいいくらいだ」
「この国はアニスト王国とは友好的な関係ではないという事ですか?」
「先代王の時代までは友好国の一つであったが、当代の王はな…なんというか、一言でいえば小者だからな、下手な付き合いは出来んという所だ」
「ああ…」
召喚された当日の事を思い出してみる、見るからに肥満体で装飾過多のおっさんだったなぁ
「確かに小者感は満載だったかもしれませんね」
「私はもう覚えてない、デブだった事くらいしか」
「私もそうね、肥満が装飾を飾ってたくらいかしら」
伯爵も何とも言えない顔をしているが、大体合ってるので返答に困っているんだろう。
「ま、まぁそんな感じだな。ともかく、お前達が独断でアニスト王国とやりあっても我が国は痛くも痒くもない、だからそこは好きにやってくれて構わんぞ」
「ええ、元々好きにやるつもりでしたから。」
「それで? これからどうするんだ?」
やれやれといった態度の伯爵だったが、今後の動きについて確認してくる。
「今後はダンジョンに行って戦闘訓練ですかね、マインズ以外のダンジョンをどこか知りませんか?」
「マインズ以外か、それであれば我がハワード領にもあるぞ? 未踏破のダンジョンだからどこまで先があるのかは不明だが」
「いいですね、そこは遠いんですか?」
「ここからであれば、馬車で2日という所だな」
「馬車で2日なら俺達なら当日に着けそうだな、場所を教えてもらっても?」
「当日で着けるのか… 場所は北に向かった先にあるビリーカーンという町にある。マインズ程じゃないがダンジョン都市として稼働しているから買取関係も充実してると思うぞ」
詳しく聞くと、整備された街道が通っているので迷う事は無いそうだ。
伯爵はこれからMP3プレイヤーを持って王都に行くそうだ、アニスト王国についての報告も同時にやるという事だ。そしてなぜか…伯爵家令嬢のキャサリン嬢に睨まれている… なぜだ。
少し離れた所で伯爵と何か言い合っているんだが、すこぶる機嫌は悪いみたいだ。俺が睨まれているのはとばっちりなのか?
…と、思ってみてたらこっちに向かって走ってきた。
「カスミ様? お願いがあります、ぜひとも聞いていただきたいのですが」
「私に? 何かしら?」
「私の専属護衛になってくださいませ! この男性よりも待遇を良くしますから!」
「ええと、せっかくだけど断らせてもらうわ」
「な、なぜですか? 何か弱みとか握られているのですか?」
何を言ってるんだこの子は… 霞はタイマンなら俺より強いっての。
「別に弱みなんか握られてないし、上司でも部下でもない。ただ、私自身の能力を最も効率よく発揮するには彼について行くことが一番だと思ってるからよ。目的が同じだからね、だから申し訳ないのだけど断らせてもらうわ」
「むー…」
また睨まれる俺、まぁ子供のやる事だしこの程度は許容できるから良いけど。
「キャサリン、もう諦めろ。王都に行かないのか?」
「行きますよ!」
キャサリン嬢は振り返ってそのまま行ってしまった。
「やっぱりアレだね、霞お姉様!って感じで惚れちゃってたのかもね」
「違うと思うわ、専属護衛って言ってたし、部下にしたかったのよ」
「おじさんより優遇するって言ってたけど、はっきり言ってそれはあり得ないからね」
「その通りだし、護衛になんかなったらアニスト王国にお仕置きできないじゃない? それは嫌だわ」
そんなやり取りがあり、ギルドでブラッドウルフを売ってから町を出た。
「それじゃあ次の目的地はダンジョンだね! ダンジョンなら階層を進めば敵も強くなるってのが定番だから、適正レベルでの戦闘が出来るよね」
「楽しみだわ、おじさんのおかげで食料とか野宿用の荷物とかの心配がないから狩りに集中できるのがいいわね、私の役目は戦闘時の前衛だから、役に立てると思うわ」
「それじゃ行くか!」
ガレージからすっかりマイカーとなったジ○ニーを出庫、乗り込んで出発した。
街道に沿って60㎞/h程で進んでいると、町が見える前に暗くなってしまった。 まぁライトは明るいから夜間でも同じスピードで走行は出来るが、うっかり魔物に突っ込まれたりすれば、さすがに軽四ではボディ剛性に不安が出る。
「急ぐ事もないし、今日はここまでにするか。軽だとブラッドウルフにぶつかっても大破しそうだしな」
「その辺は任せるよ、座りっぱなしでお尻が…ってのもあるし」
「まぁな、サブマシンガンの弾丸も作っておきたいし、ここまでにしよう」
ガレージにバックから車庫入れをして、そのままマイホームに入っていった。夕食の準備を霞に任せて、9A-91を2丁と弾丸の製作を始める。
一気に複数の製作をやると、グっと体から何かが抜けていくのが解る、俺の魔力を消費しているんだろうけど、こればっかりはなかなか成長していない気がするな。
そういった意味ではダンジョンで鍛えるのは良い事かもしれない、副次的な意味でも。
すっかり体がだるくなったから、夕食が終わったらさっさと寝てしまおう。
異世界生活40日目
うん、わかってたけど早く起きすぎた。まだ4時じゃねぇか…
もそもそとベッドから出て顔を洗う、いつもの行動だ。流れるようにコーヒーを片手にモニターの前に座った。
車両のページは変化なし、まぁ普通乗用車が作れるようになっても使えないんだけどね。 舗装路なんてどこにもないし、最低でもRV車じゃないとな。もう少し大型の作れるようにならんかねぇ…エス○ードとか、ラン○ルとかであれば言う事ないんだけどな。
ともかく、マイホームベースは俺の魔力に依存するとの事だから、ダンジョンでの戦闘訓練は俺も楽しみではある。調子に乗って身の丈に合わない戦闘だけはしないように気を付けないとな、カオリがいないから索敵は俺の道具でやるしかないが、それでも無いよりはずっといいだろう。
なんだかんだいって、今までまともな戦闘は少なかったからな。自分の身を守るためにはやっておかなければいけない、気を引き締めていこう。