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SIDE:レイコ
カオリを置いて逃げ出す気満々だったんだけど、部屋を借りている宿に戻って荷物を片付けてから、夜明けとともにダンジョン都市を出ようと眠ってしまった。
…がっ 深夜にカオリに起こされたのだ
「ちょっとレイコ聞いてよー、一緒に飲みに行ったアイツラなんだけどさぁ~」
「ええ?ちょっと愚痴なら起きてから聞くから寝かせて」
「ちょっとくらいいいじゃない、アイツラったら、飲んでる途中でなんか薬入りのを飲ませようとしてきたんだよね~。斥侯のスキルなのかわかんないけど、薬物入りだってのがなんとなく分かっちゃって、つまんないから逃げて来ちゃった」
「そんなの大体わかるでしょう、男が女を酒に誘う理由なんて。私は飲まないから大丈夫だけどね」
「なんか弱そうだったし、体目当てって言うならともかく、薬漬けにして働かせようって魂胆が見えちゃったから飲む気も失せちゃったよ」
「体目当てなのはいいんだ… ともかくわかったからホラ、多少は飲んだんでしょ?もう寝なさい」
「わかった、寝るー」
カオリはそう言うとレイコの寝ているベッドに潜り込んできた
「ちょっと自分のベッドがあるんだから…」
「やーだ、一緒に寝よう?」
カオリが抱きついたまま寝落ちしてしまった…
「はぁ…なんだかもう」
がっちりと抱きついて離れないカオリにとうとう諦めて、そのまま寝る事にした。
「さーて、今日も稼ぐわよ! 頼りにしてるからねレイコ!」
「はぁ…わかったわよ」
どうやらレイコは逃げ遅れたようだ。
SIDE:来栖大樹
パパパパン! パパパパパン!
「意外と反動があるな、威力も結構ある…と。」
早速9A-91の試射をやってみた。オプションであったスコープなんてのも付けてみたんだが… いいなこれ、かっこいいよ。
割と反動が大きくて的に当てるのが大変そうだけど、そこはまぁ練習かな。重さも2㎏ちょいってくらいで、今の腕力と体力であれば、持ち運びも特に問題は無さそうだ。
「よし、今度は魔物相手に使ってみるか」
練習を一旦終えて、朝食の用意のために厨房に入る。時間はもうすぐ6時、そろそろ女性陣も起きてくるだろう。
マイホームの不思議の一つで、ロビーからの各扉、その向こうは別空間になっているみたいだ。なにせトレーニングルームで銃火器の試射をやっているのに音が全く漏れないんだからな…
「あっとしまった」
考え事をしながらベーコンを焼いてたら焦がしてしまった… これは俺の分にするか。
ベーコンエッグを人数分焼いて、パンをテーブルに並べていると美鈴が現れた。
「おじさんおはよー、あっ ベーコンが焦げてる」
「ああ、ちょっと考え事してたらやっちまったんだ。それは俺が食うから心配すんな」
「いやいや、私少し焦げてる方が好きなんだよね。カリカリしてて」
「ええ?体に悪いって聞くぞ?」
「大丈夫大丈夫、それ私にして!」
「別に構わんけど…」
まぁソフトな焦げ目なら俺も好きなので言いたい事は分かるけど、まぁいいか。
「おはよう、もう準備が出来てるのね、すぐ顔を洗ってくるわ」
霞も起きて来て洗面所に向かって行った。
なんだかんだと1ヶ月以上も一緒に暮らしているが、真面目そうな霞の方が朝起きてくるの遅いんだよな。まぁそれは真面目とか関係ないんだろうけどイメージ的に違和感はある。
「さて、少し早い気もするけど、面倒事は先に片付けておくか?」
「んー、貴族はまだ起きてないんじゃないの? 行っても起きるまで待たされそうな気がする」
「そうね、午前中は町の外に狩りに行きたいわ。体を動かしていると気が晴れるのよ」
「それじゃあそうするか、俺も新しい銃を試したいと思ってたし」
「え? 新しい銃? 見せて見せて!」
美鈴がノリノリで話してくる、美鈴も銃火器が好きなようで、毎日訓練しているからな。
「これだ、9A-91といって、種類としてはアサルトカービン? サブマシンガンとかってやつだな。俺には区別はつかないけど」
「おおおー なんかかっこいいね!」
「マシンガンとサブマシンガンってどう違うのかしら?」
「わからん!」
「おじさん、これも人数分用意するべきだよ!」
「え? こんなの欲しいのか? 聖女がサブマシンガンとか…違和感がすげぇ」
「そんなの今更だよ! 古い映画じゃセーラー服で機関銃撃ってるやつだってあるんだから大丈夫!」
「確かにそうね、私も武闘家が銃を持っているのは違和感しか感じてないわ。それでも生き残るために使える物は何でも使うつもりよ」
「じゃあ作っておくか」
「じゃあすぐに着替えてくるね」
カ・イ・カ・ンだったか、美鈴も懐かしいもん知ってるな、俺はテレビで見たけどな!
とりあえず、着替えて出るまでに9A-91の製作は完了しなかったので、俺の持ってるやつを使う事にして町を出た。
パパパパパパン!
「やーこれ!当たらないけど気持ちいいかも! まさに快感だね!」
「次は私に撃たせてちょうだい、すごく気になるわ」
気に入ったらしい… 現役の女子高生がサブマシンガンを撃ちまくる図、俺は今、とても恐ろしいものを見ているんだな。 だってすごく楽しそうにブラッドウルフを撃ち殺してんだもん。
3人で交代しながら試射しているけど、火力がありすぎてブラッドウルフが足りない… これは早くダンジョンにでも行かないと本領を発揮できないな。 後で伯爵に聞いてみるか、マインズ以外のダンジョンを。
結局朝の内に用意した弾丸を撃ち尽くし、通常の狩りに戻った。
色々と試しながら狩っていると時間が経つのが早く感じる、気が付くともう昼になっていた。
「お腹空いたね、そろそろお昼ごはんにして町に行く?」
「そうだな、嫌だけど行くか」
貴族相手の精神戦は避けたいがしょうがない、約束してしまったからな。 伯爵は聞きたい事が他にもあるようなことを言っていたが、一体どんなことを聞かれるのやら。
昼食を済ませて町へと繰り出す、すでに数日滞在しているから大通りでは迷う事も無くなってた。
「ああ、嫌だけど…仕方ないよな」
「おじさんまだ言ってるの? 私が伯爵と話す?」
「だめだろ、美鈴を前に出した日にゃ、ドバっと毒吐いて伯爵がキレる未来しか見えない」
「ひどっ! いくらなんでも相手は見るし態度だって考えるよ」
「本当にそうなんだろうか… 謎すぎて判断がつかないな。霞はどう思う?」
「別に大丈夫だと思うわ、なんなら私が話してもいいけれど?」
なんかもう任せてしまおうかな、俺のメンタルも案外しょぼいという事が良くわかったよ。