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「じゃあ次は私が気づいたことを言うね。話し合いの最中にあの執事の人から魔力が漏れてたの、何かやってたんじゃないかな」
「何をやっていたかというのは?」
「いやぁさすがにそこまではわからないよ、私も聖女とかなってるけど魔法に関しては初心者だしね」
「そうか、そういった対策も必要なんだな。といってもどうすればいいかはさっぱりだけどな」
話し合いは進んで行くが、なんといってもこの世界の情報が圧倒的に足りていないので判断の付かない部分が多々ある。貴族関係に関してはしょうがない、美鈴と霞は平成生まれだし、俺に至っては昭和生まれだしな。小説やなんかで読んだ知識しかないから相手の心情を図ることは出来ないから心許無い。
「あーそれで、日本への帰還の話だが。伯爵の話を信じるのならば、期待はしない方が良いかもしれんな」
「そう…ね、正直すごくショックだったわ。呼び出しておいてあの対応、挙句の果てには帰れないなんて。ちょっとアニスト王国が許せなくなったわ」
「まーね、あの国はどうしようもないクズ国家だったね」
「いずれは復讐…なんて考えているわ。いずれだけどね」
どうやら霞の怒りゲージはMAXのようだ、気持ちは分かるけどな。
「俺もいずれ復讐は考えているぞ」
俺がそう言うと2人はガバっとこっちを見た。
「だって許せんだろ?あんなの。それに復讐だって声を大にして行動すれば、他の召喚陣をもっている国に対しても牽制になる」
「なるほど、他の国がこんな馬鹿な事をしようと思わなくなるようにって事ね?」
「そうだな、だけどそれはただの後付けだよ。ぶっちゃけた話俺が許せないだけなんだ、誰に喧嘩を売ったのかその身に分からせてやろうと思ってるだけだよ」
「よし!そのケンカ、私も乗るよ!暴力的な聖女を見せてやるんだから!」
「私もやらせてもらうわ。でもそうなれば、勇者に勝たなければいけなくなるわね。もっと訓練しないといけないし、実戦もしないといけないわ」
「そうだな、普通に出てくる魔物は霞の敵じゃないからな。どこかダンジョンでもあったら潜るか?」
「それがいいわ、お金も稼げるし」
復讐…それが良い事かと言われれば良くないと答えるだろう。恵まれた人は言う、「復讐の先に何があるのか」と。
言いたい事は分かる、建設的じゃないって事くらい。しかし、だからと言って俺達が我慢しなければいけない理由はない。何もしなければ悪さをした方が得をするだけ、何とも許せない話じゃないか。
とは言っても、相手方には勇者に賢者、大魔導士がいて、恐らく囲われているのだろう。同郷同士で戦う事になるかもしれない、武闘家である霞の力を見て思うが、勇者達はきっととんでもない力を発揮してくるのだろう。
そうなるとガチでやっても勝ち目は見えない、搦手で行くしか無いって訳だ。相手は16~7の子供だ、40男の人生経験を見せてやる時だよな。 ま、戦う事になればって話だが。
「とりあえず戦闘経験を得るという事の優先順位を上げるか、正面衝突だけが戦闘じゃないにしても経験は積んでいた方が良い」
「そうね、それに関しては賛成だわ。私個人としては勇者と正面衝突する事になってもいいように鍛えるつもりだけど」
「私は防御支援系の魔法を鍛えればいいかな、霞の後ろでプギャーする役で」
「プギャーってなんだよ」
「プークスクスでもいいね」
「良くわからんが、煽るって事だよな?」
「そうそう、怒らせて判断を鈍らせる常套手段だね!」
「……」
「まぁともかく、今後の方針はそんなとこだな?明日もきっと気疲れするだろうし、早めに休んでおけよ。俺はもう寝る」
「わかったよおじさん、お疲れ様」
「私は少しトレーニングルームに入るわ」
ロビーで別れて自室に向かった。貴族と相対してた事が思ったよりも精神疲労をもたらしてたようで、ベッドに入るとすぐに瞼が閉じてきた。
ああ、あの尾行してきた奴は、今頃見失って泣いてんのかな…
異世界生活39日目
目が覚めたのでスマホを見ると朝の4時、いくら早寝してるからって言ってもこの時間に目覚めるだなんて、これは爺の域に達してしまったんじゃないのか?と、少しがっくりする。
昨日の夜に制作していた物を確認する、電池式のMP3プレイヤーと、同じく電池式のアンプ内蔵スピーカー。小型のラジオくらいのサイズだけど、そこそこ良い音が出るみたいだな。
まぁ異世界で音質にこだわる必要なんてないんだけどな、霞が起きてきたら音源を入れてもらって再生してみよう。残念ながら俺のスマホに音楽は入ってないのだ
コーヒーを淹れて来てソファーに座って思考を始める。
さて、復讐するとは言ったが虐殺する気は無いんだよな。とはいえ、国に仕える騎士や兵士は命令には絶対だと思うから、こっちが敵対する気が無いといった所で、王から命令が出てたら否応なく剣を向けてくるだろう。 俺が持つ攻撃手段はどうしても銃火器になってしまうから、どんなに手加減をと考えても必ず傷つける事になるだろう。
威力の小さい銃を使うか?しかしそれだと鎧を着ている騎士を止められるかどうかわからないだろうな。
銃の威力って使用する弾丸の大きさで見当がつくから、ちょっとマシンガン的な物でも見てみようか。弾丸を大量に作っておけば、残弾数を気にする事の無い俺のスキルだと無敵なんじゃないか? まぁ撃ち尽くせばまた作らないといけないが、残弾ゼロになった途端に銃器が荷物になるって事は無いからな。
ソファーから立ち上がると制作用のモニターの前に行き、銃火器のページを開いてみた
「うーん、どれが良いのかわからん!見た目で選ぶのならば…9A-91アサルトカービン、ロシア製なのか…これはカッコいいな」
こういった機関銃的な物って何歳になってもロマンを感じてしまうな。子供の頃に銀玉を使ったおもちゃの鉄砲で遊んでいた記憶が蘇る。
「これは…使用弾丸の種類が多いな、これにするか。弾丸は…見ても分からんな、 5.56×45mm NATO弾ってやつにするか、世界基準の奴だろ?NATO弾って事は」
よしよし、後で威力の検証をしないとな。完成するまで待つとしよう