㊶
アニスト王国王城
「陛下!大変でございます!」
「騒がしいな、静かに入って来んか!地下牢に入れるぞ!」
「申し訳ありません、しかし大変でございます」
「何が大変だというのだ、いいからさっさと申せ」
「離宮にある儀式召喚の魔法陣が消えています!」
「なんだと!?一体どういう事だ!」
「恐らく追放した者の中から死者が出たのかと…」
ガターン
突然立ち上がった王が眼前にあったテーブルを蹴り倒した。
「どうしてそうなった!途中で逃げられて国外に勝手に出て行ったのだろう?我が国の兵が殺したわけじゃないはずだ!」
「そう言われましても…魔法陣が跡形もなく消えてしまったとしか」
「ぐぬぬ…なんたる事だ。こんな事が他国に知れ渡れば… この事を知っている者全員に緘口令を引け!一切口に出す事を禁じる!」
「ははっ」
「お前は原因を探るのだ!わかったな!」
その日から宮廷魔術師団は魔法陣消失について極秘調査を始めるのだった。
「おい、勇者どもの訓練は進んでいるのか?」
「はっ、それぞれ担当となった王女殿下が主導して行っております」
「ふむ、では娘たちに伝えろ。せいぜい骨抜きにして都合の良い兵器に仕立て上げろとな」
「承知いたしました」
「もしかすると…グリムズ王国は何か対策をしてくるかもしれんな、調査に向かった者からの報告は?」
「まだ来ておりません」
「諜報部隊を出して動向を探ってこい、ついでに調査部隊からも話を聞くようにな」
「はっ」
アニスト王国が少しずつ行動を開始したのだった
SIDE:来栖大樹
伯爵家との情報交換という名の腹の探り合い、お茶が冷めてしまった為メイド達を呼んで淹れ直させる
「それで、帰れぬ事がわかったお前達はこれからどうする?」
「そうですね…それについてはこれからじっくりと話し合いをしなければといった所でしょうか」
「そうか、それで異世界の物は提出できるのか?」
「まぁ日を改めてもらえれば出せますね。物についても検討しますよ」
「そうか、我が家としては大至急王家に報告しなければならん、できれば明日にでも提出してほしい。できれば明確に違う世界の物だと視覚できる物が良い、武器でもいいぞ?」
「それも含めて検討しますよ。それでは明日にまた伺うという事でいいですか?」
「ああ、それで頼む。他にも聞きたい事があるからな、こちらもその辺を纏めておく」
「わかりました、それでは本日はご馳走様でした」
伯爵邸を出て夜道を歩きだした
「おじさん、尾行されてるけどどうする?」
霞が何か気づいたようだ、俺には全く分からないんだが…
「放っておいて大丈夫だろ、今から町の外には出られないだろうから適当にその辺でマイホームに入ろう」
「わかったわ、私も少し気付いたことがあるから後で報告するわ」
「そうしよう」
多分泊まっている宿でも確認しようと伯爵が放った尾行なんだろうけど、後を付けられるってのは気分が良くない。付かず離れずの距離で付いてきてるみたいなので、着替えるのに使った路地に入って扉を出す。
「よし、さっさと入って休もうか」
「りょーかいっ!」
マイホームに入ってすぐに汗を流す、会食用の服は明日も着るので美鈴にクリーンの魔法をかけてもらって片付けた。
「さて、んじゃ会議といきますか。まずはアレだ、伯爵令嬢なんだが…お前達を見る目が尋常じゃない程怖かったんだけど?」
「いや、私達じゃなくて霞を見てたよね。愛だわ!」
「ちょっとやめてよ、あれは愛情というより都合の良いおもちゃを見つけた子供の目よ。自分に権力があるのを理解してるから始末に負えないタイプと見たわ」
「あーわかる、伯爵家の名前を存分に利用してアレコレ手に入れるタイプだよね。んで、飽きたらポイって感じ。可愛かったけどね」
「最悪じゃん…まぁ明日の話次第だけど、もしかしたら話し合いが終わればそのまま町を出るって事もあるな」
「今すぐ出て行ってもいいのだけど… それで話の続きなんだけど、私が感じた限りでは伯爵は職務に忠実なタイプのようね。そのためならたとえ犠牲があっても~って感じだわ」
「そうだな、国に不利益になりそうな隣国の勇者の情報のために、あっさりと国の事情を話してきたもんな。味方にすれば有用で、敵に回すとやっかいな感じか、面倒なおっさんだな」
「後ろに立ってた執事の人も面倒そうだったよね。腹黒そうというか何考えてるか読めないタイプ」
「そうね、まぁ伯爵って上位貴族に入るから変な人は使わないって事じゃないかしら」
「公侯伯子男だっけ?貴族の序列順で言うと」
「そうね、公爵は王家の縁筋だから実績で偉くなったわけではないけど、侯爵伯爵は地位も実績もあるから面倒なタイプね。私達日本人はそういう身分制度はあまりないから理解できない拘りとかあるかもしれないわね」
「んじゃ平民と思われている俺達があれこれと意見するって事は遺恨を招くと?」
「伯爵家の人は私達が余所者だって気付いてるから大丈夫だと思うけど、他の人は違うでしょうね」
「伯爵家ならメイドさんとかも子爵家や男爵家の令嬢かもしれないしね、特に下級貴族は偉そうにできる者が限られてるから平民に厳しいと思うよ」
「詳しいんだな…」
「それじゃあ伯爵家に持っていく貢物を考えよう」
「貢物って言うなよ、どうせ王家に行くんだろ?」
「そうなんだろうけどね、それで…何にする?」
「武器に転換できないような物で、技術的にも数十年は真似できないような物… 思いついた物はあるんだけど、2人の持ってるスマホには音楽が入っているか?」
「入ってるけど…もしかしてプレイヤーを贈るとか?」
「なるほどね、電池式にしておけば時間が経つと使えなくなるし、いいかもしれないわ」
「だろ?MP3プレイヤーが制作のリストに載ってたのは知ってるから、それに小型のスピーカーでも付ければ十分じゃないか?日本の感覚でいっても高いものじゃないしな」
そんな訳で充電式のMP3プレイヤーと小型のアンプ内蔵スピーカーを制作した。ステレオのスピーカーは単3電池2本使うタイプなので、スイッチを入れっぱなしにすれば1日くらいで使えなくなるけどな
「今日までこの世界を見てみた感じだと、この手の物は間違いなく存在すらしてないと思うわ。それで音楽なんだけど…私はオーケストラしか入れてないんだけどいいかしら」
「いいよいいよ!私のスマホなんてアニソンばっかりだから!」
「それじゃあ明るい感じのを頼むよ」
「明るい感じって例えば?」
「ビバルディの四季の春とか?あれ明るい感じだよな」
「なるほど、持ってないわ」
「そっすか…」
とりあえずこれで伯爵家の出方を見ようか