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用意が出来たと呼び出しがあり、メイドさんの後をついて行く。どうやら説教が入ったらしく、来た時とは態度が明らかに違っていた。
「こちらでございます」
そう言いながらドアが開かれ、中に入るとすでに伯爵家の面々は着席していた。伯爵に嫁さんと思われる女性に先ほどのキャサリン嬢、この家には跡継ぎ長男とかいないのかな?まぁいなくても婿を取ったりする家もあるだろうし、俺の知らない何かがあるのかもしれないな。
「すっかり待たせたようだな、着席してくれ」
伯爵に言われた通りに着席する、そして食事会が始まった。 正直詳しくは分からないけど、フランスやらイタリアやらのコース料理に似ている感じはした。実際食べた事は無く、テレビなどで得た知識なので正確な所は不明だが、きっとそんなもんだろう。
さて、そろそろ聞いてみるかな?色々と
「ところで伯爵様、隣国、アニスト王国の情勢には詳しかったりするんですか?」
「そうだな、一応国境に近い所を所領しているからそれなりには情報が入ってきているな」
「そうですか、1ヶ月くらい前にアニスト王国が勇者召喚を行った…というのはご存じで?」
「なにっ!?そんな話は… タイキといったな、その情報はどこで手に入れた?」
「まぁなんと言いますか、生きた情報の価値は何物にも代え難いと言いますか」
「ふむ、情報には対価が必要だと、そう言いたいのだな?」
「話が早くて助かります」
「して、その対価とは?お前達は何が欲しいのだ?」
「俺達が欲しい物、それも情報でございます」
「なるほど、どのような情報だ?それを聞かん事には答えられるかどうかの判断がつかないのだが」
「まぁそうですよね、この国、グリムズ王国にも召喚陣があるのかどうかと、過去に召喚された者の行く末が記された記述ですかね」
そこまで言うと伯爵は少し待てと言って、食事を進めていった。霞が興味深そうに俺と伯爵のやり取りを見ていたので、伯爵の仕草や態度から何か情報を探ろうとしているのかな。 やはり恐ろしい子だ、元々真面目な子だったんだろうけど、異世界人補正によって色々と開花してしまったのだろうか。
でもそう考えるとアレだよな、俺にも何かあってもいいんじゃないかと思うけど…まぁこの件については今は放置案件だ。
食事が終わり、メイドさん達が食器を片付けお茶の用意をしてから出て行った。残っているのは伯爵家の3人と執事のお爺さんだけ。
「それで、先ほどの話だが、答える事は可能だぞ?もちろんお前達の話の対価にふさわしいと思った分だけになるがな」
「もちろん構いませんよ、当然ですが他言無用という事でいいですよね?それでは情報交換を始めましょうか?」
「うむ、始めてくれ」
俺はチラリと美鈴と霞の方を見る、2人も頷いているので聞かせてあげようじゃないか。
「1ヵ月前、正確には38日前なんですが、アニスト王国は勇者召喚を行い、10人の異世界人を手に入れました」
「10人もか…続きを話せ」
「その内勇者、賢者、大魔導士の職を持った3人の若い男性を囲い込み、残りの7人を国外追放として馬車に乗せ、グリムズ王国へと運び出してから殺害しようとしていました」
「なんだと?それは本当かね、確か召喚された者が非業の死を遂げた場合は、死んだ場所など関係なく召喚を行った国が罰を受け、召喚陣が消え去るという話ならば我が国にも伝わっているのだが…それに随分と詳しいし、お前達は勇者召喚に関わった関係者なのか?」
「まぁ関係者といえばそうなりますね、アニスト王国側ではないですけど」
「となると、お前達は追放された7人の…という事になるが」
「まぁそこは、後に話しましょう。最初にも言いましたが、こちらの出す情報はアニスト王国が勇者召喚を行ったという話ですから、それ以上のネタになると対価が足りなくなりますよ?」
「むぅ…ならばまず対価を示そう。我が国にも異世界から勇者を召喚するための召喚陣は確かにある。王城に残っている資料には、前回使われたのは150~60年前で、その事実を記憶している者は存在しないし、それについて書かれている記述は王家によって管理されている」
「なるほど、それでは手の打ちようはありませんね」
「後は召喚された者がどうなったか…だったな。確か召喚を行った各国がそれぞれ責任を持って保護し、子孫を残していると書いてあったはずだ。我が国にも勇者の血を引く子孫が公爵家として今も残っている」
「つまり、召喚された者は帰ることは出来なかった…という事ですか?」
「そうだな、少なくとも我が国には召喚した者を元の世界に返す方法は存在しなかったはずだ」
「そうですか…」
知りたかった事のはずなのに、知ってしまってショックを受けるこのジレンマ… マジかよ、やっぱり帰れないのかよ。
ふと2人の方を見ると、霞の顔が強張っていた。やはりショックなんだろう…というか美鈴、お前は何とも思ってないのか?随分落ち着いているな
「なるほどそうか、帰る方法を探りたかったのだな?はっきり言うが、他国に行って話を聞いても同じだと思うぞ?」
「そうなんでしょうね、後ついでなんですけど、今現在に於いて勇者が必要な案件ってあるんですか?」
「いや、それは聞いた事は無いな」
「なるほど…アニスト王国の王様は悪そうな顔をしてたから、勇者を使ってどこかに侵略戦争でも仕掛けようとしてるのかもしれませんね」
「もし勇者召喚が実際にあったとなれば、その確率は高いな。何か証明できるものはないのか?」
「証明…ですか。例えばどのような?」
「そうだな、仮にお前達が異世界から来た人間であるならば、この世界には存在しない異世界の物があるはずだ。それを提出してもらうのが手っ取り早いな」
「おじさん、マイホームの物ならなんでもいいんじゃない?今言ってた条件は軽くクリアできそうなんだけど」
異世界の物と言われて考え込んでしまった俺に、横から口を出してきた美鈴。確かにその通りだな、むしろ日本に実在する物よりさらに進んだものあるかもしれない。だけど武力に転換できるような物はまずいだろうな。
「うーん、何が良いと思う?技術転換でき無さそうな物で」
「そうね、圧力鍋とか良いんじゃないかしら。素材もそうだし製造技術は相当高いと思うわ」
「なるほど…さすがおっさんとは視点が違うな」
「ところでお前達は親戚か何かか?世代が違う割には打ち解けているような」
「まぁ戦友に近いですかね、理不尽に対して戦おうというね」
ぶっちゃけ必要な話はかなり聞けたんじゃないだろうか、後はこの話を聞いた伯爵がどう行動するかだけどな…