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「買い取りお願いね」
「何がどれくらいありますか?」
「ブラッドウルフが12~3匹、後はゴブリンの魔石ね」
「ブラッドウルフが12~3ですか?ああ、収納持ちなんですね、羨ましいです。それでしたら解体場で直接出してもらっていいですか?」
霞と受付嬢のやり取りを他人事のように見ていたが、場所を移動するとの事で後をついて行く事となった
「ええと、ブラッドウルフが丸ごと13匹、状態は良好なので単価は銀貨2枚です。ゴブリンの魔石は単価銅貨5枚で15個、締めて銀貨26枚、小銀貨7枚、銅貨5枚となります」
「それでお願いするわ」
「ブラッドウルフに関しては解体手数料を2割頂きますので、銀貨5枚と小銀貨2枚引かさせていただきますね。こちらをどうぞ」
やはりブラッドウルフのような弱い魔物でも、肉や毛皮と用途が多いので、丸ごと納品できると単価は高く感じるな。しかしそれも収納持ち限定なんだろうけどね
「銀貨21枚と小銀貨5枚の売り上げ?1日の売り上げと考えればそこそこになったね」
「そうね、どこかに食べに行く?」
「それもいいかもね、それよりもお金はどうする?分配して個人で管理するか、誰かがまとめて管理するか」
「正直言って銀貨とか、数が増えれば意外に重いのよね。私としてはできれば収納できるおじさんに管理してもらいたいのだけど」
「私もそれが良いかな、まぁ個人用に少しだけ現金を持つって感じで」
「ああわかった、今晩にでも個人用の荷物箱を作って倉庫に置くようにしようか。まぁ俺を中継しないといけなくなるのは面倒だとは思うがな」
「いやぁ大丈夫でしょう、後は個人のお財布用に小さめの巾着袋でもあればいいかな」
打ち合わせともいえる話をしながら町の中をねり歩き、食事処を探してみる。
とりあえずどこも初見という事で、大衆食堂的な雰囲気のある店を選んで入ってみた。メニューなどは無く、日替わりで料理が出てくるシステムだった。
「うん、野菜スープは塩が効きすぎ。パンは…かったいんですけど?」
「スープに浸けて柔らかくしてから食べるって事だな」
「それにしても硬いわ、日頃食べてる料理がどれほど素晴らしいのか良くわかったわ」
「前回食べたのは美味しかったんだけどねー、場所とお値段によるって事なんだね」
なんとか完食したものの、量も少なかったために物足りなかった。また狩りをしに町の外に出るから、その時にマイホームで口直しでもしよう。
そんな訳で門に向かって3人で歩き出した
「あ、先日盗賊を捕まえてきた人だよな?もう事情聴取も終わっていて、明日の午後には報奨金の用意ができる予定だ。だから明日の昼以降に来てくれってうちの隊長から言付かっていたんだ」
「お、3日って聞いてたけど早く済んだんだな。それじゃあ明日伺うって伝えてくれないか」
「ああ、魔物の数が増えているから外に出るなら気を付けてくれよ」
門衛に送り出されて町を出た。門から出入りする人達の目から死角になるように防壁の陰に隠れて車を出す。
「よし、じゃあさくっと森に行ってしまおう。狩りを始める前に軽食をつまみたいんだけどいいか?」
「いいよー、私もなんか足りてない感じだし」
霞も頷いているので満場一致となった。そうと決まれば少しばかりだけどスピードをあげよう、舗装路じゃないから跳ねてひどいんだけどね
「それにしても、まさかこんな生活に馴染んでしまっているのが不思議だわ」
「ん?どういう事だ?」
「こうして旅をして、魔物を狩って日銭を稼ぎ、知らない町で料理を評論したりして。こんな生活は日本にいたら考えられないでしょう?なのに慣れた感じがしている自分がいるというのが不思議だと思って」
「それは確かにな、俺も毎日働くだけの生活だったしな。最初の2週間は絶望的な状況だったけど、どうにか回避できて安心したからかもしれないな」
「ええ、今の生活にも楽しむ余裕が出てきたという感じかしら」
「楽しむかぁ、俺はおじさんだからあんまり楽観視はすることは出来ないけど、それでも柔軟に対応できるだけの余裕は出来たのかもな」
「なにより一番の驚きは、男の人と旅をしてるって事なのよね。もちろんおじさんが嫌だとかって話じゃなくてね」
「それは俺も同じだよ、まさか女子高生と旅をするなんてな。まさにファンタジーだ」
車で移動していると、助手席が定位置になっている霞と話をする機会が増えてる感じだな。美鈴も後ろから会話に参加はするけど、それをやると変な姿勢になるから疲れるみたいだ。
森に着いたので車をガレージにしまい、一度森の中に入っていく。そして森の外から見えなくなった辺りでマイホームに入り軽くサンドイッチをつまむ
「やっぱりここでのご飯に勝るものは無いね、町でのご飯は好奇心で食べてる感じだから」
「それは間違いないわね、食べ慣れた味だから当然なんだろうけど」
美鈴と霞が食べながらお喋りしているのを眺めつつ、俺も腹を満たす。腹が減っては…と、よく言うからな。
食べた後は外に出て狩りを始める。森に出てくるブラッドウルフやゴブリン程度であれば、どれだけ囲まれようと霞の敵ではなくなっていた。魔物が弱いせいで戦闘経験という観点から見れば大した経験は得られないかもしれないが、1人で複数の魔物を相手に立ち回る訓練にはなるようだ。
俺と美鈴も何かあった時のために経験を積んでおかなければいけないという事で、素早く照準を合わせるよう意識してみたり、マガジンの交換を素早くできるようやってみたりと、なかなか充実した訓練になったと思う。
「それにしても、やっぱり魔物の数は多く感じるな。国境の傍の森が少なかっただけかもしれんが」
「あそこでは探す時間の方が長かった気がするよね」
「ああ、この森だとたった2時間程度で30匹以上は遭遇してるもんな。まぁ狩りは捗るけど」
「これは、明日ギルドに行ったら報告しておいた方が良いかもしれないわ。あきらかに聞いていた話よりも多いから」
「それがいいかもしれないな」
霞を見張りに立たせ、俺と美鈴でゴブリンから魔石の回収作業をする。ゴム手袋にゴムのエプロン、そして防臭マスクとフル装備してゴブリンの胸元を切り裂いて魔石を取り出す。ダンジョンだったら勝手に死体は吸収されて魔石だけ残ってたんだけど、外だとこれがなー。
今日の戦果はブラッドウルフが21匹、ゴブリンが13匹。周囲も暗くなってきたしこれで今日は上がろうか。