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2時間ほど歩いて町に到着した。この町はグリムズ王国ハワード伯爵領の領都でギースという町らしい、なかなか賑やかな街だ。
町の門を守っていた衛兵に盗賊の件で話しかけてみる事にしよう
「道中で20人規模の盗賊集団がいたんだが、そいつらを捕縛してあるから引き渡したいんだが」
「20人規模の盗賊だと?最近この辺を荒らしていた盗賊団かもしれないな。リーダーの名前とか分かるか?」
「いや、尋問とかは全然やっていないんだ。大きな声じゃ言えないんだが…俺のスキルで20人まとめて収納してある。場所さえ指定してくれたらそこに出すが?」
「なんだと?収納に人間が入ってるという事は全員死んでいるという事か」
「いや、俺のはちょっと特殊なんでね、全員怪我はしているが生きているよ」
「本当か?よし、それならば牢に案内しよう。捕縛していると言っていたが、どのように?」
「両手と両足を縛り付けてあるよ、すぐに動ける状態ではないから大丈夫だと思うが、心配ならそっちで縛り直してくれればいい」
「縛ってあるなら牢でなく裏庭でいいか、人を集めるから少し待っていてくれ」
衛兵はそう言い残して門の脇にある建物の中に入っていった
「引き取ってもらえそうだな」
「いくらになるのかねぇ、食事代くらいは欲しいよね」
「全くだと言いたい所だが、霞の対人戦闘の練習台になってもらったからな、ご愁傷さまとしか言いようがないな」
「いいじゃない、私だったから殴り倒されただけで済んだのよ?普通であれば武器を使用して切り殺されている場面だわ、大した怪我も無く生きているんだから感謝してほしいわね」
そうこうしていると、建物の中から5~6人の兵が出て来て建物の裏側へ案内される
「よし、それじゃあ盗賊どもをここへ出してくれ」
そう言われると、俺は扉を出してその中に入る
「おい、突然ドアを閉めてんじゃねーよ!さっさとここから出せと言っているだろう!」
「ああ、今出してやるよ。待ってな」
霞も牢屋の中に入って来て使い捨てのゴム手袋を装備する。俺も直接触りたくないからゴム手を装備して盗賊の1人を引きずって外に出す、霞はなんと2人まとめて引きずっているが気にしない。
「これで全員だ、ちょうど20人だったな」
「お、おう。これは便利なスキルだな、生かしたまま連れて来れるとは初めて見たぞ」
「報奨金はもらえるのか?」
「もちろんだ、ただこれからコイツラの罪状について取り調べをするから早くても3日後になるな」
「3日後か、それじゃあそのくらいにここを訪ねればいいかい?」
「ああ、そうしてくれ。それじゃあ冒険者カードを見せてくれ、こっちで登録しておいてすぐに支払えるようにしておく」
「よろしく頼むよ」
俺達は冒険者カードを見せ、登録してもらった。これで3日後に来た時、今いる衛兵がいなくても話が通るようになっているとの事だ
「ギースの町だと?いつの間にそんなところに来たんだ!」
盗賊どもにとっては、ついさっき戦闘して捕まったという意識しかないから戸惑っているんだろう。まぁそこら辺はどうでもいいな
「これで最低3日はこの町に滞在する事になったな。とりあえずギルドにでも行ってみるか?」
「そうね、どんな仕事がこの町では普通なのか見てみる必要はあるでしょうね」
「情報収集もね」
意見が一致したので早速ギルドを探すために町を探索する事にした。
ギルドというのは基本出入りの多い門の近くで、しかも迷わないように目立つように出来ているみたいだ。割とすぐに見つかったので中に入ってみる事にした。
「あ、あそこに依頼票が貼ってあるから見てみようよ」
「そうだな、どうせ3日は滞在するんだから何か仕事を受けてみるのも良いかもしれないな」
「そうは言っても私達Fランクだし、選べるほど無いと思うけどね」
「そういやそうだったな、最底辺のFランだったわ」
とは言いつつも、ランクと技量がかみ合わないのは普通にあるので、貴族からの依頼など信頼度が要求される場合にしかランク指定はあまりないそうなので大丈夫だろう。ぶっちゃけ数の暴力以外で霞が後れを取るとは思えないしな、複数の魔物がいても立ち回り次第でどうにかなるだろう。
これは希望的観測じゃなくて、霞の動き、魔物を倒す事への感情の動きを見ての判断だ。今の霞は申し分のない戦士と言えるだろう。
まぁただ、元は平和な日本で生まれ育った女子高生だからな、そういったストレスが蓄積されていく事も考えなきゃいけないから逐一確認はしないといけないな。霞には嫌がられるだろうけどしょうがない。
さすがにPTSDの症状を聖女の力で治癒する…というのは無理っぽいよな、外傷じゃなくて精神的な問題だし
1人で悶々と考え事をしている間、霞は受付に情報収集、美鈴は小柄な体を精一杯伸ばしながら依頼票を眺めていた。
「魔物情報は取れそうか?」
「うーん、ブラッドウルフの肉や毛皮が多いね。ブラッドウルフってどこにでもいるんだね」
「まぁアレが相手なら楽でいいだろ、狩場についてはなんか書いてあるか?」
「地名書かれてもわかんないし無理だね、霞の情報待ちになるかも」
「全くその通りだ、右も左も分からないから困ったもんだよな」
一通り依頼票を眺め終わったらその場を離れ、霞の様子を伺う。なにやら楽しそうにお喋りをしている…コミュ力が本当に高いな霞は、営業向きなんだな。見ていたら受付カウンターを離れてこっちにやって来る。
「狩場の場所と周辺の情報を聞いてきたわ、早速狩りに行く?」
「そうだな、お金の心配もあるから宿は取らないで、狩りに行ったままマイホームに入るか」
「私は別に宿に泊まりたいわけじゃないわよ?ご飯は気になるけど」
「それじゃあ町の外に出てから周辺情報とやらを聞くとするか」
町の外に出てから霞が先頭に立つ
「あそこに見える森が狩場になるわね、浅い場所にはゴブリンとブラッドウルフ、後は角うさぎというのがいるらしいわ」
「角うさぎかー、これもある意味定番の魔物だよね。角が生薬になったりするんでしょ?」
「ええ、薬の材料になるから買い取ってもらえるわ」
「やっぱりねー、でも考えてみるとさ、ラノベやなんかでよくあるテンプレってやつが普通にあったりすると、最初に小説とかで書いた人って、転移して帰ってきた人だったりするのかなーって思っちゃうよね」
「無いとは言い切れないわよね、それはともかく。さっき言った周辺情報なんだけれど、どうもこの周辺でゴブリンが大量発生の兆しがあるみたい。現在調査中らしくて狩場では要注意との事よ」
「おおう、スタンピードってやつね?それはまずいんじゃない?」
「兆しがあるって事で調査してるみたい、今すぐにどうにかなるものじゃないみたいよ」
「そういえば午前中に見た馬車のアレもゴブリンだったよね」
「不意打ちには十分気を付けて行きましょう」
森に到着したので狩りを開始したのだった