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「ちょっと待ってくれぬか、やはり馬車を起こすのを手伝って欲しいのだ」

「まぁそのくらいなら…いいよな?」

「ええ、構わないわ」


 力自慢である霞の承諾が取れたので、もう一度外に出る。


 横転している馬車に近づき、霞が執事のおじさまに声をかけた


「中に人は?」

「女性が2人、出入り口が上にあるため出てくることができないのだ」

「それなら馬車を起こした時に怪我をしないようにさせてあげてくださいね。一応こちらには治癒魔法を使える者がいるので多少の事は大丈夫だと思うけど」

「承知した」


 執事が馬車の上から中の人に注意点を話してるみたいなので、ゴブリンに攻撃されて倒れていた馬から馬車を切り離す。馬はかなりの大怪我をしているがまだ生きていたので美鈴が魔法で怪我を癒していく。その間に俺は車に積んであったワイヤーロープを取り出して馬車の屋根部分に括り付け、車で引き起こしにかかった。


「それじゃあ行くぞー、巻き込まれないよう気を付けて」

「こっちの準備はいいわよ」


 よし、軽四駆とはいえ一応ターボ車、そのトルクとパワーを見せつけてやるのだ!

 馬車が木造なので勢いはつけず、じっくりとトルクをかけて引っ張っていく。馬車の背後から美鈴と霞、それに執事が人力で持ち上げようとしている。エンジンを吹かしながらじわじわと進ませ、特に壊す事も無く戻すことができた。 起こした時の衝撃で中から小さな悲鳴が聞こえてきたので中の人も声をあげられるくらいには元気なんだろう


 馬車が起きた事により出入り口がようやく普通の位置になって、中にいたと思われる女性が2人降りてきた。パっと見た限り、お嬢様とお付きのメイドさんって感じだったな。この世界のお嬢様は召喚された日に王女と思われる3人を見ているせいか、アレに比べると簡素な感じのドレスを着ていた。


「怪我はない?私は治癒魔法使えるけど?」

「助けていただきありがとうございます。怪我については大丈夫です」

「無事なら良かった、馬は治癒しておいたから多分走れると思うよ」


 美鈴がお嬢さんに対応していたが怪我はないようだ。しかし馬の怪我が治っていても馬車の方の車軸が折れているので使用することは出来ないだろうな。しかし今まで街道上に魔物が出た事は無かったけど、辺境より王都に近い土地で魔物が出たというのは問題なんじゃないか?普通であれば都市部の安全はある程度確保されてなければいけないもんだからな


 まぁいい、内情がわからないのだから考えるだけ無駄だよな。さて、何やら余計な仕事を依頼してきそうな空気になってきてるから早々に立ち去るとしよう。ワイヤーロープを丸めて車に戻し、運転席に乗り込もうとドアに手をかけた


「ちょっとおじさん、何さっさと乗り込もうとしてるの?」

「ん?だって人助けも完了したじゃないか」

「いやこれ、絶対にフラグだよ。この国の貴族にコネができるかもしれないよ?それにあのお嬢様もメイドさんも美人だし!」

「おっさんかよ」


 俺と美鈴がこそこそと話をしていると霞も車の方にやって来た。霞は特に気にするようなそぶりも無くあっさりと助手席に乗り込んだ


「ほら行くぞ」

「ええー?絶対にフラグだと思ったのにー」


 ここは物語の中じゃないんだから、小説ではフラグだったとしても現実は違うだろう。あちらさんも俺達を警戒していたようだし、最初からこっちと関わろうとしていなかったしな。フラグがどうこう言うよりも相手方の機微を見んとな、社会人なら持つべきスキルだぜ


「それじゃあ俺達はこれで」


 お嬢様は何か言いたそうにしていたが執事とメイドが何も言わないのでその場を後にした


「はぁ~フラグじゃなかったのかな、何も言ってこなかったよね」

「あちらさんにも事情があるんだろうさ、助けてやれない事も無かったけど力仕事だぞ?」

「え?どうすれば助けられたの?」

「よくボートとかマリンジェットとかを載せているトレーラーのシャーシがあるだろう?アレに人力で馬車の車体を載せて引っ張れば…とかね」

「人力で載せるんですか…厳しいですね」

「だろ?敬語を使いたくなるくらい面倒そうだろ」

「納得した、それに向こうは関わって欲しくなさそうな態度だったしね」

「うんうん、世の中そんなにうまい話は無いのさ」


 動かない馬車と1頭の馬、それで今後どうするのかはあちらさんが考える事だ、頼まれれば対価を取って受ける事もやぶさかではないが、押し売りはするつもりはない。


「それにしてもさっきのお嬢様、可愛かったねー」

「そうね、日本人とは決定的に何かが違うわよね」

「メイドさんも綺麗だったし、執事のおじ様もかっこよかったし、本当にどうなってるんだろうね」

「地球上の歴史でも、見目麗しい子同士で結婚するのは権力者のステータスみたいな物だったから、遺伝的に整った顔の人が生まれやすいのかもしれないわ。平民でも可愛い子は養子に取ったりしてたみたいだし」

「全ては顔なのね、嫌な世界だわ」


 顔面偏差値についてのアホな会話にはついていけない俺は、ただまっすぐ前を見て運転していた。そろそろ町が見えてくるはずだから降りて歩く事を提案するか。

 やはり車で町の門に乗り付けるのはまだ早いと思っている。門衛は領軍だったり国軍だったりするからな、町に入れてもらえなくなるかもしれない。


「そんな訳でそろそろ歩こうか」

「そうね、次の町で例の盗賊引き渡すんでしょう?」

「一応そのつもりだ、金になるみたいだしな。金は無いよりあった方が良いだろ、珍しい食べ物とかあるかもしれないからな」

「そうね、食あたりで聖女に頼るというのはどうかと思うけど、未知の食べ物はやっぱり怖いから」

「そうそう、普段あまり役に立ててないから、働きますよー?聖女の安売りですよー?」


 ひどい言い草だなと思いつつも、やっぱり安心感が違うよな。聖女ってやつはこんな使い方をしちゃいけないんだろうけど…まぁ別に世界を救う勇者パーティじゃないしな、本物の勇者が実在するんだからそういった話は彼らに丸投げでいいだろ。 そういや勇者君達は元気なんだろうか…

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