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「それで、今日はどうだったんだ?」
日が暮れて暗くなったのでマイホームに入り夕食を済ませた後、ダンジョンの事を霞に聞いてみた
「今日は10階まで進んでみたわ、とりあえず私1人で十分対処できてたし、周りに誰もいないのを確認してから美鈴にも攻撃してもらって実践訓練をした感じかしら」
「ほほぅ 10階でも余裕だったのか。カオリとレイコは?」
「完全に別行動だったからわからないわ」
「そうか、霞は日々強くなっていくな、大したもんだ」
いよいよ非戦闘員である俺の立つ瀬は無くなってきたな、美鈴も聖女とはいえゲーム的な見方をすれば、戦闘パーティに随行して回復支援するもんだし、まともに鍛えればすぐに即戦力になるだろうと予想できる、あくまでゲーム的な見方ならだけど。そういった見方をすると、俺は完全な後方支援だしなぁ…鍛えてどうにかなるものか怪しいものだ。 いや、鍛えるけどね、盗賊や強盗なんかに優しくできる程人間出来ちゃいないし、黙ってやられてやるほどマゾいわけじゃない。
役割分担が出来ているからと言って舐めてかかれる程この世界の事を知っている訳でもないから、必然的に訓練はしておかなければいけないと思っている。霞の足下に及ばないと解っていてもだ、さすがに雑魚ゴブリン相手に霞の後ろに逃げるなんて恥ずかしくてできないからな!
大人である事と男であることの矜持を少しでも保てれば…よし、訓練しようか!
なんだかんだと全員がトレーニングルームに入って各々訓練を始める。異世界人補正よ、あてにしてるぜ! なんて考えてみれば、俺の腹…かなり引き締まってきてるよな。この世界に来てからまだ1月も経っていないのに、こんなダイエットメニューがあれば大儲けも夢じゃないのになー… いや、セコい考えは止めよう
非戦闘員に求められるのは戦闘力じゃない、危険を察知する能力と逃げ切るための体力、そして瞬発力が重要だと思っている。後方支援である以上俺が倒れたら戦闘職の者が先に進めなくなってしまうからな。まぁこれもゲーム的な見方ではあるけど、いずれカオリとレイコのように美鈴と霞も独立していく事だろう。そうなった場合に、2人に依存した状態だとマイホームに引きこもるしか手段が無くなる、なんてみっともない状況には絶対にしたくないからな。
頑張って3時間ほど基礎体力をつけるための訓練を行い湯船に体を沈める
「だはー、野営中なのに湯船というのは素晴らしい。マイホーム最高だぜ!」
マジでそう思う。最初の馬車での移動中は、ヤンキー君を始め、別馬車だった4人の体臭はひどかったもんなぁ。でもこの世界ではアレが普通なんだ、昨日泊まった宿にお風呂が無かったから、湯船に入ること自体あまり無いのかもしれない。そんな生活は俺はしたくないのでマイホームの恩恵を腹いっぱい享受して生き抜いておこう! 改めてそう思った。
SIDE:第3王女、マイル
「はぁ…憂鬱ですわ。アレに抱かれなければいけないなんて、しかも子を産めだなんてお父様も少しは考えてくれればいいのに」
勇者を長女に、賢者を次女にとられて必然的に三女のマイルは残った大魔導士と婚約する事になっていた。妹の四女は国外に留学しているため、まだ数年帰ってこないので押し付ける事も出来ない。それもこれもあの大魔導士の職に就いた異世界人が悪いと思っている。
ぶよぶよと無駄についた脂肪は自制心の弱さを表していると思っているからだ。自身は今のプロポーションをキープするために多大な努力をしているから殊更そう思ってしまうのだ。王命で逃げる事の出来ない婚約なので、自身の未来のためにあの大魔導士を少しでもまともな体になるよう肉体改造を施そうと画策したのだった
あの者が異世界から召喚されてから今日で22日、魔導士なのに騎士団の訓練に参加させて搾りまくった結果、かなりの脂肪が取れて筋肉質になってきたのだった、さすがは異世界人と言ったことろだ。
しかし、痩せたおかげで少しは見栄えが良くなったのにもかかわらず、無駄に流れる汗の量は減る事は無かった…しかも臭い
「あの汗さえなければなんとか耐えられるかもしれないというのに…本当に憂鬱ですわ」
ニヤニヤしながらボソボソと喋る大魔導士が走り込む姿を遠くから見つめながらため息を吐くのだった
「お姉さま方はどのように調教しているのですかね、他国へ侵攻するのは私達が子を為してからとお父様は言っていたけれど、すでに子作りに励まれていたら困ってしまいますわ。そうなれば私にも早く作れと言われてしまいます…お父様は他国への侵略戦争を早急に行いたいからと、異世界人の訓練を急がせたいと言っていますし…もう!一体私はどうすればいいの!」
他国に留学している妹の第4王女が今すぐ帰国するよう呪いの言葉を祈りつつ、大魔導士から目を逸らして自室へ戻るのだった
SIDE:来栖大樹
マインズの町を出てから10日が経った、異世界に召喚されてから32日目だ。
移動中に一度、武装した20人規模の盗賊に襲われたんだが、霞の力は圧倒的だった。援護しようと美鈴と共に銃を構えてはみたものの、霞の動きが速すぎてフォローする間もなく殴り倒してしまったのだ。
本人曰く「弱すぎて訓練にもならないわ!」 だそうで、美鈴と一緒に驚いたもんだ。
盗賊の類は捕らえてギルドや警備隊に差し出すと報奨金が出るとの事で、早速【牢屋】を使ってみる事にした。殺してしまっても誰も困らない盗賊が相手なので、心に引っかかるものは確かにあったが必要悪だとなんとか思い込み、人体実験する事を決めたのだった
盗賊を捕らえたのが4日前、もしも何事も無く放置されている状態ならば餓死しているか、もしくはかなり衰弱した状態で生きているはずだ。そしてもしも、捕らえた時の状態のままであれば、他の扉と同じように閉めてしまえば時間の経過は起こらない、という事になる。一応目安になればと、ろうそくを立てて火をつけておいたので確認は容易だろうと思う。
「んじゃ牢屋を確認してくるから、見たくないのならあっち向いててな」
「ん、別に大丈夫だよ。私達を襲ってきた盗賊なんだし、死んでいたって何も思わないよ」
「私もそうね、少しはこの世界に感化されてるのかもしれないわ」
大丈夫そうなので牢屋への扉を出して中を覗いてみた
「この枷を外してさっさと出せやぁ! 俺達にこんな真似をしてタダで済むと思ってるのかコラァ?」
チラリとろうそくを見るとまるで減っていなかった。間違いないな、時間は止まっている。これ以上扉を開けていても盗賊どもがうるさいのでパタンと閉めてやった
「止まっていたな、これなら他にも使い道はありそうだ」
「止まってるなら完全放置でいいね。これで死なれていたら…掃除とか考えたくないね」
「全くだな、まぁなんせ検証は出来たから良しとしよう」