297
誤字報告いつもありがとうございます。
何かと騒がしい爺さんだった何かを無視して、障壁の近くに敷物を敷き、いつぞやの馬車移動で使ったクッションを置く。道具箱からお茶とおはぎが出されて休憩スタイルが完了した。
「何だお前達、その黒い食べ物はなんだ? 一つ寄こしてみろ」
「この状況でも偉そうな態度を崩さないなんて大したものね、でも気付いているかしら? あなたはすでに捕らわれているという事に」
「ふんっ! こんなもんいつでも破壊できるわ!」
「じゃあ壊してみなよ、私が作った魔法障壁… ドラゴンのブレスだってはじき返してみせるよ!」
「まぁまぁ落ち着けよ2人共。おい爺さん、この2人を怒らせたら大変な事になるぞ? 黙って言う事を聞いた方が身のためだと思うんだ」
「なんだと? なぜこのような小娘相手にいう事を聞かなけれないかんのだ。女神の加護を持った聖女ならいざ知らず、こんな小娘どもが対等の口を利いているというだけでも腹立たしいというのに」
「そうか、聖女には弱いんだな。それは良かった」
聞いてもいないのに勝手に聖女がなんちゃらと言い出したので、ここは放っておくのが一番なんじゃないかと美鈴の方を見ると… ニマニマと悪だくみをした子供のような顔をしていた。
あ… 美鈴の奴何か思いついたな? あーあ。この悪魔っぽい爺さん可哀想に。
「なになにー? 聖女は苦手なのー?」
「まぁ見た感じ、聖女というよりも聖属性がダメって感じがするわね」
「そうだねぇ、ちょっと試しに回復魔法でもかけてみようか? さっき霞に殴られて失神してたしね、打ち身があると思うから」
「回復… 魔法だと? 何を言っている、そんな物聖女しか使えない魔法じゃないか。お前ごとき小娘に出来る訳が無いだろう」
「ん? 別にそんなことは無いぞ。治癒師という職業のやつを見た事があるし、賢者だって回復魔法って使えるよな?」
「多分賢者は使えるんじゃないかな。でも治癒師はどうだろうねー、結局使うところ見なかったしわからないね」
「治癒師なんていたかしら? 私は記憶に無いのだけど」
「いたじゃない、あの金髪ヤンキーの彼女っぽい子」
「ああ…」
「まぁとりあえず回復魔法を使ってみよう! 軽いやつからね」
「何っ!? いやちょっと待て、別に怪我などしてないから使わなくても… グワァァァ!」
美鈴が殴られたであろう腹部に向かって回復魔法を使ったら、なんとこの悪魔爺さんは突然苦しみだしたじゃないか… いやそれよりも、障壁を張っているというのに回復魔法は貫通するんだな… そっちも驚きだよ。
「どうして回復魔法が使えるのだ? もう止めろ!」
「どうしても何もねぇ、実は私… 聖女なんです!」
「な!? なぜ聖女がこの時代にいるのだ!?」
「私だけじゃなくて、勇者も賢者もいるはずだよ。まぁどこにいるかまでは知らないけどね」
「くっ…」
ニマニマしている美鈴… とってもご機嫌のようだな。しかしまぁ本当に回復魔法でダメージが入るなんて、悪魔というのは難儀な物だな。しかし障壁を解除しなくても攻撃が出来るというのはいい情報だ、せっかくだからこれを脅しの材料にしてお話でも聞いてみようか。
「なぁ爺さん、結局あんたは何がしたいんだ? こんな辺鄙なところにダンジョン構えて。それにどうも人が探索出来ないよう頑張って隠蔽していたようだけど、どうしてそんな事を?」
「どうしてお前のような若造に答えてやらねばならんのだ、良いから早くこの結界を解け! そうしたらすぐに殺してくれるわ!」
「おおう怖い怖い。美鈴、なにやらお疲れのようだから癒して差し上げろ」
「りょーかいっ! それっ!」
「ギャアァァァァ! 止めろ、止めるんだー! はぁはぁ… くそっ、どうしてこんな小僧共に」
大きく肩で息をして、回復魔法を当てられるたびにどんどん顔色が悪くなって… いるような気がする。元々人間では考えられない青黒い青色だから、そんな気がするだけだ。
「貴様ら許さんぞ、殺して魔物に変えてからこのダンジョンで使ってやろうと思っていたが、これほどまでに侮辱するのであれば生きたまま魔物の餌にしてくれるわ。もう後悔しても遅いからな、今の内にあの忌々しい女神にでも祈っておくんだな!」
「こんな事を言ってるけど、どうする?」
「そうね、このまま障壁で閉じ込めておいてコアを破壊しましょう。生物はダンジョンの外に放り出されるけれど、ダンジョンマスター? なのであれば、ダンジョンと一緒に消えるんじゃないかしら」
「な!? コアには指一本触れるでない!」
「そうだね、コアは気を失っている間にもう見つけてあるからね、サクっとやってしまおうよ」
「待て! あのダンジョンコアは我が本体… あれを破壊されれば我は!」
「あらら、また聞いてもいないのに重要な情報が出てきたな。どうにも危機感が足りないんじゃないのか? どれだけ自分に自信があったのかは知らないが、そうポンポンと自分の弱点を晒け出すもんじゃないと思うんだけどな。
でもまぁ良いか。どうも生かしておくと面倒な悪魔のようだし、ここはダンジョンと共に退場願おうか。皆もそれで良いか?」
「私は構わないわ。大樹さんの言う通りこのまま放置しておくと、後々大変な事になると思うから」
「私も賛成だね。最初は確かに普通のお爺ちゃんだったけど、今の姿を見れば… ねぇ? ひょっとしたら私達がこうして召喚されたのって偶然じゃ無いかもって思えてきたよ」
「つまり、この爺さんはこれから魔王にでもなるって事か? まぁ見た目だけならあり得るかもしれないな。行動はおっちょこちょいだが」
「召喚… だと? お前達は異世界人なのか? なんと忌々しい女神だ、我が復活の時に合わせてくるとは…」
「なんか、実は本当に偶然だったんじゃないかしら。この程度の悪魔にどうこうされるような世界かしら? この世界は」
「まぁ実際に、こうして人間のフリをして何かやってたみたいだから面倒事が起きてるんじゃない? 例えば… 突然宣戦布告も無しに帝国軍がグリムズ王国に押し寄せて来たりとか」
「な!? 何故それを!?」
「え? 冗談だったんだけど、本当にそうだったの?」
「すごいじゃない美鈴、冴えているわね」
「いや、本当に冗談だったんだけど。私達がこの世界について知ってる事なんて全然無いから」
マジかよ… それがもし本当なら、この爺さんのふざけた命令で命を落とした軍人は報われないな。確かにこの爺さんの供述通りだというのなら、お仕置きでは済まされる問題ではないな。




