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誤字報告いつもありがとうございます。
SIDE:賢者君
「はぁはぁっ、もうここまで来れば大丈夫だろう。さて、グリムズ王国方面に向かうには北東のはずなんだが… 北東ってどっちだ?」
帝国軍との戦いの最中、数十人は殺してしまったが何とか戦線離脱に成功したのだ。
元々嫌だったんだよ、対人戦闘なんて。まぁここは異世界だし、命の価値は日本とは違うんだろうけど… それでもな。
そして嬉々としながら人を斬っていく勇者の姿を見ると、もう1分たりとも付き合ってられないと思ったのだ。故に逃走。
まぁ戦略的撤退というやつだな、俺の姿が無いと分かれば戦死したんだと思うだろうし、特に気にする事も無いだろう。
戦果や名声を捨てる事になってしまったが、これ以上勇者の奴と一緒にいるなんて、精神的に病みそうだぜ。どうしてあんなに嬉しそうに人を斬れるんだろうな… すでにあいつの心は壊れてしまっていたのかもしれないな。一言でいえば、もう付き合ってられんという事だ。
「荷物は全部俺の収納に入れてあるんだが… ま、俺を恨むなよ勇者」
とりあえず携帯食も非常食もそこそこ残っているし、俺1人であれば10日以上もつだろう。とりあえずやる事と言えば、現在位置の把握と食料の補給だな。帝国内だからここでグリムズ王国の事を聞くのはまずいかもしれないが、ギルドで聞けばなんとかなるだろう。
とりあえず一休みしてから動こうか。
戦場となった場所から北に向かって、身体強化をかけた状態で半日以上も走り続けたんだ、相当帝都から離れていると考えていいだろう。
帝国内の地図は手に入らなかったから、ここからは本気でサバイバルになってしまうな… まるで神聖教国から逃げ出した時のようだぜ。
しかし、あの時とは絶対的に俺自身の能力が違うからな、ここら辺にいる魔物なんて敵じゃない。不安なのは精神的な事だけだ。
「この世界に来てから初めて1人になったからな、まぁ大丈夫だろう… 決して人恋しくなったりなんかしないはずだ」
一休みするために、多少なりでも姿を隠せるような木や岩なんかを探してみると、少し離れたところに大きな岩があった。あの岩に隠れつつ、防御結界を張ればゆっくりと休めるだろう。
まぁ休む前に腹ごしらえだな、ずっと走っていたから喉も乾いたし腹も減っている。これからは量の制限なんてしなくて済むから腹一杯になるまで食べてやるとするか。
こうして岩の陰に身を隠し、収納から野営セットを取り出して火を熾して食事にするのだった。
SIDE:来栖大樹
「お、どうやらあれがダンジョンコアのようだな」
「色々と隠していたからコアもどこかに隠してあるかと思ってたのに、随分簡単に見つかったねぇ」
「それだけここのボスだった黒いドラゴンを信用していたんじゃないかしら、まぁ私達にかかれば容易い事だったけれどね」
「コアの他には何も無さそうだな… 地上に戻れる転移陣も無いのか?」
「え~! 来た道歩いて戻らなくちゃいけないの? それだったらコアを台座から外して収納し、ダンジョンを崩壊させて外に出た方が早そうだね」
「いやぁ、スポーンと冒険者がダンジョンから放り出されるのを見ているからな… アレは体験したいとは思わないぞ」
「同意ね、まぁ転移陣の部屋に繋がる扉が隠されている可能性もあるわ、まずはそれを調査しましょう」
「そうだな、転移陣が無いとコアを外せないし、外してしまえば放り出されてしまうし。探すしかないな」
「まぁでも、コアのある部屋は広くはないし、あるのか無いのかくらいならすぐに分かるでしょ。壁裏探知機もある事だしさ」
「じゃあ早速始めるとするか」
隠されていた通路を進むと、ほんの200メートルほど歩いた場所にコアが置かれている部屋に辿り着いた。しかしまぁコアのある部屋は、コア以外は何も無かったのだ。このダンジョンに出てくる魔物に対しても思ったが、どこまでもケチ臭いダンジョンだな。あの黒いドラゴンを存在させるために、他の全てを節約しているって感じなんだろうかね… まぁこうして踏破されてしまえば、せっかく頑張ったのに残念だったねとしか言いようが無いな。
後であの爺さんに伝えてやろうかな? まぁただ煽るだけにしかならないか。
「はい発見! 転移陣の位置は他のダンジョンと共通しているのかもしれないね」
「了解だ、転移陣を確認したらさっきの部屋に戻って爺さんの目が覚めるまで休憩にしようか」
「「了解!」」
なんともはや、ものの数分で美鈴が転移陣を見つけてしまった。もう少し時間がかかると思っていたけど、まぁすんなりいくのは悪い事じゃないから別に良いか。
「なんじゃこれは! 見えない壁があるではないか、ここから出せ!」
「おーおー。思ったよりも早くに目覚めてたみたいだな」
「元気ねぇ… これだけ元気だと、情報を聞き出すのに時間がかかりそうだわ」
「そうだね、殴って吐かせてみる? 霞が」
「私が殴るの? まぁ良心の呵責はともかく死んでしまうかもしれないわよ?」
「私もなぁ… 霞程手加減が上手じゃないから難しいかも?」
「まぁ着いてからで良いよ、案外素直に話すかもしれないだろ?」
「「それは無い!」」
「デスヨネー」
通路を抜けてボス部屋へと到着し、美鈴の障壁によって閉じ込めていた爺さんの方を見て… 驚愕した!
「おい、お前誰だ?」
「お爺ちゃんが化け物に変身している… なにこれ? 何かの魔法?」
「落ち着きなさい美鈴、まずは殴って黙らせましょう」
「ま、待て! お前達… 一体何が目的で我がダンジョンに来たというのだ?」
「殴っても良いよ霞」
なんと言う事だ、爺さんが… まるで悪魔のような姿になっているじゃないか。その容姿を例えるならば、バフォメットと酷似している。
ん? でもバフォメットって女性というか、メスとして描かれている物ばかりだった気がするな。でもこいつは間違いなくオスだ、胸が無いからな。まぁ記憶によれば確か両性具有とかだった気もするし、どちらでも問題は無いんだろうな… ここは異世界だし、地球世界の神話上の悪魔なんて証明なんて出来ないし、まぁ気にしなくて良いかもしれないな。
「どこかで黒ミサでもする気だったのかしら? もしかしてこのダンジョンは黒ミサを開くための会場?」
「いや、それにしてはあまりにも何もない空間だし、こんな所でミサって事も無いんじゃないかな」
「うーん、まぁとりあえず話し合いでもしてみるか。何が目的とかも聞いておきたいしな」
「そうね、せっかくこれからの生活について考えられるようになったのに、邪魔されては堪らないわ」
「じゃあ尋問開始だね!」
「尋問言うな、わざわざ話し合いだってオブラートに包んだっていうのに」




