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誤字報告いつもありがとうございます。
SIDE:ハワード伯爵
帝都に到着すると、すぐさま帝国兵がわらわらと門から出て来て戦闘が始まってしまった。
「全く… 今代の皇帝は戦争の作法すら満足に知らないのか?」
「ハワード伯爵様、それは前回の王都に攻め込んできた時に分かっていた事では?」
「まぁそうなんだがな… 宣戦布告も無しにアベマス領を急襲し、そのまま王都まで攻め込んでくるなど一国を束ねる者がしていい判断ではない。温和な皇帝だと聞いていたが、噂は噂だった… という事だな」
戦端が切り開かれてから2時間ほど経つと、勢いに勝る我が国の兵達は帝国軍を防壁の直前まで追い詰めていた。
我が軍も被害は出ているが、帝国軍の被害はもはや甚大だと言っていい状況だ。しかしなぜ降伏してこない? 門の前方はすでに死体で歩く事もままならない程になっている、なぜこうも頑なに戦い続けているのだろうか。
帝国兵の士気も落ちるところまで落ちて最悪と言っていい状況だ、それに引こうにも門が閉じられているから下がる事も許されていないという事か。
「よし、伝令を出せ! 一度下がり帝国軍に降伏勧告をせよ! 直ちに開門し、皇帝の身柄を差し出せば虐殺はしないと我が名を出して告げろ!」
伝令が走っていき、数十分後には膠着状態となる。膠着しているとはいえこちらが有利なのは変わりがないし、帝国兵も同様に思っているだろう。
今連絡が行っているのだろうが、果たしてどういう決断をするか… まぁ皇帝が鈍愚な者だったとしても、周囲にいる臣の中にはまともな者もいるだろう。
攻めるにしてもこれ以上籠城されてもたまらんからな… さっさと見切りをつけて欲しい物だ。
「それにしても閣下、奮戦していた冒険者を見ましたか? 隻腕なのに恐ろしいまでの強さを見せつけていた者を」
「ああ、あれこそ一騎当千と言うのだろうな」
確かに見た。しかし… あの顔つきと髪の色から判断するに、タイキ達と同郷の者なんだろう。引き込むべきか、それとも脅威として排除するべきか… こればかりは独断で決めるには大きな問題だな。
そう言えばタイキは言っていたな、此度の儀式召喚では10人も呼び出されたとか… そしてアニスト王国で3人囲い込んだとも。
現状把握できているのはタイキを含むパーティ『雪月花』の3人、そして王都防衛戦で特大の魔法を発動させて見せたレイコという魔法使いの4人だけだ。
あの冒険者も間違いなく異世界人だろうから、これで5人目という事か。何とも異世界人というのは途轍もない力を持っている物だな… これらの者を武器として使われたら普通の国など満足に防衛も出来んだろう。まぁ職業にもよるがな。
とりあえずあの隻腕の男は監視対象にするべきだな、もう1人傍にいたはずだがいつのまにか姿が見えなくなっている… もしかしたらその者も異世界人かもしれない、気づくのが遅れたが今からでもその者も探るべきかもしれないな。
気はすすまないが、陛下直属の特殊部隊隊長に情報を与えておくとしよう。そうすれば向こうで勝手に陛下へと報告がなされるだろう、その結果… 褒賞などと言って引き込んで来いという事になるんだろうがな。
SIDE:勇者君
「全軍一旦下がれ、冒険者諸君もだ! これより帝国に対し降伏勧告を行う、余計なヤジなどは控えるように!」
ああん? 降伏勧告だって?
ちっ、良い感じで攻めている時に余計な真似しやがって… でも仕方がないか、そろそろ帝国兵も残り少なくなってきているし、俺個人であの門を開けるのは無理だしな。
まぁここは従っておくべきか、この勇者に向かって命令できるなんて今だけだろうしな。
「おい賢者、しゃーないから一旦下がるぞ! って、あれ? 賢者の奴はどこに行った?」
一緒に出撃したはずの賢者の奴が見当たらない… おかしいな。まさかとは思うが討たれたなんて事は無いよな? 俺ですら片手間で倒せるような帝国兵を相手にやられるなんて、ある訳無いよな。
「見える所にはいないか… まぁいいか、どうせ軍としての命令なんだしアイツもきっと下がっているんだろう」
ま、その時にでも合流すればいいか。
いや待て、もうすでに戦果を見せているんだ、もう賢者の奴がいなくても問題無いんじゃね? どうせこの戦争が終わったら俺はグリムズ王国に取りたてられる事になるだろう。
間違いなく今回の戦いでは、この俺がMVP間違いないしな。それだったら無理して探さなくても良いかもしれないな…
「ああ! そういえば収納魔法、アイツしか使えないんだった! アイツがいなくなったら俺の荷物も一緒に無くなっちまうじゃん! しゃーない、やっぱり一度探さないとダメだな」
面倒臭いが荷物の件を忘れてたぜ、俺にも収納が使えたら何も問題は無いんだけどな… こればっかりは仕方がない、もう皆はすっかり下がっているので俺もついて行かなきゃな。帝国もこれだけやられたら戦争の継続は無理だろう、もう降伏しか残されていないはずだ。
面倒だったが対人戦闘の経験がつめたから俺としてはラッキーだったな、人間を殺してもそれほど何も感じなかったし、結構向いてるんじゃないか? 俺。
SIDE:来栖大樹
「どうだ? 何か見つけたか?」
「んー、どうやら5階層の時と同じで、意図的に隠しているみたいだね。ちょっと真剣に探してみるよ」
「了解した。霞は美鈴の護衛をしてやってくれ、何も無いとは思うが一応な」
「分かったわ、大樹さんはどうするの?」
「どうしようか… 正直この場所で俺の出番は無いんだよな、まぁ俺も適当に探してみるさ」
そんな訳で、手分けして次の階層への階段、もしくはダンジョンコアが置いてあるはずの部屋の扉を探し始める。
この空間は結構広いからな… なんせ大きな黒いドラゴンが動き回る事が出来るくらいの広さがある、意図的に通路や階段を隠しているなら探す事は困難だと思う。
ふと美鈴の方を見ると、入り口とは反対側に移動して捜索を始めるようなので、俺は入り口の方でも見に行ってみるか。通路から魔物が入ってくるかもしれないし、そっちの方も確認しておこう。
一応通路や階段が見つからない可能性もあるからな、つっかえ棒にしている槍は外さない方が良いだろう。こんな所に閉じ込められても困っちゃうしな。
捜索を開始してから2時間ほどが経ち、そろそろ昼飯でもと思い美鈴の方へと歩いて行く。
うん、俺の方でも色々探してみたが、全然見つからなかった。美鈴と霞も同様に動いているのであっちもまだ見つかっていないんだろう、一体ここのダンジョンを作った奴は、どういった意図で隠しているんだ? そこまでして隠したい何かがあるって事なのか?
こうなりゃ意地でも見つけてやらないとな、何かそういった道具があっただろうか… 昼飯が終わったら少し見てみるか。




