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誤字報告いつもありがとうございます。
よし! 命中!
すっかり強化された俺の目で見えた物は、銃弾が口内に飛び込み、そのまま貫通して後頭部から抜けていった場面だった。
黒いドラゴンは口の中に黄色い光を残したまま、ぐらりと脱力し、断末魔をあげる事無くズシンと轟音を立てて倒れ込んだ。
「よっしゃ! 俺達の勝ちだな!」
イヤーマフを外しながら思わず声を上げ、ガッツポーズを取ってみる。そして横にいる美鈴の方を見ると… なんだその微妙な顔は! もう顔だけで「あーあ、そういう事をやっちゃうんだ」って読み取れるぞ!
振り返って霞の方を見てみると、イヤーマフを外しながら口をへの字にして、こちらも微妙な顔をしている…
ちょっと待ってくれ、まさかとは思うがあのドラゴンを相手にガチ戦闘でもしたかったって言うのか? 確かに美鈴の障壁であれば、ドラゴンのブレスだって防ぐ事は出来るだろう。だって聖女だからな。それにしたって角度によるとはいえ対物ライフルの銃弾を弾くような鱗だったんだぞ? それを相手に近接戦闘は無理じゃないか? ミスリルの剣だって普通に弾かれると思うし、霞が持っている武闘家のスキルだって効くかどうかも不明だし。好機をモノにする行動は間違っていないはずだ!
「大樹さん… これが漫画やアニメだったら苦情が殺到して打ち切りになるレベルの行動だったよ? 今の」
「そうね、大樹さんがなかなか撃たないから、私はてっきり美鈴の障壁を待っているのだと思ったわ」
「いやいや、大チャンスだっただろ今の。あの好機を逃したら次は無いかもって思うだろ?」
「まぁ言いたい事は分かるよ、傍から見れば打ち切りレベルの行動だったとしても、私達にとってはそれどころじゃないからね。でも今のは… 私もブレスに合わせて障壁を展開する準備は整っていたのにって」
「そうかもしれないが! 昔の人は言いました、『勝てば官軍負ければ賊軍』と。だから大丈夫だ!」
「「うーん…」」
何やら納得のいってない顔をしているが、良いんだよ! 勝ったんだから!
ふと黒いドラゴンの方を見ると、巨体のせいかゆっくりとダンジョンに吸収されていっている。じわじわとその姿が小さくなっていくのが見て取れる。
「まぁ、勝利したのは事実だし、あのドラゴンのドロップを見に行こうよ。これまでの経緯を見たら宝箱は無いと思うから、ドロップに期待だね」
「そうね、あのレベルの魔物がいたんだから恐らく最下層と思って良いかもしれないわ、コアもあるか見てみましょう」
どうやら気持ちを切り替えたようだ、それは何よりだな。
つっかえ棒代わりにしていたミスリルの槍はそのままにして、ドラゴンがいた場所に向かって歩き出す。遠目から見ても、何やらキラキラしている物が見えているので、ドロップは普通にあるようだな。
しかし… あのキラキラ、まさかとは思うがドラゴンからも魔石だけとかあり得るのか? もしそうならどんだけけち臭いダンジョンなんだよって感じだな。
「あー、魔石だねぇ。サイズは確かに大きいけど… それと鱗かな? 結構大きいね」
「そうね、ゲームだとドラゴンの鱗は貴重品で、良い装備の素材に使われている物だけど、この世界ではどうなのかしらね」
「まぁ持ち帰るしか無いだろう。ミスリルを扱える鍛冶屋ですらあまりいないみたいだったから、ドラゴンの鱗を加工できる職人は… 期待できないかもしれないな」
「じゃあとりあえず倉庫の方によろしくね、不良在庫になるかもしれないけど」
「仕方がないよな、じゃあ次の行動に移るとするか。下に向かう階段か、最下層と言うならコアが設置されている部屋があるはずだ。それを探そう」
「「了解!」」
こうして初めて遭遇した生きたドラゴンとの戦いは、近づく事無く遠距離攻撃のみで完了した。うん、俺は間違っていない!
SIDE:ガスト帝国、皇帝
「なっ!? なんじゃと? まさか黒竜が倒されてしまうとは… まずい、まずいぞ! 黒竜が倒されてしまったのならもうダンジョンには防衛する手段が無いではないか!」
まずいまずいまずいまずい。
最奥には我が本体とも言うべきダンジョンコアしか残されておらぬ… 今からでも侵入者を殺しに行くか? 果たして今から向かっても間に合うかどうか… それに黒竜を倒せるほどの者となれば、まだ力の戻っていないこの身では対応も難しいだろう。
考えろ、この場を離れてダンジョンへと向かったら、ここで起動している魔法陣は止まってしまう。せっかくここまでの人数を集めたというのに全てが無駄になってしまう… はっきり言ってそれもまずい、女神に魔法陣の痕跡を知られてしまえば次の行動が取れなくなってしまうから、発動してしまった今の内に全てをやり切るしかない。
だがしかし! ダンジョンコアを破壊でもされようものなら、我が存在は消えてしまうかもしれん。別のダンジョンのコアを乗っ取ってしまうのが一番手っ取り早いが、今から他のダンジョンに行く時間など無いだろう。
悩みながらも窓の外を見つめて、現在の戦況を見てみる。
どうやら敵方に凄腕がいるようで、帝国兵がバタバタと倒されているのが見える。あの魂も魔法陣で吸収しているはずなのだ、それをみすみす逃すのはあまりに惜しい。
それにしてもあの人間、片腕のようだが随分な手練れのようだな。
ん? この気配は? まさかあの人間、勇者か!?
まさか我が存在に気づいて討伐に来たとでもいうのか? という事は、今ダンジョンに侵入している者達は勇者の仲間という事か?
いや待て、確かにあの者は手練れに見えるが、あくまでもこの戦場にいる者の中ではというだけの話、あの程度では我が身に傷をつける事すらできないだろう。つまり仲間であれば、勇者より強いはずはないという事だ。ならば全く関係の無い強者が偶然我がダンジョンに入ったという事だろうか… 何と運の無い。
だがこのまま考えていても八方ふさがりなのも事実、ダンジョンコアは一応隠蔽してあるから即座に発見されることは無いだろうが、時間の問題であるな。
どうする… ダンジョンに向かったとしても黒竜を倒せるほどの者に今の力では対抗できるとは思えん。発見が遅れるのを願いつつ、この戦場で魂をかき集めて力を復活させるか。
まぁそれが一番間違いのない判断なのだが、果たして間に合うかどうか。
我が本体と言えるダンジョンコアが破壊されてしまうと、その後どうなってしまうのかは分からない。死ぬ… つまりは消滅してしまうのか、今この場にいる分体が独立できるのか… これは経験したことが無いから何とも言えない。
しかし本体を放置する事は出来ぬと我が魂が訴えておる。仕方がない、博打になってしまうがこの場で魂の吸収に努め、ある程度力の回復が見えたらコアの防衛に行く… そうするしかあるまい。




