③
ガタゴトと揺れる馬車内で、今まで感じなかった違和感。きっとこれが魔力だと当たりを付け指先に集めてみたり全身を循環させたり試してみる。ちょっとコツを掴んだ気になったので休憩…。ふと腕時計を見る。現在午後2時を過ぎた所だった。出勤途中で召喚されたから、もうこんな時間か…と感じてしまう。マイホームベースの説明には『亜空間にあるホームベース(拠点)との扉を繋ぐ』と書いてある。まだ使った事がないからどういった物かは不明だけど、移動中に発動していい物かどうか…と考え、このホームベースのスキル? は、馬車が止まった時に試してみようと思う。暗くなったら野営とかするよね? きっと。
「ねぇおじさん、おじさんのマイホームベースだっけ? なんとなく能力の想像がつくんだけど、すっごく期待してるからね? その名の通りだとすると…きっと家とかを呼び出すんでしょ? こんな馬車じゃ満足に寝れないだろうし、国境を越えて逃げた後もすごく重宝すると思うんだ。あんな刀を持たない侍なんかよりよほど有用だと思うんだけどね、あの王様も他の人も見る目が無いよね」
「それを言うなら聖女を無能呼ばわりする方がアホすぎるよな」
横を見ると美鈴もどうやら休憩してたらしく声をかけてきた、ふむふむ、家を呼び出すか…。まぁ普通ならそう予想できるよな。とはいえ、美鈴がどんな子かわからないのにネタばらしをするわけにはいかんな、俺を騙して利用するような腹黒かもしれないし。
「その点武闘家はいいよな、手足が武器になるんだから」
さりげなく霞にも話を振ってみる、この子は見た目は真面目そうだけど、実際に真面目過ぎると却って邪魔になりそうだからなぁ。法律も倫理観も違うであろう異世界でも日本の常識で動こうとするかもだし、そんな事されたら致命傷になりかねない。飢えた子供が物盗りのために刺してくるかもしれないし、その辺のお国事情も知っておきたいところだ。
「急に武闘家と言われても、はっきり言って困ってしまうわ」
「まぁそうだろうな、俺も自衛の手段を考えないとな… 女の子に張り倒されて殺されるなんてないように」
「……」
霞は黙ってしまった。ちょっと今のは大人気なかったかな、まぁ牽制するに越したことはないだろう。
その後、尻が痛いのを我慢しながら数時間が過ぎ 周囲が薄暗くなったあたりで馬車は止まった
「今日はここで野営をする、逃げようなんて考えるなよ」
兵士が馬車を覗き込みそう告げていなくなった。馬車から降りてあちこち痛くなった体をほぐす様に伸ばす。
乗せられた馬車は普通の幌馬車で、監視されているけど出入りに関しては何も言ってこないようだ。隊列は、先導している1号車がヤンキー君達を乗せた馬車、俺達が乗っているのが2号車、そして何か荷物を積んでいたのが最後尾にいたようだ。そして騎士みたいのが馬で囲いながら移動していたみたいだな。 おっ! 最後尾の馬車の近くで火を起こして鍋を出している、アレは騎士達の食糧を積んでいたのか。
こっちの食い物はヤンキー君がパクっていったから無いんだけど… マイホームに入ってみるか、朝から何も食べてないから腹減ったしな。
「さて、じゃあちょっと俺は外に出るよ。 女の子ばかりの空間は居心地悪いからな」
「ん! マイホーム使うの? 私も連れてって欲しい」
美鈴が即座に食いついてきた
「いや、初めて使うから検証が先だ」
「私もその検証を手伝うよ。むしろ手伝わさせて」
「はぁ…。大人しそうに見えるけど、結構グイグイくるね」
「そりゃ自分の命が懸かっているからね、おじさんとも仲良くなりたいし」
「止めといた方がいいと思うけどな」
「ん、そんな事は無い。大丈夫」
何が大丈夫なのか…と突っ込むのは止めておこう。堂々巡りになりそうだ。
マイホームベースの説明を見る限り、扉を繋ぐとなっているからには扉が出るんだろうと予想。 馬車の荷台の中では幌の高さがそれほどでもないので外でやる事にした。当然美鈴もついてきている、霞に至っては我関せずといった感じなので放置でいいだろう。
集中して扉をイメージしてみる、さすがに声に出したりはしない。すると目の前にスーっと鉄製の扉が現れた。本当に出るんだって思いながら扉を開けてみる
「ん?何してるの? 怪しい行動に見えるけど」
「おや? もしかして見えてないのか?」
「え? 何かあるの?」
「ああ、マイホームに繋がる扉があるんだけど」
「えええ? 何も見えないよ」
とりあえず扉の中を覗いてみる、すると… マイホームベース内部の情報が一気に頭に入ってくる感じがした。部屋の事、シャワー室や浴室、台所やガレージ。そこでスキルが成長することによって可能になる事象などが頭に入ってきた。
「えー ちょっと! 上半身が消えちゃってるんだけど?」
「ん? ああ ちょっと内部を覗き見してたんだけど。 そうか 見えなくなるのか、使えるなコレ」
「私はどうやったら入れるのかな」
「んー 手でも繋いでみる?」
「むー、確かにそれはありえるかも」
若い女の子と手を繋ぐなんて…と、今更ながら照れていると美鈴の方からガシッと手を掴まれた。その手を引いたまま扉をくぐってみると… どうやら入れたようだ。
中に入ると普通に旅館くらいの広さの玄関があった。 靴を脱ぎいよいよ中に侵入…
「わぁすごい! ちょっとしたホテルのロビーみたいだね」
マイホームベースの中に入ったことで、更に情報が頭の中に入ってくる。建物の間取りも自然に理解できている。
「まずは飯だな、朝から何も食べてないしな。軽く作って武闘家ちゃん…じゃなくて、霞ちゃんだったな… さすがに放置するのも気分悪いから差し入れようか」
「うん、さすがに放置してってのはね」
「まぁ雑な料理になるけど、ささっと作るか」
という訳で、男の料理の定番カレーを作る。特にひねりもない普通のカレーだ。食材は色々と揃っているが、いかんせん詳しいレシピを知らないのでしょうがない。得意技はチャーハンってあたりで察してほしい。
「よし、1回戻ろう。 はい、水を持ってね」
美鈴に水の入ったピッチャーを渡し、俺はお盆に3人分のカレーライスとコーンポタージュを乗せる
2人で玄関から出て 馬車の荷台に入る
「ほら、俺の手作りカレーでいいなら食ってくれ」
もうすでに真っ暗になっているのでスマホで明かりをつけて 霞にカレーを差し出す
「え?あ…ありがとう」
3人で黙々とカレーを食べた。