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誤字報告いつもありがとうございます。
「やあ、なんか待たせた?」
「まぁ大した情報が無かったからすぐに終わっただけだ、そっちは何かあったのか?」
「あはは、しつこくナンパしてきた冒険者をボコってきたよ!」
「マジか… 何をやってるんだよ」
けろりとしながら恐ろしい事をのたまう美鈴… 暴力事件とかはまずいんじゃないか?
「いやね、依頼表を見ながらうろうろしてたら声をかけられてさ、探し物をしているから付き合っていられないって何度も言ったし、ここにはパーティで来ているから私の判断で勝手に動けないって言っているのにしつこくて… ギルド内だと追い回されそうだったから一度外に出たんだけど、そしたらついてきちゃってね」
「なんかご愁傷様ね。じゃあとりあえずこの町から出た方がいいかもしれないわね、ナンパな人なら平気で噓を吐いてこっちを陥れてきそうだし、問題になる前に離れてしまった方がいいわ」
「そうだな… 南西の方角だったっけ? もう向かってしまうか」
「南西? もしかしてダンジョンがある場所の事? それなら行っちゃおうよ!」
美鈴がボコったという冒険者が戻ってくる前に、さっさと退散してしまおう。どれほどのレベルでボコったのかは知らないが、ちゃんと手加減しているならすぐにでもギルドに来そうだしな… もちろんちゃんと手加減できていたらの話だが。
ほんの数秒で会話を終了させ、さりげなくギルドを後にする。立つ鳥跡を濁さずってやつだな… 静かに、そして速やかに消えてしまおう。
「いやぁ、魔法障壁の新しい使い方を覚えちゃった! しかもヤバイ方向で」
「へぇ、どうヤバイのかしら?」
「多分ね、硬度とか防御力を完全に無視して切断できちゃうんじゃないかなって思ってる。これは今後試してみて判別するけどね」
「え? 防御無視攻撃? ゲームだとラスボスとかが使ってくるようなアレか?」
「うんうん、使い方次第ではお城だって両断できると思うよ。まぁ現状では無理かもだけど」
なんだおい、何がどうなってそんな恐ろしい技を覚えてくるんだ? 冒険者をボコったって言ってたけど、これは詳しく聞いた方が良さそうだな。
「それはさっき言ってた冒険者とのいざこざで使ったのか?」
「うん、まぁ偶然だったんだけどね。いやぁ私もびっくりしたよ、相手の持っていた剣がパキーンって斬れちゃってさ、斬れた刃の方が当たるかと思っちゃった」
「つまりどういう事かしら? いまいちよく伝わってこないのだけど」
「つまりね… 私がよく使っている魔法障壁というのは、障壁自体はこの世界の物理干渉では押す事も引く事も出来ない。これはいつも障壁ビンタしているから何となく想像できるでしょ?」
「そうね、重量があるはずの魔物とかの突撃を受けてもビクともしないし、逆に障壁を動かして攻撃に転じれば、ダンジョンボスだったドラゴンゾンビですら壁まで吹き飛んでいたわね」
「そう。どういう理由かは分からないけど、壁として機能しているのに打撃や魔法の干渉を受けていない… だからなのかもしれないけど、障壁を展開しようとした空間にすでに物体があった場合、その物体を無視して障壁が展開されるのよ。
そして障壁が展開されたと同時に、その物体は障壁の前後で繋がりが切れてしまい… つまり障壁を間に挟み込む事で、その物体を切断してしまうって事だと想像しているの」
「つまり… 今後障壁を自在にどんな大きさでも展開できるようになれば、さっき言っていた城でさえ切断できるって話になる訳か」
「そうそう! なんていうか、展開された障壁は最初からその場所にあった物… そう認識されているんじゃないかなって」
「それが本当ならとても恐ろしい攻撃方法になるわね… 美鈴は実は聖女じゃなくて魔王だったんじゃないかしら?」
「あははは! 個人的には魔王の方が格好良いと思うけどね!」
つまりだ、地上に対して平行になるように… そして広範囲に展開できるとなれば、列を作って進軍してくる軍隊であったり、押し寄せてくる大量の魔物なんかを一瞬でバラバラに出来ちゃうって事か。確かにそれは魔王の技かもしれないな… まぁ実際に使う魔法は防御魔法である魔法障壁なんだから、そう使おうなんて誰も思いついたりもしないだろうが。
「まぁ実際には、結構大きめに障壁を張る事は出来るけどあくまでも自分の周囲なんだよね。これを攻撃方法として利用するんであれば、もっともっと空間把握能力? 上げていかないと厳しいと思ってる。
まぁ狙った空間に障壁を展開できるようになれば、きっと最強になった瞬間だと思うよ!」
「なんて恐ろしい子なんだ… そしてそのための練習をやるつもりなんだろ?」
「そりゃぁもちろんだよ。手札は何枚あったって良い事だし、その中でも切り札になりえる魔法な訳でしょ? 練習しないという選択肢は無いよね」
「まぁそうだよな… 俺だってそれほどの必殺技ができるんなら、使いこなせるよう練習するだろうし、何よりもそれほどの威力があるなら失敗は出来ないからな」
「そうそう! うっかり味方をやっつけちゃってから「間違えた!」なんて言っても大問題になるでしょ。それが怖いから練習しないとって思ってる」
「なるほどな… まぁ基本的に魔法障壁と言えば防御魔法だし、美鈴がそれの訓練をするというのであればパーティとしても利益がある事だ。むしろ支援するくらい考えているが」
「そうね、私も大樹さんも物理的な攻撃専門だから、美鈴がその方向で腕を磨くというのなら言う事は無いわ。でもそうなると… ミスリルハンマーは封印かしら?」
「それは無い! あのハンマーは私の看板武器だから!」
「なんだよ、看板武器って」
しかし切り札か… なんか格好良いよなそういうのって。普段は守りの壁に使っている魔法でも工夫次第でそんな事になってしまうと言うなら、俺が持つマイホームベースでも何か変わった使い方が出来るんじゃないか?
定番とか常識にとらわれず、普段と違う使い方について今後考えてみる必要があるかもしれないな。
とはいえ、牢屋の扉については考えている使い方はあるんだよな。ダンジョン内に出てくる魔物のように、勢いつけて突撃してくるだけの大軍団が相手であれば、俺の目の前に牢屋の扉を向こう向きで開いてやれば、勝手に牢屋に突っ込んでくれるのではないかと考えた事はある。
後ろから更に魔物が突っ込んでくるから引き返す事もできないだろうし、俺の持つ銃火器だけでは殲滅できない場合に良いかもしれないと思ってる。
牢屋から出す時だって、俺の意志で強制退去させる事が出来るから、崖っぷちとかで強制退去してやれば無傷で勝利できるんじゃないかと… まぁそんな事をすればドロップは望めないけどな。
「よし、じゃあ改めてダンジョン探しを頑張ろう! 5時までだけどね!」
「そうね、残業は必要ないと思うわ」
「賛成だな」
美鈴の声に賛同し、ダンジョン探しを再開するのであった。




