一方その頃
SIDE:第3騎士団所属、緊急輸送部隊長
「積み込んだな?それじゃあ出発するぞ!」
簡単な任務だったはずだ、ただ何も知らない子供達を国境まで連れ出し、隣国であるグリムズ王国の国土に入ってからその首を落とすだけの簡単な任務。
国王が欲したのは若くて才のある男性のみ、王女殿下が4人いるので4人いれば大当たりといった所だった。ただ第4王女殿下は隣国に出かけている上にまだまだお若いので、最悪除外されるだろうとの事だった。
実際に召喚された10名の内男は5人いた、鑑定の結果、なんと勇者に賢者、そして大魔導士の職に就いた者がいて国王は大層お喜びになった。すでに伝説と化している魔王討伐に関わったとされる最強クラスのジョブなのだ。異世界の者だから仕方が無いかもしれないが、勇者も賢者もあまりイケメンとは思えない顔立ちだが、まだまだ若く、これからいくらでも調教できるだろうと踏んでいる。 ただ…大魔導士のあの男は、だらしない脂肪をタプタプとさせていて、迎え入れた第3王女殿下がとても可哀相に思えたのを覚えている。
「ここを野営場所とする。馬車を四方から囲んで監視しつつ疲れを取るように」
順調だったはずなんだ、国王に不要と判断されて捨てられる7人の異世界人、特に騒ぐことのない4人の女と中年のおっさん、威勢のいい男女がいたが、ほんの少し脅しただけですぐに静かになったもんだ。そう、順調だったんだ。
「疲れが出てくるころだが気を抜かないようにな!任務を終えて戻れば陛下からの褒美が待っているぞ!」
部下たちを鼓舞しながら単調だった任務をただこなしていく、確かに珍しいジョブ持ちもいたが、まったく戦闘訓練をしていないので、その力を使いこなせるわけが無いと思い込んでしまっていた。街道上は全くと言っていい程魔物は出てこなかったので、完全に油断をしてしまっていたのだろう
「いよいよ国境が近づいてきた、騎士団長からあの者達を好きにしていいとの言葉をもらっている、男はともかく女は殺す前に好きにしていいからな。 ただ、俺が一番に女を選ぶがな!」
途中雨がひどく、1日の遅れが出てしまっているが予想の範疇の内だった。王都を出発して2週間が経っているため少々臭くなっているが、久々に女を好きに犯せると思い、それだけが失いつつある士気をなんとか保っていけた理由だった。自分の恋人や娼婦などを相手にするときは乱暴に出来ないからな。
キュルルルル ブオーン
「な?一体何の音だ?急いで確認しろ!」
聞いた事のない音が響いてきたため思わず飛び起きてしまった。慌ててテントの外に出ると、暗くてよく見えない何かが光を出して闇を照らしている。その光を出している何かは動き出し、街道を国境方面に移動して見えなくなってしまった。追手を出したいが、この闇夜では馬が満足に走れないため無理だった。
「おい!馬車の中を確認しろ!残ってるやつがいるかもしれん」
無いとは思いつつも部下に馬車の確認をさせる、やはりもぬけの殻だった。あの光る何かと共に全員逃げてしまったのか、これはまずい、非常にまずいんだが闇夜の為追う事も探す事も出来ないため夜明けを待つ事にした。
幸いにして馬車を壊された訳でもなく、馬を奪われた訳でもなかったので、俺は部下を1人連れて急いで王都に帰る事にした。残った部下には馬車を引いて戻るように指示を出し、夜が明けるとすぐに出発したのだった。
「我らは国軍第3騎士団の者だ!馬を2頭借りていく、代わりにこの2頭を預けていくから丁重に扱え。後日引き取りに来る」
王都に戻る途中にある街や村に立ち寄って、休み無く走らせていた馬を何度か交換しつつ王都を目指していく。馬車では2週間かかる道のりだが、このペースで走らせる事ができれば5日もあれば王都に着くだろう。王都に着き報告が済んだ後、俺はどのような処罰を受けるのか身が縮むような思いだ。
しかし仮にも部隊長を任命されている立場で逃げる訳にもいかず、ただひたすら王都を目指したのだった
「陛下に緊急報告有り!大至急取り次ぎを!」
王城に到着し、門を守る同僚に伝令を任せると、急いで身を整え謁見の間に向かう。どれほど急いでいたとしてもそのまま陛下の前に出ると罰せられるためだ。
謁見の間の手前にある控室に入り呼び出しを待つ、この失態に対し、俺はどのような罰を受ける事になるのか、陛下の機嫌で罪の重さが変わってしまうので少しでも機嫌が良いと助かるのだが…
そして俺は謁見の間、陛下の御前に出る事になった。
「申し訳ありませんでした、輸送していた異世界人7名取り逃がしてしまいました」
俺は覚悟を決めて陛下に報告をした。しかしその場の空気に緊張感をはらむ事は無かった、不思議に思ったが勝手に顔をあげて見渡す事も出来ず、ただ陛下の言葉を待った。
「ふん、まぁよい。辺境で逃げられたのなら勝手に隣国へ向かっているだろう、ならば足取りを追うのも容易いはずだ。お前には新たな任務を与える、旅人に扮して異世界人を追い、動向を探ってくるのだ。いくら召喚されたなどと騒いだところで信用されるとは思えないが、我が国に対して変な噂が立っているようならそれを訂正しておけ。部下の中から3人選びすぐにでも出立しろ」
体罰的な事は無かったが、ある意味これも罰なのだろう。指示に従い俺は王都を出る事となった。3人の部下には申し訳ないと思うが勅命なので諦めてもらおう。4人分金貨4枚が支給され、隣国グリムズ王国へ旅立った。
「あの者達の容姿を覚えているな?冒険者ギルドと宿屋をメインに聞き込みをしながら進んで行くぞ」
王都を出てから20日を過ぎた頃、隣国に入って最初の町に着いた。俺達は旅の冒険者パーティを装ってギルドへ向かい情報収集を行った。辺境の田舎ギルドらしく簡単に情報は入ってきた、あの者達はこの町で冒険者登録をして行ったと。ただ問題なのは、男が1人女が4人のハーレムパーティだというのだ、男の方は中年男性との事で、口だけだった若い方ではないようだ。残りの2人が気になったが、人数の多い方を追う方が楽だと思い、優先順位をつける事にした。
「この国の王都方面に向かって行ったとの話だ、次はマインズの町で情報収集だ。あそこの町にはダンジョンがあるから、もしかしたら留まっているかもしれん」
それから6日後、俺達はマインズに辿り着き情報収集を開始した。